第11話「四天王、大募集ですことよッ!(1)」


 魔王との交渉終了後。

 私は、即座に動き始めた。


 とにかく人手が欲しかったので、首都グラナドで開いてたアイスクリーム馬車屋台キッチンカーは一時閉店。

 ユベール王国から連れてきた人間スタッフ魔族に変化していると、現地で募集した魔族スタッフを総動員し、事業計画にもとづいて急ピッチで準備を進めていったのだった。





 ・・・・・・・





 翌週の週末。

 首都グラナドの野外闘技場にてが開かれようとしていた。

 雲ひとつない晴れ間が広がる会場には、超満員の観客が詰めかけ、楽しそうに騒ぎながら今か今かと開幕を待っている。





 いっぽう私は、ゼトらとともにの到着をそわそわ待ちわびていた。


「まもなくお時間ですね」

「ええ、間に合うといいんだけど……あっ」


 イベント開始時刻が迫る中。向こうの空からが高速飛行で近づいてきて――シュタッと軽やかに降り立つ。


「お待ち申し上げておりましたわ魔王様!」

わらわも楽しみにしておったのじゃっ」


 待ち構えて整列していた私とスタッフ一同が深々と頭を下げると、魔王はカラカラ陽気に笑う。

 よかったわ、今日も上機嫌みたい……!


「で、わらわの出番はいつなのじゃ??」

「魔王様には“トリ”、つまり最後に行われる決勝戦にて『予選免除枠シード選手』としてご参加いただく予定でございます。ぜひ出番が来るまで大会の模様をご観戦いただければ幸いですわ♪ さぁ、特別席へどうぞ!」

「うむっ」


 赤ベロアのふかふか椅子にドカッと座る魔王。

 すかさず私が右手を高くあげると、楽隊のファンファーレが高らかに鳴り響いた。





「レディースッエンドッジェントルメンッッ! ついにッ! この瞬間がやってきたぞッ! 『武闘大会 新月しんげつ魔王杯まおうはい』、いよいよッ開幕だァ~ッ!!!」


 熱血ボイスで力強く宣言したのは、放送席の魔族MC。


「「「ウオォォオォーーッ!!!」」」


 会場に詰めかけた1万名の魔族が叫び、腕を振り、全身全霊で熱狂する。

 超満員の闘技場は、割れんばかりの大歓声であふれていた。


「恐れ多くも魔王様の名を冠する“新月の魔王杯”はまさに“”を決める大会だッ! 国中から集まった猛者もさ共をねじ伏せ、決勝まで勝ち進んだ4名には、なんと『あの伝説の“魔国四天王まこくしてんのう”の座』と『魔王への挑戦権』が与えられるぞッ! ――ではッ! 輝かしき初戦を飾るッ勇猛な戦士達の入場だァアァ~~ッ!」


 闘技場へと続く鉄扉が開くや否や、血気盛んな魔族たちが我先にと姿を現す。

 観客たちの興奮が渦巻く中――戦いの火蓋が切って落とされたのだった。





 ・・・・・・・





 先日の魔王城での説明プレゼンの後、新たに収集した情報をもとに、私は事業計画の細部を詰めていった。


 今回の計画の最終目的は、魔王城への侵入者を減らすこと。

 そのための解決策として考え出したのが以下の3つだ。


 1.国民へ魔王の恐怖を実感させる

 2.魔王の偉業を宣伝する

 3.魔王城を守る護衛を配置する




 まず私が着手しようとしたのが解決策の『3』、つまり魔王城の守りを固める護衛の選抜だった。

 でも城に仕える魔族をひととおりチェックした結果、ぴったりな人がいなかったのよねぇ。そこで考えた作戦が『武闘大会を開催し、護衛を担当する人員をスカウトするぞ!』という作戦だったのだッ!


 なお『魔国四天王』ってのは、かつてこの国にあった役職らしい。

 単に護衛を募集するだけじゃ地味だよなぁ……と悩んでいたところ、魔王に閲覧を許可された古い文献でたまたま四天王に関する伝説を見つけ「これだッ」とひらめいてさ~。


 だって、ただ「護衛を任せる!」っていうより「あの“伝説の魔国四天王”に任命する!」ってほうが凄そうじゃない?

 特に魔族は楽しいことや派手なことが好きな傾向にあるらしいから、そのほうが大会参加者のテンションが上がるんじゃないかと思ったんだ。結局役職の名前が違うだけで、やるべき仕事はほぼ一緒なんだけどね。



 んで、護衛四天王の選抜をイベント形式――楽しいこと好きの魔族が好みやすいやり方――で開いた大会。

 これこそが『武闘大会 新月しんげつ魔王杯まおうはい』ってわけ!


 せっかくだからついでに色々、“一石二鳥”的に得しちゃおうと思ったんだけど……





「ミル様、本日の売上目標すでに達成しました!」

「やったわね♪ 引き続きよろしく頼むわ!」

「はいッ!」


「大変ですッミル様! 予想以上に売れたので食材が足りません!」

「ならば2番街のウェリタス食料品店をたずねなさい。既に話はつけてあるから、必要なぶんだけ食料を売ってくれるはずよ!」

「承知しました、すぐに急行します!」


 ……私の目論見はほぼ的中!

 1万人の観客へフードやドリンクが売れに売れまくり、雇ったスタッフはヒィヒィ言いながら駆けずり回ることとなった。書き入れ時ってやつね!

 大変だろうけどしっかりがんばってちょうだい、後で 特別手当ボーナスはずむわ……!




 武闘大会は順風満帆に進行していく。

 そしてとうとう最後の戦い、つまり『決勝戦』を迎えたのである。

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