第41話
借金をする人間はダメだと言っていた、父親の言葉を思い出した。金に憑りつかれた人間は、骨の髄までしゃぶられて更生は出来ない。少し持てば、それを直ぐに使ってしまう。治らない病気で、特効薬もない。そばにいるだけで巻添いを食うこともあると。でも目の前にいる自分の彼氏がそうだとは思いたくなかった。
「いくら……いくら借金があるの?」
「――五十万ほど」
それなら自分の貯金でどうにかなる。真奈美はこれっきりだと言い聞かせながら、五十万を都合すると伝えた。
「え? いいの? 本当?」
「今回だけ。今回だけだよ? だからもうギャンブルはしないで。お願い」
「うん。わかった。本当にありがとう真奈美。愛してる」
そして翌日、真奈美はメールで銀行にいるから、、そのあと一緒に返済しに行こうと連絡をした。
夕日に映し出される影が長くなり始めた秋空。両親から直ぐに家に帰ってこいと言われ、最後の講義を残して急いで家路についた。
リビングには両親が神妙な顔もちで座っていて、ただならぬ雰囲気だった。何か良くないことがあったのかと、緊張しながら両親と向かい合って座る。
「真奈美」
父親の声は、いつになく真剣だった。
「真奈美の交友関係に口出すつもりはない。だが高村健吾君、だった。付き合ってどれくらいになるんだ」
「あ、えっと、一年以上は……」
両親には、颯太への期待がありありと見えていたので、健吾とのことは言えずにきた。しかしそれが知られてしまった。まるで何か犯罪にも手を染めてしまったかのような罪悪感が、真奈美を襲ってきた。
「私たちはてっきり成海さんとばかり思っていたが……まあそれでだ。この高村君の事を調べたんだ」
「どうして?」
「どうして? お前には心当たりがないか?」
真奈美は押し黙ってしまった。父親はため息をついて続けた。
「銀行に所要で出向いた時、お前がまとまった金を下ろしたが、友達と旅行か何かかと聞かれたんだよ。しかし真奈美から旅行へ行く話はきいていないし、ましてや大学ある。それで不審に思って調べた」
親は全てを把握している。きっと下ろしたお金が動きも。真奈美はうなだれるしかなかった。
「はっきりと言う。彼とは別れなさい」
「でも」
「でも? 彼女に借金を返済をさせる男を信用できるとでも? もしできないのであれば、大学は辞めさせる」
「あなた、それは」
それまで黙っていた母親が慌てて止めようとしたが、「黙っていなさい」と制止する。
「わかったな」
「はい」
「わかればよろしい。携帯を貸しなさい」
「え?」
「出しなさい」
分らぬまま、真奈美は携帯を父親に手渡す。慣れた手つきで操作をすると、どこかに電話をかけ始めた。
「もしもし。高村さんですか? 私は真奈美の父親の大瀬良(おおせら)誠司(せいじ)と申します。あなたの事を調べさせてもらいました。娘とは別れてもらいたい。理由はわかるはずだ。借金をするような男と付き合わせる気はない。真奈美? 娘も君とは別れると言っている。わかったら真奈美とは接触しないでもらいたい。わかったかね?」
直ぐに電話を切らなかったとことを見ると、健吾が何か弁解をしているのだろう。父親が電話を切って、再び携帯をいじり始めた。
「すべて着信拒否にしておいた。受送信、通話履歴、アドレス帳も消去した。大学では会ってしまうだろうが、なるべく避けるようにしなさい」
「……」
「真奈美、わかったな」
「はい」
部屋に戻って直ぐに携帯の中を調べたが、どうすれば着信拒否だなど設定を解除すればいいのか、機械に弱い真奈美にはどうすればいいか分らなかった。
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