第32話

俺たちは、無事に逃げれた。

「ふう、ここまで来れば、来ないだろ」

「あ、あの、」

「ん?」

「手…」

「あっ、」

俺はウィルの手をまだ掴んでいたらしい。

「ご、ごめん!」

「う、うん」

俺は急いで、手を離した。

「ね、ねえ」

「なんだ?」

「本当に、キスしてないの?」

「あ、あぁ」

「なんで?」

「何となく」

「もしかして、婚約者達の事、好きじゃない?」

「…。家族としては、好きだよ。でも、そういう、恋人としてとか、異性としてとか、の好きじゃない」

「そうなんだ。だから…」

「俺は、皆と笑顔で過ごしたいんだ。皆可愛くて、皆好きなんだ。だから、無くしたくないんだ。無理してる訳じゃない。俺は結婚してよかったって思ってるよ」

「そう、」

「だから、俺は、こうしてるんだ」

「それで、いいんじゃない?」

「ありがとう」

「あ!フレムお兄様!見つけましたよ!」

「あ、じゃあ、俺帰るよ」

「うん」

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