第4話 ダンジョン配信part2

「ダンスレです♡今日はざぁこどもに、スライムの倒し方、教えちゃうぞー!有難く思え!」


奏はダンチューバーの「ダンスレちゃん」になった。

普段の奏と全然キャラが違う。

休憩室でタバコをスパスパ吸っていそうな女子なのに、今の奏はメスガキキャラだ。

完全にオタクを殺しにきている……


「スライムは最弱モンスターだけど、近づきすぎると危険!液体の身体で潰されて、ざぁこどもは窒息しちゃうよー♡」


かわいい声で恐ろしいことを言っている。


≪ダンスレちゃんかわゆ≫

≪ダンスレちゃんに潰されたい≫

≪一緒にスライムに入ろう♡≫


コメント欄は、我が妹に不埒な感情を抱く輩でいっぱいだ。

兄としては複雑な気持ちだ。


「スライムには棍棒なら2発、銅の剣なら1発で倒せるよ。レベル1なら接近戦より魔法で倒そう!あ、ざぉこどもに無理か?」


≪ダンスレちゃんに殴られたい≫

≪俺と接近戦しようぜ!≫

≪俺の剣を見てくれ≫


ダンスレは過激なメスガキキャラをやりながら、ダンジョン攻略に役立つ情報を発信している。

今、同接は5000人だ。 

ついさっきまで1000人だったのに、急に増えている。

Twitterでの宣伝が効いたらしい。


「おらぁ!ざぉこスライム死ねぇぇぇ!」


スライムは銅の剣を振り上げる。


「スラッシュ!」


銅の剣が白く光る。 


——ズバッ!


「ぎゅるるるるるるるるるるぅぅぅ!」


スライムは掃除機のような断末魔を上げ、消滅した。


≪大勝利!≫

≪パンツ見えたwww≫

≪俺のスライムが固くなったぜ≫


スライムの消えた跡に、小さな魔石が落ちていた。

ダンジョンの外で売れば、豆粒ほどの魔石でも10万円にはなる。


「じゃあね!ざぁこども!チャンネル登録しないと殺すからな♡」


配信が終わった。


「お疲れさま。奏」

「本当に疲れたよ。お兄ちゃん……」


奏が俺に抱きついてきた。


「ど、どうしたんだよ?突然」

「いいじゃん。あたしだってたまにはお兄ちゃんに甘えたいからさ」

「そうか」

「また昔みたいに、頭撫でてよ」


探索者は過酷な仕事だ。

いくら奏が強い女の子でも、まだ社会人1年目だ。

いろいろ大変なんだろう。


「よしよし」

「落ち着く……」


子どもの頃してたみたいに、俺は奏の頭を優しく撫でた。


「本当はね、お兄ちゃんに感謝してるんだよ。お兄ちゃんが大学の学費出してくれたり、探索者の初期装備を買ってくれたりしたから……」

「いいよ。俺の妹だから」

「お兄ちゃんがいなかったら、今のあたしはなかった」


俺たちの家は貧乏だ。

奏より先に社会人になった俺は、奏の大学の学費を出してやった。

奏が探索者になった時も、初期装備を俺のボーナスを使って買った。

兄として、当然のことだ。


「今度はあたしがお兄ちゃんを助ける番だから」

「ありがとな……」


ふと、俺はPCの画面を見た。


≪めっちゃくちゃいい話やん≫

≪泣いたわ≫

≪ダンスレちゃんの兄貴、すげえいい人じゃん≫


「ヤバい!配信切り忘れてた!」

「え?」



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