第15話「ブンタの感想検閲」

 俺はその日、休日だというのにPCに張り付いていた。その原因は『グッドマン』と名乗る、MeTubeのユーザ名と同じだとしたら、ヨミ・アーカイブの動画で俺の擁護をしていたユーザだ。その『グッドマン』が俺の作品の感想欄でヨミの信者が書き込んだ嵐コメントとバトルをしていた。


 俺の作品は『しよう』の設定で全てログインしなくても感想が書き込めるように設定している。つまり荒らしが勢いに押されて書き込んでも何一つ制限されないということだ。


 俺の作品をヨミがたくさん紹介していたことが発端だったのだろう、批判コメント自体は別に構わないと思っていたのだが、まさか感想欄でレスバが繰り広げられるとは思わなかった。これでは休日だというのにまったく気が休まらない。批判している有象無象もイラつくが、擁護をしている『グッドマン』も批判コメントに即レスしているので休日に暇なのかと心配になってしまう。


『ヨミちゃんがレビューしたから伸びただけの何か、面白くはない』


 そう感想欄にコメントが付いたのでどうしたものか考える間もなく『グッドマン』がコメント返しをする。


『ヨミ・アーカイブとかいう配信者にそんな影響力は無い、ブンタさんの実力を無視したコメントは無視しましょう』


 そこからアンチとのレスバトルが広がっていった。ヨミも大概俺が何も言わないからと調子に乗っていたが、ヨミ・アーカイブもメインチャンネルを休んでいるあいだは信者を管理していないのだろう、調子に乗って好き放題している。


 しゃーない、感想を削除するか……


 とてもそれは気が進まないものだが、俺は感想欄の削除に乗り出した。気が進まない理由は消し始めるとキリが無いことだ。しかも削除をすると感想を削除するやつと評価が固まってしまう。俺はできる限り自由の方が良いだろうと思い感想欄を無制限に解放していたのだが、それが間違いだったのだろう。


 今まではヨミが概要欄に『荒らさないでね』と書いていて、建前にせよ動画内で『心ないコメントは書き込まないでね』と発言して締めていたのだが、その発言は動画の最後に言っていたので最後まで動画を見ず脊髄反射で概要欄のリンクから感想をつけるやつが大量に出てきた。


 中には『ヨミちゃんのチャンネルから来ましたw』などの感想もあり、無害なものは残しておき、明らかに悪意のあるであろうものは削除しておいた方が良いのでは無いかと考えている。


 削除の基準を考えようと思ったのだが、基準を明らかにしてしまうと書き込む方も基準ギリギリを狙って書き込んでくるだろうと思い、あえて気ままに気に食わないものを削除することにした。


 感想欄の閉鎖は考えていない。感想欄は読者との貴重なコミュニケーションだ。わざわざ書籍化もしていない小説を自分の時間を消費して読んでくれ、あまつさえ感想まで書き込んでくれたのだからそれを無碍にしていいはずもない。


 そうして感想欄の削除を始めることにした。荒れそうなものは旧ソ連もびっくりの検閲体制を敷こうかと思ったのだが、そこまで強力な検閲をすると正当な感想を送ってくれようとする人まで萎縮する可能性もあるので優しめにアウトのラインを自分の中で定めてから、そこに私情をあえて挟んで曖昧な基準で感想を削除していった。


 そしていくつかの感想を削除してマイページに戻る。「感想が書かれました」の文字が見えた。その内容が安易に予想出来たので開くのを躊躇ったのだが、これを見ないわけにはいかないことをしてしまったので仕方なくその感想欄を開いた。


『作者がコメント削除をしています、書き込む皆さんは作者が批判を削除するような人であることを理解して書き込みましょう』


 当然こういう感想が来るわけである。想定内ではあるのだが、攻撃的な感想を削除して文句を言われるのは理不尽感が半端ない。殺害予告などがくるほど治安が悪いわけではないが、人格攻撃は削除している。削除されてもしょうがないだろうと思うコメントを削除しているだけなのに、何故文句を言われないとならないのか。


 そんな理不尽を味わいつつも感想欄の検閲を進めていった。仮にも書いてくれたものを削除するのは心が痛むのだが、そういった感想ばかりになってしまうと困るので削除をさせてもらったことをつぶやいたーでつぶやき、攻撃的な感想はやめてくれと書いておいた。


 まあ……分かっていたことなのだがそのつぶやきには攻撃的なリプライがどんどんとつながっていった。


『ヨミちゃんのおかげで有名になったのに』

『レビューを禁止するクズ』

『都合が悪くなると逃げを打つやつ』


 散々な言われようだった。主にヨミ・アーカイブのリスナーから大量のコメントが届いた。DMまでくるのでメンタルをゴリゴリと削られるのだが、これを放置していると際限なく攻撃が続くのでなんとか沈静化してほしいと、穏当な言葉で諭していった。


 幸い本当に話が通じないようない相手はほとんどおらず、説得をすれば理解はしてくれる相手がほとんどだったのでなんとか話をつけることはできた。


 困ったことに感想欄の検閲にリソースを消費して本文を書く時間が減りつつあった、迷惑なことだが読んだ上での感想を放置するわけにもいかないのでそれを読みながら適宜削除を繰り返していった。

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