第23話「辛口レビューがしたいそうだ」

 ヨミもさすがに再生数が減ったのが堪えたのだろう、俺が書いてアップロードして寝たのだが、翌朝にはヨミのチャンネルでプレミア公開の枠を抑えられていた。やはり俺の小説はフリー素材扱いのようで、昨日アップロードしたもののレビューを予告している。ご丁寧にタイトルに『辛口レビュー』とつけている。夜に公開なのだが朝から数人が待機している。


 よほど暇なのだろうか、朝から待機しているやつを暇なものだなと思いながら登校の準備をした。しかしライブ配信ではなく予約投稿か……昨日アップロードしたのが夜の十一時くらいだから、そこから朝までの間に収録したって事だよな……ヨミというのは暇人なのだろうか? ニートかもしれないな、そうでもなければ結構な眠気に今頃襲われているだろう。まあVTuberなんてものが生活リズムを規則正しくしているとは思えないので無理もないのだがな。


 そうして投稿する前にエナドリを飲んでシャキッとする。糖分とカフェインで目が覚めてくれる、結構なことだな。五十円で買える目覚ましドリンクと考えたら安いものだ。


 そして金色の缶をシンクで洗ってゴミ箱に放り込んで家を出た。昨日夜遅くまで書いていたせいで朝食を食べる時間はなかった。それでも糖分だけはエナドリで摂取出来るので問題無いと判断して急いで家を出て鍵をかけた。


 通学中にはたっぷりの睡眠と朝食を食べてきたのだろう、血色のいい連中が大勢同じ場所に向けて歩いていた。


 多分俺は顔色があまり良くなかったのだろう、みんな俺に話しかけてこようとはしなかった、いつものことではあるのだがな。


 学校について教室に入ると夜見子が気絶していた。寝ているだけなのかもしれないが、周囲の反応をまったく無視してピクリともしないので気絶しているようにしか見えない。


 津辺の方を見るとスマホを見ていた。一切操作することなくニヤけながら見ていたので声をかけてみた。


「津辺、何を見てるんだ? 面白い動画でもあったか?」


 よく見ると津辺はイヤホンをつけていなかった。画像でも見ていたのだろうか。


「見ろよ並! ヨミちゃんがまた動画を公開してくれたんだぞ!」


 そう言って嬉しそうにヨミのチャンネルで最新動画のプレミア公開を待機している様子を見せた。数人しか待機していないのに平然とスマホで延々と待つ気だろうか? 熱心なファンだなと思ってしまう。


「今から待機することもないだろう、まだまだ公開まで時間があるだろ?」


「もちろんPCも使って待機中だ。推しのためにちゃんと待機人数の水増しをすることも必要だからな」


「そんな常識は初めて知ったな……ところで待機はいつからやってるんだ?」


「動画の公開予約が二時頃だったからその頃からだな。PCの方はブラウザを開いてページを表示しておくだけで簡単でいいよ。スマホは待機に向くデバイスじゃないな」


「PCで見るために待機しているんだからスマホまで待機しなくても何の問題も無いだろうが……」


 PCならバッテリーの心配も無い。待機するだけなら常時表示させておく理由は欠片もないはずだ。


「お前はご飯が食べられるからってパンを食べられなくても困らないというのか? 確かに栄養食品だけでも生きてはいけるけどだからってそれだけで生きていきたいとは思わないだろう? スマホとPCは別腹なんだよ」


 よく分からない理論を振りかざされた。お前は本当にそれでいいのか……ガチ恋勢のやることはよく分からないな。


「夜見子は夜見子でぐったり寝ているし、このクラスには問題児しかいないのか……」


「その他大勢のことを無視するなよ、普通の人だってたくさんいるだろう。俺が単なる外れ値だってだけだ」


 津辺はよく分からない理論で俺を説得した。理解は出来ないが推しに対する熱意だけは伝わった。そして辛口レビューと言うことで津辺も俺の作品をボロクソに言うヨミに同調するのかと思うと少し気が重かった。


 自分の席に戻り予鈴が鳴ったので隣で気絶している夜見子の頬をつついて起こした。


「目、覚めたかな?」


「おはよう、文田にしては早く来たわね……」


「何言ってんだ、もう予鈴が鳴ったぞ」


「ふぇ!? マジで!?」


 そうして夜見子はパニックになりながら一限目の準備を取りだしていた。何故そんなに意識が飛んでいたのか気になったが、そんなことを考え始めたところで一限目が始まった。


 そして昼休み、相変わらず夜見のチャンネルを開いて放置している津辺は放っておいた。モバイルバッテリーに繋いでまで同接を増やすために頑張るのかとあきれたし、バッテリーがへたるし画面が焼き付くぞと注意してやろうかと思ったが、そんなことを気にするようなやつでもないだろう。


 俺は退屈な授業を聞いてノートを取っていたのだが、隣ですうすうと目がうつろな顔をして半分眠られていると釣られて眠ってしまいそうになっていた。


 そして津辺はなんと授業中だというのにスマホをバッテリーに繋いで机の中に放り込んでいるのが見えた。音が鳴ったら一発でアウトだよなあ……と思っていたのだが津辺も交友関係は広くないらしく、サイレント設定しているであろうスマホは静かなままだった。

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