第24話 野外で食う飯は案外美味だったりする

「お待たせしました」


『おお、良くぞ戻って来てくれた。しかし、思ったよりも早かったな』


「この辺りは魔物が多かったので」


 僕はマジックバッグからたくさんの魔物を取りだしていく。


『短時間でこれほど多くの魔物を倒すとは。お主はなかなか優秀な冒険者であるのだな』


「まぁ、最近まで割と底辺をさまよっているような状態でしたけどね」


『お主ほどの手練れがか? そんな馬鹿な』


 僕はこれまでの境遇をドラゴンに聞かせる。


『理解した。人間というのは本当に短絡的にしか物事を考えられないのだな。スキル【魔眼】はとても優秀だというのに』


「【魔眼】に関してなにか知っているのですか!?」


『一応はな。我の一族に昔【魔眼】持ちの者がおったのだ。とても強かった記憶がある。ただ、あまりに昔のことすぎて詳しいことは忘れてしまった。だが、お主は【魔眼】持ちなことを誇ってよいと思うぞ。何しろ、【魔眼】を持っていた我の同胞は竜王と対等に殺りあっていたのだからな』


「竜王との殺し合い……」


 ドラゴンは種族ごとに一番強い個体が王として君臨する。それが竜王だ。


「そういえば、あなたの種族はなんなのでしょう」


『言っていなかったな。我は黒竜族のエラムという。』


「なるほど。僕も名乗っていませんでしたね。ラースと申します」


 心臓がバクバク音を立てる。僕はエラムをまじまじと見つめる。エラムを覆ううろこは黒くまるで黒曜石のようだ。


 エラムが自分で名乗った通り、彼は本当に黒竜族なのだろう。黒竜族というのはドラゴンの中でも特に強く闇魔法を使うことで有名な種族だ。


 黒竜族は人前には滅多に姿を現さないが、おとぎ話などにはよく登場する。そんな黒竜族の竜王といえば神々に匹敵する強さを持つという。


 そんな竜王と【魔眼】持ちが互角に渡り合っていたってまじか。種族が違うから同じくらい強くなれるとは思えないけど、エラムの言う通り、【魔眼】持ちなことはもっと誇ってよいのかもしれない。


『ラースというのか。良い名前だな。お主を追放した親が名付けたのだからあまりよく思っていないのかもしれないが、それは古の勇者の名前をもじって付けられたのだろう。大切にするとよい』


「ええ、そうします。所で、そろそろ魔物の肉を調理しても良いですか? 早くしないと肉の鮮度が落ちてしまうので」


『なにっ!? お主は料理ができるというのか!? 我は肉を生で食すつもりであったのだが。人間の作る料理は美味いからな。しかし大丈夫なのか? こんな森の中でまともに料理ができるとは思えんのだが』


「大丈夫です。一応野外用の簡易的な炊事道具は持ってますし、調味料も一通り揃えています。と言っても、僕の料理の腕前は大したことはないので、あまり期待はしないでくださいね」


 フレアが作るようなレベルの料理を求められるのはさすがに困る。


『ふむ。それでも我が作るよりは上手くできるのであろう? 我は肉をブレスで焼くことしかできん。人間の料理など長らく食べていない。作って欲しい。頼む』


「分かりました。少々お待ちください」


 僕は再びほら穴をでると、料理の準備を始めた。さすがに換気のできない場所で火を使うのはまずい。料理中は辺り一帯に匂いを消す魔道具である消臭玉を使った。


 これを使うと、周りの匂いがなくなる。料理している匂いを魔物に嗅がれたら厄介だからな。消臭玉はもちろんフレアの作った魔道具だ。ここ最近僕はそれなりにお金が手に入っていたから買っておいたのだけれど、早速役に立った。


 さぁ、料理を始めるか。料理と言っても、肉以外の材料は全て僕が持ってきた調味料と、《白亜の森》で拾った香草だけだ。


 オオウナギは蒲焼きに、ヨロイイノシシは香草焼きに、ロック鳥は串焼きに、オークはステーキに、角ウサギは丸焼きに、ポイズンスネークはチキンにする。


 それらを僕は大きな葉っぱの上に載せてエラムに献上する。


「本当にポイズンスネークは毒腺を取らなくてよかったのでしょうか……」


『なにも問題はない。ポイズンスネークの毒腺はピリッとした刺激がして美味なのだ。それを取り除くなど勿体ないことよ』


 人間がポイズンスネークの毒なんて食べたら即死するんだよなぁ。それなのに毒腺はピリッとするから美味しいとかいうなんて、さすがは黒竜族だ。


『まぁ、我も昔は毒腺を食べるたびに継続ダメージを食らって苦しんでいた。しかし、ある時から全くダメージを食らわずに、楽しく食べられるようになったのだ』


 それ、多分慣れというより耐性スキルが生えてきたということだと思う。


『では頂くとしよう』


 エラムは僕の作った料理を無我夢中で平らげていく。ドラゴンの口は大きいため、大量にあった料理はあっという間になくなってしまった。


『思わず我を忘れてしまったが、どれも中々に美味かったぞ。感謝する』


「どういたしまして」


『せっかくだ。魔物の肉を持って来てくれたのとは別に、料理してくれた分の礼もしよう』


 そういうと、エラムは魔法を使う。エラムの身体から淡い光が出てきて、僕の身体を包み込んだ。


『ステータス画面を確認するがよい』

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