第12話「四天王、大募集ですことよッ!(2)」


「ついにッ……ついにッッ! 『武闘大会 新月しんげつ魔王杯まおうはい』も『決勝戦』だッッ!! これから繰り広げられるであろう壮絶な激闘ッ――目の当たりにする心の準備はできているかッ?!」


「「「イェ~イッ!」」」


 首都グラナドの野外闘技場。

 放送席MCからの熱き問いかけに1万名の魔族たちの大歓声が巻き起こった。

 楽隊の豪華な生演奏も手伝い、会場は異様な熱気に包まれている。


 忙しく動き回っていた私とゼト&ハクトも、諸業務をスタッフたちに任せ、関係者席の隅で固唾を飲みつつ様子を見守ることにした。



「さァッ、この決勝戦に出場するのは全部で5名ッ! まずは苛烈なる激闘を勝ち抜いて来た4名の猛者もさの入場だッ!」


炎獄えんごく剣豪けんごうイグニス! 繰り出す爆炎は熾烈で苛烈ッ、誰も止められないッ!」

水麗すいれい舞姫まいひめアリア! 優雅に舞う姿は美の化身ッ、麗しの舞を見逃すなッ!」

岩雷がんらい覇者はしゃソルム! 大地を揺らす一撃ッ、こぶしの威力が凄まじいぞッ!」

旋風せんぷう賢者けんじゃゼファー! その魔法は暴虐のきわみッ、巧みな知略で翻弄だッ!」


 MCのド派手な紹介にあわせ、1人ずつ闘技場へと姿を見せては自身の力をアピールしていく戦士たち。

 彼らは既に『魔国四天王まこくしてんのう』へ内定している。決勝まで勝ち残っただけあって、全員一筋縄じゃいかない強者のオーラが半端ないわね。


 まぁここまでは有力な候補者が順当に上がった感じで、特に番狂わせはなかったんだけど……がするのは何故かしら?



 私の不安をよそに、大会は止まることなく進みゆく。


「そしてッ! 最後に登場するのはあの御方ッッ! 我らが魔国のトップオブトップでありッ、今大会の主催でもあるッ、新月しんげつ魔王まおうノヴァルーナ様だッッ!! ――……あれ? ま、魔王様???」


 予定通りに紹介するも、肝心の本人の姿が見えない。

 困惑するMC。ざわざわする会場。

 既に入場済みの4名も戸惑いの色を隠せない……



 ……ってかッ!

 なんで出てこないのよ魔王ッ?!

 余裕を持ってスタンバイしてもらえるよう、スケジュール管理&トラブル対応要員な専属スタッフを3人も付けておいたはずなのにッ!!!


 焦った私が急いで周囲を見回すと――






「むふっ♪ 美味びみなのじゃ~」


 ――特別席にいたのは甘味スイーツをパクつく魔王。

 その後ろには、オロオロする専属スタッフたち。


 私はを察した。

 十中八九、魔王が言うことを聞いてくれなかったのだ。

 彼らには荷が重すぎたんだわ……完全なる私の采配ミスね。




「何をなさってるんですか?」


 慌てて私が駆け寄りたずねると、魔王は暢気のんきに笑顔で答えた。


「決まっとるじゃろ。わらわは“おやつたいむ”を堪能しておるのじゃ」

「確かに今は午後3時ですが――」

「ミルよ、この“ふるぅつわっふる”とやらも最高じゃの! たっぷりの“くりぃむ”もたまらんのじゃっ♪」

「有難きお言葉です。ところで魔王様、そろそろ出番でしてよ?」

「ん? もうそんな頃合いか……では行くとするかの」


 ワッフル最後の1口を、名残惜し気に完食する魔王。

 それからヒョイッと空を舞い――闘技場の中央へと軽やかに降り立ったのだった。



「ッ?! し、新月しんげつ魔王まおうノヴァルーナ様、堂々の登場だッ!!」


 突然のサプライズ。

 MCも焦ったようだが臨機応変に対応してくれた。

 何はともあれ、これで予定通りだわ……




 ようやく出場者が揃ったことで、観客が再び盛り上がり始めた。

 魔王を取り囲む陣形となった4名の顔にも緊張が走る。


「さてッ、皆もご存知のとおりッ! この決勝の優勝者が魔王の座を勝ち取ることができるんだぞッ! 現魔王であるノヴァルーナ様が勝ち抜けば王位をそのままキープできるが……他4名の誰かが勝てば、その優勝者こそが“”になるッ! ――つまり我々はッ! この魔国の歴史が変わる瞬間に立ち会うことになるかもしれない訳だッ!!」


「「「グオォ~~~ッ!!!」」」


 会場中の興奮と緊迫とを煽りに煽ったところで。

 放送席のMCが息を大きく吸い込んだ……!





「では改めてッ……決勝戦ッ! 試合開始ッッ!」


 と同時に中央の幼女魔王へと襲い掛かる4戦士。



 うっわ、あいつら事前に示し合わせてたんだわ!

 なんて卑怯なのッ?!?!


 思わず身を乗り出しかける私。



 だが魔王は動じるそぶりすら見せない。

 不敵にニヤリと笑うと、右手を天へと高く掲げた――





 ――次の瞬間。

 会場を支配したのは“圧倒的な”。




 ここに存在する全員が。

 どす黒く凝縮した闇黒あんこくに押しつぶされて絶望し。

 指の1本すら自由に動かすこともできず。

 呼吸を止められて苦しくうめき。

 逃れられない恐怖におびえきっている……




 ……ただ1人、を除いて。


 闇の魔力を全解放した彼女は、まさにそのもの。

 堂々たる王の風格を漂わせ、ゆっくり会場の1名1名と目を合わせていく。



 そして満足げにうなずくと。

 掲げていた右手をと下ろした。




 途端に終わったのは、永遠にも思えた“闇の支配”。

 苦しみから解き放たれたはずの4名の戦士と1万名の群衆は、膝をついたまま沈黙を続けることしかできなかった。






「…………ゆ、優勝はッ! 新月しんげつ魔王まおうノヴァルーナ様ッ!!」


 どうにか立ち上がったMCが絞り出した優勝宣言。

 それは現魔王である彼女ノヴァルーナが、王位の防衛に成功したことをも意味していた。


 少し遅れて会場中から割れるような歓声が上がる。

 彼らの顔は、ただただ魔王への畏怖いふ一色に染まっていたのだった。

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