第21話 一匹の中からお目当てのものを探すのは大変だけれど

「うへぇ。靴の中にも泥が入ってきた」


 ライトニングベアとユニコーンを解体し、素材をマジックバッグに詰め込んだ僕は、次の目的であるデンキウナギの討伐に向かっていた。


「きゅいー」


「こっちか」


 シルが上空で飛び回りながら僕を案内してくれる。デンキウナギは当然水の中に生息している。《白亜の森》には水没した沼地があって、そこにデンキウナギは出現するわけだ。


 とはいえ、デンキウナギのいる沼地は《白亜の森》の中でもかなり入り組んだ場所にあり、迷いやすい。そこで、僕はシルに沼地の居場所を把握させていた。


 ライトニングベアとの戦闘でシルがいなかったのはそのせいだ。


 僕は今、沼地の浅瀬を進んでいる。沼地をしばらく歩いていると、やがて小さな島が見えてきた。そこの地面はもちろん乾いている。


「はぁ。疲れたー」


 僕は沼地に浮かぶ島の上に寝転ぶ。泥の中を進むのは本当に大変だった。


「きゅいきゅい」


「痛ててて」


 シルがくちばしで僕の頭をつついてくる。


「どうしたんだ?」


「きゅい!」


 今度はくちばしでマジックバッグをつついている。


「ああ、もしかして腹が減ったとか?」


「きゅい!」


 僕がマジックバッグから魔石を取りだすと、シルは嬉々として魔石をついばみ始めた。僕とシルが《白亜の森》に赴いてからそれなりに時間が立っている。


 おまけにシルには僕と沼地を往復させている。そりゃあ腹も減るだろう。ガーゴイルに腹が減るという概念があるのかは分からないけどな。


 ただ、ガーゴイルだって身体を動かすには魔力が必要なのは確かだ。


 ぐう~~~。


 僕の胃袋も大きな音を立てる。


「僕もご飯にしようかな」


 もうすでに太陽は西の方に動いている。太陽は東から昇るので、昼は過ぎてしまっている。僕はマジックバッグからランチボックスを取りだす。


《白亜の森》に入る前、町中で買ったものだ。中を開けると、サラダや肉、フルーツなどが挟まれたサンドウィッチが入っている。


「うん、美味い」


 フレアの作る料理もかなり美味しいけど、これも中々。僕はシルと一緒に、たそがれながらのんびりと食べ続ける。ああ、ここが沼地じゃなくて、きれいな湖だったら良かったのになぁ。


「きゃうんきゃうん」


 黙々とサンドウィッチを食べていると、森の中からコボルトたちが現れた。彼らは沼地の浅い部分をお腹まで泥に浸かりながら、小魚やザリガニを捕まえ始める。


「きゃう!?」


 すると、泥の中から大量のオオウナギが飛びだしてきて、コボルトたちに襲いかかった。コボルトたちは急いで逃げだそうとするも、オオウナギ側の方が素早く、次々とえじきになっていく。


 うーん。これはチャンスかもしれない。デンキウナギというのはオオウナギと姿が似ているし、おまけにオオウナギと行動を共にすることも多い。


 なのであのオオウナギの群れに紛れているかもしれない。基本的に、デンキウナギはオオウナギをたくさん狩りつつ探すことが多い。


 けれど、僕には鑑定眼がある。だからその必要はない。


「鑑定眼」


 ―――――――――――――――――――――――

【オオウナギ】


【オオウナギ】


【オオウナギ】


【オオウナギ】


【オオウナギ】


【オオウナギ】


【オオウナギ】

 ・

 ・

 ・

【デンキウナギ】

 ・

 ・

 ・

 ・

 ―――――――――――――――――――――――


 見つけた! 何匹鑑定したか分からないが、鑑定画面に表示されているのは間違いなくデンキウナギだ。僕は慌てて立ち上がる。デンキウナギが沼の中に入り込む前に倒さなければ。


「シル。デンキウナギがいる。行くぞ」


「きゅー」


 シルと一緒に、デンキウナギに近づいていく。しかし、デンキウナギの近くには当然たくさんのオオウナギがいる。これ以上はうかつに近づけない。


 そこで僕はショートソードを縄に括り付け、デンキウナギに向けて投げつけた。ショートソードはデンキウナギの脇腹に深く刺さる。


 デンキウナギは自分が攻撃されたことに気づき、大きく暴れる。そして僕にライトニングボールを放ってきた。


 青白い色の電球が真っ直ぐ飛んでくる。


「束縛眼」


 僕はライトニングボールの動きを止めた。束縛眼は別に生物の動きだけを止められるわけではない。ステータス画面にも、


 ―――――――――――――――――――――――

【束縛眼Lv1】……見た対象の動きを完全に止める。《束縛時間 3秒》

 ―――――――――――――――――――――――


 こんな風に書かれているからな。ライトニングボールは無事にかわすことができたものの、相変わらずデンキウナギは暴れ続ける。


 まずいな。このままだと脇腹に刺さったショートソードが抜けてデンキウナギが逃げてしまうかもしれない。


「きゅい!」


 しかし、上空を飛んでいたシルが口から鉄球を吐きだす。回転し威力を増したそれはデンキウナギの顔に直撃し、デンキウナギの身体に穴をあけた。


 デンキウナギはがっくりとうなだれ、沼の中に沈もうとする。僕は縄を引っ張り、デンキウナギを手繰り寄せた。


 ふぅ。なんとか今回も倒せた。


「きゅい!きゅい!」


 仕留めたデンキウナギを眺めていると、シルが切羽詰まったような鳴き声をあげる。


 顔を上げると、オオウナギの群れが僕の方に近づいて来ていた。

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