第10話「ご覧あそばせッ、事業計画!」


 引き続き魔王城の『謁見の間』。

 無事に前提となる約束の締結が済んだところで、私は次へと話を進める。


「さっそく本日よりわたくしは“最強プロデュース”へと取り掛かる所存でございますが、先に『今回の事業計画』をざっくり説明プレゼンいたしますわ! ……ゼト、を」

「はッ」


 ゼトは素早く『ワフク』の胸元から“棒状の魔導具”を取り出すと、取り付けられた小さな魔石へ魔力をこめる。ポワンという破裂音。と同時に棒が四方八方へ伸び、1.5m四方の自立する衝立のような形状へと変化した。



「……何じゃ、これは?」


 玉座で首を傾げる魔王。


「こちらは『携帯式黒板の魔導具』でございます。通常は小型に圧縮して携帯し、魔力をこめることで本来の形状へと戻すことが可能です。そして……このように付属の『魔導チョーク』で板面に書き込めるため、共有事項を分かりやすく伝えるのにと~~っても便利でしてよ!」


 私が実際に黒板へと書き込んでみせると、魔王は感心の声をあげた。


「ほぉ~!! こっ……これはどこで手に入るのじゃ?」

「さすが魔王様、お目が高い! 我が商店でも取り扱っておりますので、後ほどサンプルをいくつかお見せしますわね!」


 うふ、見込み客GET♪


 魔国は個人の魔術スキルが高めなこともあってか、魔導具研究では我がユベール王国に軍配が上がる。こんなこともあろうかと色んな魔導具も少しずつ買い付けて持参した甲斐があったわ!





「……では本題である『事業計画』の概要を説明プレゼンいたしますね! 前提として今回の目的は『魔王城への侵入者を減らすこと』でございます。そのためには『解決すべき問題点』が2つございますの」


 小金稼ぎの予感にホクホクしつつも、平静を装って黒板に情報を書き始める。


「問題点じゃと? 申してみよ」

「まずは『認知度の問題』ですわ。弱肉強食が根底にあれば、“絶望的なまでに実力差がある相手”に対し戦いを挑める者はかなり限定されますもの」

「じゃが現実は挑戦者だらけじゃな」

「ええ。実にもったいない事態でございます……この認知度問題の解決策こそ“最強プロデュース”でございます! 具体的な方法は後ほどご説明しますが『国民全体へ魔王様の恐怖を実感させること』、『メディアを利用し魔王様の偉業を強烈に宣伝すること』などを考えております。これにより魔王様は国民の多くに畏怖いふされる偉大な存在として認知されるはずですわッ!」

畏怖いふ偉大いだい……ええのぅ、ええのぅ!! わらわそういうの大好きじゃっ!!」


 妄想でニマニマ笑う魔王が見た目相応な幼女すぎて可愛い。

 怖がられないの、たぶんそういうとこもだぞ……?



「……魔王城への侵入者を減らすためには、加えて『環境の問題』がございます。そもそも貴女は一国の王ですのよ? なのにそこらの国民が“近所へのお散歩”感覚で気軽に勝負を毎日挑めるなど、どう考えても環境としてありえませんわッ! 現に先代魔王であるお父上の代では、そのような状況ではなかったのでしょう?」

「はッ! 言われてみるとそうじゃの!」


 気づかなかったと言わんばかりに目を見張る魔王。

 後方では案内役の男魔族――私たちをここまで案内してくれた彼――が涙目で首をウンウン縦に振っている。


「もちろん先ほど申したように、魔王様の恐ろしさを全員に知らしめることができればベストですが、中には恐怖を乗り越えてくるヤカラもいることでしょう」

「魔族とはそういうもんじゃからな……」


 うんざりした顔で魔王がつぶやく。


 そうなのよ、魔族って「他人を押しのけて自分が上に立ってやるッ!」的な上昇志向だらけのヤツがやたらと多すぎ! まぁ人間だって偉そうなこといえたもんじゃないけど……その点、この魔王は話せるヤツよね。対価の支払いっぽい意思を見せてくれるだけでも取引相手として割と信用できると思うわ。魔族の割には、だけど。



「……そこでこの魔王城の環境を改善しとうございます。詳しくは後ほどご説明しますが、基本は『人員配置の最適化』をベースに組織改善すべきであり、特に『城の守り』を担当する人員を強化しましょう」

「ほう、それをするとどうなるんじゃ?」

「魔王様の許可なき者が『謁見の間』を訪れにくくなりますわね。デメリットもあるので多少調整が必要ですが……まぁとにかく! 人員を適切に配置して侵入者を排除し、『根本的に魔王へ挑むのが難しい』という状況を作り上げれば、侵入者をさらに減らすことができるはず。この二段構えの計画を持って、魔王様の安息時間を確保して見せますわッ!」

「うむうむ頼もしいのう……期待しておるぞ!」

「あら! わたくしだけで実現は不可能です。魔王様にも動いていただかないと――」


「何じゃと? お主、わらわする気か……?」


 瞬時に黒く凍りつく空気。




 ――やばッ?!

 危うく“魔王の地雷”ふみかけてるわッ?!


 

 ゾクッと身震いするが――気づかないフリで強気に乗り切るッ!


「命令なんてとんでもございませんわッ! わたくしは……わたくしはッただ純粋に本心からッ! をッ皆様に知っていただきたい一心からでしてよッ!!」


 こんな時のために演技も習っておいたのよねぇ。

 ユベール王都の売れっ子役者を呼び寄せて教えてもらっただけあって、我ながら最高の名演技……高い授業料の元がしっかり取れてますことよっ♪




「わ、わらわの素晴らしさ……じゃと??」


 ――OK、魔王が困惑した。もう一押しね。



「だって!! 魔王様って本当~~にお強くてカッコいいんですものッ!」

「そ……そうかのう?」

「よッ! まさに魔国の頂点に立つべき御方ッ!! この魅力をわたくしたちだけが知っているなんてもったいなさすぎて……ああ! できることなら、魔王様の偉大で絶大な堂々たるお姿を、国民全員の目に焼き付けたいのでございますわ……!」


 渾身の訴えをウルウルの瞳にこめた、私の一世一代な大芝居。



「ま、まぁ……そういうことなら仕方ないのう」


 ――よっしゃッ! 魔王が妥協したッ!

 照れくさそうに鼻高々なポーズを決めてるあたり満更でもないって感じだわ!





 ・・・・・・・





 魔王がご機嫌になったおかげで、このあとの説明プレゼンは問題なく終わった。

 ついでに色んな許可――場所や資材の使用許可とか、情報の閲覧権限の許可とか――も頂けたのは予想外の収穫。スムーズに計画を進めやすくなるから助かるわ。


 やや騙すような感じになったのは申し訳ないけど、そうでもしなきゃ殺されるとこだったし。それに私が全力で魔王様の利益になるよう動くのは事実だもの……


 ……そのぶんこちらも利益が得られるよう、色々と手は回させてもらうけどねッ!

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