第20話 本番当日

 そして、乗馬対決の日がやってきた。


「さあ、それでは予選第二組の登場です」


 農業組合のお偉いさんの司会で、馬に乗った男たちが登場する。


「この組の有力候補は、何と言ってもランベール家の次男、ルイ! 去年の優勝者で、乗馬の腕前には定評があります」


 白馬に乗ったルイくんが、この紹介に少し照れながら観客席に手を振る。


 周りにいた貴婦人や村娘たちが、甲高い悲鳴を上げた。


「それに対するは、王都からやってきた炎の賢者・アドリアン!」


 声とともに、アドリアンが入場してくる。

 赤いマントに身をつつんだ派手男を見て、村人たちがどよめく。


「ずいぶんと派手だな」

「さすが王都から来た賢者、我々とは違うな」


 ……王都から来た賢者が、全員同じだと思わないでほしいんだけど。


 私は密かに頭を抱えた。


 ルイくんの横に馬をつけたアドリアンが不敵な笑みを浮かべる。


「この馬は王都から連れてきた名馬だ。絶対勝つよ」


「悪いけど、俺が勝つよ」


 そんな会話を交わしながら、二人はスタート地点に馬を移動させる。


 予選は全部で五回行われ、各組の上位二人だけが決勝に進出できる仕組み。


 ルイくんの腕があれば、上位二位までには絶対に入ると思うけど――。


「位置について――よーい」


 旗が上がり、馬たちがいっせいにスタートする。


 わあっ。


 盛り上がる観客席。


 真っ先に風を切ってゴールに飛び込んできたのは、ルイくんの乗った白馬だった。


「ルイ様!」

「さすが優勝候補!」

「きゃーっ、ルイ様!」


 大歓声が湧き上がる。


 ルイくんは、少し照れた顔で右手を上げると颯爽とこちらに戻ってきた。


「ルイくん、おめでとう」


「ありがとう。決勝でも頑張るよ」


 二位で戻ってきたアドリアンは、あからさまに悔しそうな顔で吐き捨てるように言った。


「ま、これはただの予選だから。次は勝つよ」


 挑発的に言うアドリアン。


 そこへシモン様がやって来た。


「二人とも、よくやったね。本戦は午後からだから、これから一緒に昼食でもどうだい?」


「良いね! 一緒に食べようじゃないか、


 アドリアンがわざとらしくルイくんと肩を組む。


 私が呆れながらその様子を見ていると、アリスがやって来た。


「クロエー、私たちもご飯にしよ」


「うん、そうしよっか」


 アリスに言われ、私たちもその場を離れる。

 

「なんか、あっちの方で屋台が出てるょ。あのソーセージ美味しそうじゃない?」


「本当ね。二人で行ってみましょうよ」


 アリスと二人でお昼ご飯を食べるためにその場を離れる。


 だけど私は知らなかった。

 まさか私が見ていない間に、あんな事が起きていただなんて。


◇◆◇

 

 私とアリスが昼食を終えて戻ってくると、何やら辺りが騒がしい。


「どうしたんですか?」


 奥様の付き添いで来ていたメイド長に尋ねると、メイド長は暗い目をして言った。


「それが……ルイ様が馬から落ちて怪我をなさって」


「えっ!?」


 血の気がさっと引く。


 ルイくんが? どうして!?


 慌ててルイくんを探す。


 医務室のテントを見つけ駆け寄ると、そこには手首に包帯を巻いたルイくんの姿があった。


「ルイくん、大丈夫!?」


 私が声をかけると、暗い顔をしていたルイくんが顔を上げた。


「ああ、急に馬が暴れて、落馬しちゃってさ。でも大したことないよ」

 

 弱々しい笑顔で右手を上げるルイくん。


「大したことないってことはないさ」


 マルタン先生が横から口を挟む。


「かなり腫れが酷い。折れてるわけではなさそうだが、ヒビが入っている可能性はある。一、二ヶ月安静にすれば治るとは思うが」


「そんな……」


 よほど心配そうな顔をしていたのだろう。 

 私の顔を見て、ルイくんが慌てて立ち上がる。


「でも、大丈夫だよ。決勝にはそのまま出場するからさ」


「大丈夫なわけないじゃない、手綱を引く腕にヒビが入ってるんだから」


 私が言うと、マルタン先生もうなずいた。


「その通りだ。今の状態では、馬に乗るのは無理だ」


「でも、そうしたらクロエが――」


 悔しそうに唇を噛み締めるルイくん。

 私はギュッと拳を握りしめて言った。


「大丈夫。乗馬大会には、代わりに私が出るわ」


「えっ、クロエが?」


 不安そうな顔をするルイくん。


「ええ」


 私は強くうなずいた。


「いや、でも周りは皆男ばかりだし、やっぱり俺が出たほうが――」


 引き止めるルイくん。でも私は、すでに心を決めていた。


「私、自分の運命は自分で掴み取りたいの。それに私なら大丈夫。こう見えても賢者よ。色々と打つ手はあるわ」


「そうか、何か策があるんだね?」


「ええ。とりあえず、馬のところへ案内して」


 私たち二人は、馬を繋いである場所へと向かった。

 

 

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