脳筋の悪魔

「ふむ……10匹か」


 狼系の魔物の多くは連携を得意としているので、群で行動することが多い。今回セクシャルの前に現れた狼たちもその類のようで、じわじわと音も無くセクシャルを包囲するように行動を始めている。


 普通の狩人ならば結構なピンチの状況だが、まず冷静に数を数えてみせたセクシャル。しかし、数え間違えているのがこいつらしい。実際は、9匹である。


 群れの中でも1番大きな個体がセクシャルの視線や意識を惹きつけようと、大きくわざとらしく近寄りながら威嚇した。


 そして、そちらにセクシャルの意識が向いた途端、少しずつ包囲を広げてフォーメーションを組んでいく。


 このような連携をされるのが初めてなセクシャルは、まんまと相手の作戦に引っかかってあっという間に包囲されてしまった。


 しかし、この男は動じない。


 魔力を練り上げ、エメラルドグリーンの筋肉装甲を作り上げると、バーベル片手にボス狼へ襲いかかったのである。


「バウッ!」


 しかし、狼達からするとそのような行動は想定済み。ボス狼は後ろに飛び退いてセクシャルの攻撃を避けつつも、軽く吠えた。


 すると残りの狼達は、攻撃直後で少し隙のできたセクシャルに前後左右上下、全方向から飛びつき、体当たりや爪、牙を使った攻撃を仕掛ける。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 魔物となった狼たちの爪はものすごく鋭く、硬く、大きい。容易に肉を切りことができそうな攻撃だが、セクシャルはそんな狼達の攻撃を全て受け止める。


 筋肉装甲があるからこそできる芸当だ。めちゃくちゃ危険なのでみんなは真似しないように。


 そして攻撃を防ぎ切ったセクシャルは、セクシャルの顔に噛み付かんとする1匹の狼の頭を鷲掴みにし、強靭な握力で握り潰した。


 握りつぶした狼の肉体をそのまま小回りの効く武器として利用し、仲間が握り潰されたのを見て怯んだ狼のうち1匹を撲殺。 


 もはや、武器としても利用できなくなった哀れな狼の死体を投げ捨て、バーベルを適当な狼に投擲。


 バーベルが狼を貫いたのを悲鳴で確認すると、両手の手のひらを広げ、逃げ腰になっている狼達に襲いかかった。


 全身の膨らんだ筋肉の上に血管が走り、筋肉装甲もまるで本物の筋肉のように脈動する。


 まるで、魔王である。襲いかかってきたのは向こうだが、狼達が可哀想なのでこれ以上のは語らないでおこう……。


「バゥッ!」



..................................................................



 戦略にはハメられたものの、力のゴリ押しで狼達に勝利したセクシャル。


 残骸を台車に乗せると、再び勇敢(無謀)に森の中へと進んでいった……。


 そしてセクシャルの危険で無謀な戦闘は、牛の魔物を見つけるまで続けられた。


「お! やっと出てきたな、牛乳!」


 牛の魔物を見つけた途端、牛乳呼ばわりである。この発言やセクシャルの様子から、今回のテイムの目標が牛の魔物だということが確定した。やはり、プロテインか……。



※今更ですが少し簡単に補足すると、一般的にトレーニングをする男性に飲まれているプロテインはホエイプロテインと言って、牛乳の中のタンパク質であるホエイを粉にしたものです。

 ホエイとは、ヨーグルトを開けた時に上の方に溜まってる液体のことですね。つまりあれはタンパク質豊富で体に良いと思うので飲むと良いんじゃないでしょうか。



 牛乳呼ばわりされた牛の魔物だが、こちらもセクシャルを見つけて嬉しそうだ。その様子は、魔物からすると人間は貧弱で楽に食糧にできる存在だと思われているという現れである。(たぶん)


 つまり、なめられているのだ。このままでは、到底力の支配によるテイムなどできたものではない。


 勇敢なる戦士セクシャルが、どうやってここからそのイメージを撤廃するのか。見ものである。


 さて、先に攻撃を仕掛けたのは意外にも牛の魔物。セクシャルが飛びかかっていくのではないかと思っていたが、何故か彼はどっしりと構えて動かない。


 そんなセクシャルにしっかりと狙いをつけた牛の魔物は、2本の巨大で鋭い角を見せつけるように頭を揺らしながら、ものすごい勢いで加速してセクシャルへと迫る。


 それでも、セクシャルは動かない。まさかこいつ……受け止める気か!www


 こちらの予想を裏切らないセクシャルは、角には刺さらないようにしながらも、猛スピードで突っ込んできた牛の魔物を正面から迎え撃った。


 まるで、交通事故が起きたかのような衝撃的な映像である。


 そして、そのままセクシャルと牛の魔物が正面衝突し、鈍くて大きい衝撃音が響いた。続いて、あまりの衝撃に突風が吹き荒れる。


 ジリジリと足の裏で地面を抉りながらもどうにか牛の魔物の勢いを殺したセクシャルは、牛の魔物の巨大な角に手をかけた。


 そして、残った少しの推進力と持ち前の剛力を利用し、牛の魔物を背負い投げしてみせたのである。


 普通の戦闘ならば、ここで決着。ひっくり返された牛の魔物はセクシャルにトドメを刺され、領民の糧となることだろう。


 しかし、今回はテイムするのが目的。牛の魔物にトドメを刺さずに離れたセクシャルは、もう一度かかってこいとばかりに、再びどっしりと構えた。


 

 この日、領民達は、巨大な牛の魔物に乗って帰還するセクシャルの姿を見たのだとか。

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