第四章 王都からの客人

第15話 移動遊園地

 この村には、年に二回ほどの頻度で移動遊園地がやってくる。


 回転木馬に観覧車、芝居小屋などが、何も無い空き地に一夜にして出来上がる、そんな不思議な光景に村人たちは心を躍らせる。


 そんな中、私は水色の花柄ワンピースを身にまとい、遊園地の入口に立っていた。


 私の私服は、上下を考えるのが面倒という理由でいつもワンピース。


 いつもはグレーや黒、灰色が多いのだけれど、男の人と移動遊園地に行くと母親に話したところ、慌ててこのワンピースを仕立ててくれた。


 ルイくんは友達だし、別に着飾る必要なんて無いと思って居たのだけれど、周りを見るとみんな着飾った女の子ばかりなので、服を新調して良かった。


 それにしても、ルイくんはまだだろうか。キョロキョロと辺りを見回していると、男の子二人組が近づいてきた。


「お姉さん、一人?」

「可愛いね、どこから来たの?」


 ニヤニヤしながら、私のことを頭のてっぺんからつま先まで見定めるように見つめる男の子たち。


 どうやら若い娘が一人でこんな所にいるのが珍しいみたい。


「すみません、私、人を待っているので」


 私がそう言って二人から逃げようとすると、男のうちの一人が私の腕を強引に掴んだ。


「いいじゃん、お友達が車で一緒に遊ぼうよ」

「そうそう。一緒に楽しもうぜ?」


 全く、しつこい男たちね。


 でも困った。こんなやつら、私の力をもってすれば簡単に倒せるのだけれど、まさか人前で力を使うわけにもいかないし……。


 ここは声を上げて誰かに助けてもらうしかないか。


「離してください!」


 私が大きな声を上げると、後ろからぐいっと腕を引っ張られた。


「俺の連れに何か用ですか」


 ――ルイくん!


 ルイくんは、私の体をぐっと引き寄せると、二人組の男を睨みつけた。


「おい、ヤバいぜこいつ、ランベール家の……」


 二人組はコソコソと話したかと思うと、急に取ってつけたかのようなにこやかな顔になった。


「い、いえ、このお嬢さんが一人でいたんで迷子かなぁって」

「連れが見つかったんなら良かったです。それでは!」


 そそくさと逃げていく二人組。

 私はホッと肩をなで下ろした。


「ありがとう、ルイくん」


「いや、一人にして悪かったよ。家まで迎えに行くべきだった。ごめん」


 頭を下げるルイくん。

 

 いやいや、ランベール家のお坊ちゃまが家まで来たら、お母さんが何て言うか!


 今日だって、面倒なことになるといけないから、お母さんには男の子と遊びに行くとは言ってあるけど、ルイくんと一緒とは話していないし。


「ううん、大丈夫よ。気にしないで。それより早く入りましょ」


「うん、そうしよう」


 二人で並んで移動遊園地の中に入る。


 遊園地の中は、子供だらけかと思っていたけど、中には若い男女がたくさん。


 中でもルイくんは、白いシャツにベージュのズボンというシンプルな格好なのに、背が高いのと端正な顔立ちですごく目立ってる。


 なんだか恥ずかしいな。知り合いに会わないといいけど。


 まあ、小さい頃はほとんど学校に行かず家で魔法の研究ばかりしていたから、ほとんど知り合いも居ないんだけどね。


 でも隣の家のおばちゃんとかに会う可能性はあるし……。


「どうしたの?」


 黙り込んでいる私を不審に思ったのか、ルイくんが私の顔をのぞきこんでくる。


「ううん、ちょっと考えごと。それより、あれに乗らない?」


 私が指さしたのは、この移動遊園地の目玉でもある回転木馬。


 花やレースで飾られた白い木馬や馬車が、おとぎ話みたいにとっても綺麗なの。


「良いね、乗ってみよう」


 二人で回転木馬の列に並ぶ。


 私は自分のワンピースをチラリと見た。


 さすがにスカートで馬にまたがるのはお転婆過ぎるかもしれない。


「私、あの馬車に乗りたい」


「良いね、エスコートするよ」


 悪戯っぽい笑みを浮かべるルイくん。


 てっきり冗談かと思ったんだけど、順番が回ってきて、私の前に馬車が止まると、ルイくんはうやうやしく頭を下げ、私の前に片足を着いてしゃがんだ。


「さあどうぞ、お姫様」


 王子様のように、手を差し出すルイくん。


「あ……ありがとう」


 私は何だか恥ずかしくなりながらもその手を取って、ルイくんに支えられながら馬車に乗り込んだ。


「ルイくんは乗らないの?」


「俺みたいな大男が乗るには狭すぎるよ」


 ルイくんはそう言うと、笑って手を振る。


 やがて回転木馬は回りだし、私の乗った馬車も申し訳程度に上下しながらぐるぐるとまわった。


 ルイくんは、私が馬車に乗っているのを満面の笑み出見つめ、時折こちらへ手を振ったりした。


 私はルイくんに手を振り返しながら

何とも言えないふわふわとした変な気持ちになっていた。


 小さい頃から魔法の研究ばかりだったから、こんな風に普通の女の子みたいに過ごすのは初めてだった。

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