第9巻 恋ぞ積もりて
帝は皇子への譲位に賛同した。皇子の即位に伴い、葵は皇太后様となられた。
一位様には三位野本ゆうこがなるはこびであったが、野本は辞退し、西丘を去って出家した。「またこれで黒幕候補が消えた」とゆうひはつぶやいた。代わりに一位の宮様となられたのは藤本ゆうひだった。
華の会は今以上に権勢を振るった。一方で、藤本ゆうひと葵の距離が近くなっていることに皆が勘づきはじめた。その様子を中園らはよく思っていないようだった。あまり皇太后さまと仲良くなさらないように、と忠告する中園を見て、「中園も黒幕候補ではなくなった」とゆうひはまたもつぶやいた。
帝の地位を退いた金山は、幼き帝の父親として力を持ち続けた。
金山は、葵のために、西丘の離れに新たな館を立てた。葵と金山は、完成した館を見て回った。豪華できれいで、木のぬくもりを感じる館だった。高校の頃、小ホールとして使っていた場所だ。まるでそっくりだった。
「まぁ中庭まで」廊下から見える花々を見て、葵はにこりと笑った。
館の一階には大きな居室と寝室があった。地下には着替えの部屋と倉庫と女官の控え室があった。この控え室を葵は赤石まあやに与えた。
お風呂もお手水場も館の中にある。全てが揃っていた。
「嬉しゅうございます」と葵はもう心はないという本心がバレぬよう、金山に笑みをこぼした。
「今宵は泊まっても?」と金山は葵の手を取って言った。
「申し訳ございませぬ。月のものが」
「それならば仕方あるまい」
そういうと金山は東野へと帰っていった。記憶を取り戻してから、どうしても金山を受け入れることができない。何日経っても一度芽生えたその気持ち悪いという感情を無視することはできなかった。
葵が皇太后になるにあたり、浦安が29位と昇進して、御髪下ろしとなった。代わりに葵の第一女官となったのは、青山だった。
皆が寝静まり、青山が魔の廊下の向こうの居室へと下がった頃、まあやが慌てた声で寝所の葵に起こすと、地下の倉庫へと引っ張っていった。
そこはたくさんの道具や袿が並べられている場所だった。
「これ見て」
まあやは棚の下から何やら大きなものを取り出した。段ボール箱だった。その箱の中には、たくさんの携帯電話が入っていた。その中には葵のものもあった。
「これ、どういうこと……」
「この館、見たことあるって思ったんだけど、高校にあった小ホールだよ。つまり、西丘にも首謀者がいるっていう仮説は正しいんだよ」
葵は電源を入れてみた。驚いたことに、電源が入り、正常に機能した。メールも電話も使うことができる。
「使える。電波が通っているの?それとも電波以外の何かが通っているの?」と葵。
「なんでもいい。つまり、使っている人がいるってことだよ。文よりも、携帯が便利って気づいたんだ。それに、携帯でやり取りする必要があるってことは敵は複数人いる。よし、携帯を私たちも使おう。文でやりとりしていては、いずれ私たちの企みがばれる。携帯で味方を連絡を取り合おう」まあやは言った。
葵に館が与えられたことで、葵の元へは人の出入りが比較的自由にできるようになった。藤本、赤石、長谷部、芽衣はこっそり葵の館に集まると、膨大な携帯電話の中から、自分のものを見つけだした。
「この中に無い携帯を探せば、黒幕がわかるのでは?」と芽衣。
「こんな膨大な数の中から探せるかしら?それに、どれが誰の携帯かわかる?」とゆうひ。
「トプ画が変わっている人がいたら、その人は黒幕だよね」と長谷部は言った。
「そうだけど、そんなバレバレなことしないでしょ」とゆうひ。
「携帯に貼られたプリクラとか、壁紙から、誰の物なのかわかるかも。パスワードをかけていない人もいるかもしれないし。何もしないよりは何かしたほうがいい。やってみる」
まあやは言うと、携帯を一つ一つ電源を入れていった。
「でもこれ充電無くなったらどうするんだ?」と長谷部が言った.
「コンセントがあればいいのに」
次の瞬間、壁にコンセントができた。
「待って、願ったものが現れるってこと?」とゆうひは言うと、目の前に、充電コードを作り出した。
それを用いると、携帯の充電ができた。皆、驚いて顔を見合った。
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