第40話
笙子の笙子の事があってから、颯太への連絡は控えていた。それでも家に来たりするので、どうしても接触せざるえない状況だった。
この日も、健吾のマンションへ行こうとしていたところに、颯太がやってきた。両親はもちろん歓迎して家にあげるので、断れない。
「やあ真奈美ちゃん」
「颯太さん……」
「もしかして、今から出掛けるの?」
「あ、あの」
「真奈美、何ぼさっとしてるの。お茶の準備をするから手伝って」
「で、でも」
「早く」
母親にせっつかれ、仕方なく台所に立った。颯太は我が家のように、ソファに座っている。
「真奈美、もう直ぐお父さんが帰ってくるから、それまで颯太さんの相手をしてちょうだいね」
「でも私、出かけるところだったんだけど」
「じゃあ予定をキャンセルしなさい」
「え?」
「わかったわね」
母親は、お茶の用意を真奈美に任せると、颯太に向かって話始めた。
「私、ちょっと一時間ほど家を空けますが、真奈美がおりますので」
「そうですか。それじゃあ自分は」
「いえいえ。真奈美が相手をしますから、ごゆっくりしていってください。真奈美、後は頼みましたよ」
そう言うと、母親はエプロンを外して、そそくさと出かけてしまった。
二人きりになると、颯太は態度を少し軟化させた。
「健吾くんのところに行くところだったのかな?」
入れたコーヒーを差し出した時に言われた。颯太は悪びれる様子もなく、コーヒーカップを手に取る。
「はい」
真奈美はお盆を抱きしめるように持ったまま、颯太を見つめた。
「そんなに見られると、触れたくなるんだけど」
心臓が飛び跳ねた。でも今までのようにはいかない。真奈美は強く思った。しかし、立ち上がった颯太から伸ばされた手が、真奈美の頬に触れると、強張らせた体が小さく跳ねるのが自分でもわかった。
「キスしたい」
真奈美が答える間もなく、唇が重なる。次第に深くなってくるキスは、真奈美の体に火をつけるのは簡単だった。結局、そのまま場所を真奈美の部屋に移した二人は、母親が帰ってくる直前まで、情事に耽っていた。
翌日、健吾の部屋で待っている真奈美は、前日の颯太がまだ体の中にいるような錯覚を覚えながら彼の帰りを待っていた。食事の用意をしつつ、溜まったゴミを片付けていると健吾が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
ゴミを集めている姿を見て、健吾が慌てて真奈美の手を止めさせようと動いた。
「ゴミは自分でするからいいよ」
「でも」
「それよりお腹が空いたなあ」
健吾が真奈美の背中を押すので、仕方なく手を止めて座ることにした。いつものように食事を終わらせた後に健吾は誘ってきたが、颯太を受け入れてしまったことがバレてしまいそうで、理由を付けてマンションを出た。
地元の駅に着いた真奈美は、タクシーに乗って家に帰った。降りる際、支払いをしようとすると金額が足りない。運転手を待たせて家に入り、親からお金を受け取って支払った。部屋に戻った真奈美は腑に落ちない気持ちだった。
それから颯太が家に来ない限りは、メールや電話のやり取りだけするようになった。笙子に対する罪悪感は、すでに霧散していた。そして健吾と過ごす時間が増えるにつれ、彼の不遠慮が、顕著になってきていた。
一番、真奈美が反感を覚えたのは、金銭のやり取りだった。千円が足りないから貸して欲しいから始まって、一万二万と増え、返してはくれるが貸した額は戻ってきてはいない。何に使っているのか聞いても、明確な答えが返ってきたことは無く、いつもはぐらかされて話が終わってしまっていた。
部屋も真奈美が数日空けて訪れると、ゴミが散らかるようになってはいたが、以前のような女性関係もないようで、比較的落ち着いた付き合いをしていた。しかし部屋の掃除をしていると、雑誌から数枚、何かの明細らしきものがひらりと落ちた。
見るとキャッシングと利息の明細で、数社に渡って金銭を借りていた。たまに財布の中身が減っていることがあった。ちゃんと中身を把握していなかったので、思い過ごしだと思っていたが……ずっと鞄を見ているわけではい。洗い物やトイレ、シャワーをするときは目が届かない。
テーブルに置いた明細をぼんやり見ていると、健吾が帰ってきた。そして反応がない真奈美を不思議に思いながら、視線をテーブルに移すと、ひったくるように紙を取り上げた。
「こ、これは、あの」
「健吾。一体何にお金を使っているの? どうして借金をしているの?」
「――」
正座をした健吾は、俯いて口を開かない。
「ねえ。もしかして私の財布からも抜き取ってなかった?」
「ごめん! 本当にごめん。どうしても必要なときに困ってて、そしてらちょうど真奈美が来ている時にバッグが目に入って……真奈美はお金持ちだし、少しくらいなら大丈夫かと思って……」
「それって健吾。泥棒だよね?」
「ごめん。本当にごめん」
いつものように縋ろうとし来る健吾。真奈美はスッと後ろずれた。
「ねえ。何にお金が必要だったの?」
本当に怒っていると健吾も観念したか、ぽつりぽつりと話し始めた。パチンコからはじまり競馬などのギャンブルに消えてしまったと。そのためにカメラも売ったと。
実家に持って帰ったか、どこかにしまってあるのかと思っていたが、売ったという言葉を聞いて、体の力が抜け落ちていくような気がした。
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