第22話 なんか似たようなこと前にもあった気がする


 しまった! デンキウナギを仕留めたことで僕の存在が彼らにばれてしまった。オオウナギは目が悪いからある程度近づいてもばれないだろうと考えていたけど、見通しが悪かったか。


「束縛眼! 束縛眼! 束縛眼!」


 次々と襲い来るオオウナギの動きを止めていくが、きりがない。せっかく一匹の動きを止めても、後続のオオウナギが近づいてくるからだ。


「束縛眼! 束縛眼! 束縛眼!」


《束縛眼のレベルが2にアップしました》


 束縛眼のレベルが上がったけど、確認してる場合じゃないな。


「束縛眼! 束縛眼! 束縛眼!」


 少し効果時間が長くなったかもしれない。


 だが、このままでは鋭い歯を持ったオオウナギに身体を食い尽くされる。革製の防具を身に着けているとはいえ、何度も嚙みつかれたら内出血をおこしてしまう。


 おまけに防具といっても、骨董こっとう店で買った安いものだ。耐久性も大したことはないので、最悪破れてしまうかもしれない。


 こんなんだったら、防具を新しく買い直せば良かった。追い詰められていくうちに、心の中に焦りや後悔といった負の感情が芽生えてくる。


「きゅいー!」


 そんな時、シルが上空からおなじみの鉄球を吐く。しかし、いつもと異なり、鉄球は空中で更に小さな鉄球へと分解し、オオウナギたちの上に降り注いだ。


 絶命したオオウナギはいなかったものの、傷だらけとなったオオウナギたちは沼地へともがき苦しむ。


 後ろからはまだまだ五体満足のオオウナギたちが島に這い上がってきているものの、シルの攻撃によってオオウナギたちの進むスピードは大幅に落ちた。


 いったん気持ちを落ち着かせよう。僕は大きく息を吐き、肩の力を抜いた。


 状況を整理しよう。僕は今、オオウナギたちの群れに襲われている。とはいっても、鑑定眼で確認した限り、上位種のデンキウナギは見当たらない。


 オオウナギたちは数が多いものの、魔法を使える個体はいなさそうだし、水中で活動する魔物なだけあって陸上での動きはのろまだ。


 おまけに、シルの援護も期待できる。


 うん。冷静になって考えてみたら案外なんとかなりそうだぞ。僕は気を取り直してオオウナギたちに対峙する。


 束縛眼で動きを封じながら、懸命にショートソードでオオウナギたちを倒していった。シルの援護もあり、しばらくするとオオウナギたちは自分たちの分が悪いと感じたのか、沼地の中へと撤退していった。


「なんとかなったか……」


 僕は思わず地面にへたり込んでしまう。肉体的にだけでなく、精神的にもかなり疲れた。


「きゅいきゅい」


 シルが僕の肩に止まり、羽を休める。


「匂いにつられて新手の魔物が来たら厄介だし、片付けるか」


 僕は先ほど仕留めたデンキウナギや周りに倒れているオオウナギたちをマジックバッグに詰め込んでいく。オオウナギたちは20匹以上いるのに全てマジックバッグに収まってしまった。


 このマジックバッグ便利すぎだろ。


 しばらく島の中で休憩したあと、僕は探知眼で周囲一帯の沼地を観察する。オオウナギたちが沼地の浅瀬で待ち伏せしているかもしれないと警戒したが、魔力の反応はなかった。


 どうやら彼らは本当に撤退したみたいだ。まぁ、オオウナギたちはなにも考えずに不利な環境である陸地に上がって襲い掛かってくるくらいだからな。


 知能は低いんだろう。所詮は細長い魚でしかない。僕は束縛眼をステータス画面で確認する。


 ―――――――――――――――――――――――

【束縛眼Lv2】……見た対象の動きを完全に止める。《束縛時間 6秒》

 ―――――――――――――――――――――――


 効果時間が2倍になったのか。これはかなり大きいぞ。僕は口元をほころばせながら再び沼地を歩いて対岸へと戻り、帰路につくのだった。



 ◆❖◇◇❖◆



「ぐぎゃおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


 大きなうなり声で目を覚ます。テントから転がりでるように飛びだすが、辺りはまだ夜なので暗い。僕はまだ《白亜の森》にいる。


 沼地が森の奥深くにあることに加え、オオウナギの大群に襲われたこともあって、森をでる前に日が沈んだからだ。


 仕方なく僕はテントを設置し、中で眠っていた。魔物に襲われたらどうするんだと思われるかもしれないが、睡眠の必要がないシルが警戒してくれている。


 僕は地面に落ちている枯れ枝を拾うと、消えかけている焚き火の炎を使ってたいまつを作る。


 なんとか灯りを確保した僕はうなり声の聞こえた方向に目を向けるも、たいまつの灯りではあまり先が見えなかった。


「きゅい」


 シルが僕の右肩に泊まる。警戒して鋭くなった目つきは僕に「これからどうする気だ?」と訴えかけている。


「ぐぎゃおおおおおおーーーーーーーーーす!!!!!!!!!」


 また凶悪そうなほえ声が聞こえてきた。しかし、こちらに声の主が近づいてきているような気配は感じられない。


 冒険者をそれなりの期間やっていれば、立て続けに聞こえてくる魔物の鳴き声を聞けば、声の主が近づいているのか、それとも遠ざかっているのかくらいはある程度推測することができる。


 今聞こえてくる声の主は多分同じ場所にうずくまっているんじゃないかと感じる。僕は声の主を一目見ることに決めた。


 リスクはあるものの、声の主が一体しかいないとは限らない。大人しくしている個体が別の場所に居た場合、戦闘することになるかもしれない。


 そうなった時、あらかじめどのような魔物なのか把握していた方が戦いやすいはずだ。おまけに、魔物の情報は冒険者ギルドで売ることもできる。


 もちろん抜け毛やフンなど、魔物が本当にいた証拠がないと売ることはできないけどな。いや、冒険者ギルドによっては嘘か真実かを計るための魔道具なんかもあるにはあったりはする。


 ただ、《白亜の森》近くにある冒険者ギルドにその手の魔道具が置いてあるかは不明だ。断続的にほえ声は聞こえてくる。


 やがて僕は大きなほら穴の前にたどり着く。入口は広く、牛が同時に5頭くらいは入れそうだ。ほえ声はここから聞こえてくる。墓場といい、最近は穴の中に入ってばかりな気がするな。


 僕は慎重にほら穴の中を進んでいく。あまり長くはなく、すぐにほら穴の奥に到着した。目の前には大柄のドラゴンがいる。眠っているのか、目はつむっている。


 鑑定眼をドラゴンに使うも、なんと魔法がはじかれてしまい鑑定できなかった。


 まずいな。アンデッドドラゴンなんかと違い、生きているドラゴンは本当に強いことが多い。僕は慌ててほら穴を出ようとする。


『待つが良い、人間』


 しかし、僕はドラゴンにもう認知されてるみたいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る