脳筋の読書は5分で終了する

「ふむふむ」


 自室に戻ったセクシャルは、【従魔術の基本】という本を手に取って1ページ目を開いた。


 後回しにせずに早速勉強とは、意外と偉くて感心してしまうな。良いゾォ〜?


「ふむふむふむ」


 そして、数分間ペラペラとその本を流し読みしたかと思うと、突然本を閉じてから立ち上がった。


「なるほど。つまり、パワーを見せつければいいんだな!」


 この数分間で従魔術の何を理解したのか知らないが、確信を持った様子でセクシャルはそう言った。


 いや、13冊も本用意したのに、1冊をペラペラ読んで終わりとかこいつ舐めすぎだろwww。


 切実に、デカ・ヒデに謝ってほしいものである。


 しかし、理解した内容はめちゃくちゃ薄いものの、別に間違っちゃいないのだから困る。


 魔物や動物を従えるには、テイムという魔法を使って契約をする必要がある。


 そして、その契約には色々な種類があるらしいのだが、そのうちの一つに【圧倒的な力で無理矢理従わせる】という方法がある。


 そんな乱暴なことしちゃ、反乱でも起こされるんじゃないの?と思うかもしれないが、むしろ逆。


 強い力を持つ者に従うということは、その者の庇護下に入るということにも等しい。つまり、強い人に守ってもらえるので安心しておとなしく従ってくれるということだ。


 もしかしたら、数々のゲームで敵を捕まえるとき、弱らせてから捕まえるのは、こういうことなのかもしれない。あらかじめ力の差を見せつけることで、恐怖ではなく安心を植え付ける。そして、反逆心を封じる。思ったよりも理にかなった方法である。


 ちなみに、他の基本的なテイムの方法は、餌や好物をあげたり、好む環境を整えてあげるなど好感度を稼ぐ方法がある。


 しかし、凶暴で知能の低い魔物たちは、優しくしても優しくされていると自覚することが難しいので、懐かせるのは至難の技。そう、テイムするのに時間がかかるし難しいのである。


 しかも、その方法でテイムした魔物は、気分が変わったり魔物を満足させるエサや環境を整えることができなくなった時、反逆を起こされたり契約が破られる可能性があるのだ。


 これらは基本の情報なので、先程セクシャルもこの辺まではギリギリ読んだのではないだろうか。そのためセクシャルは言ったのだ。力こそ正義だと。


..................................................................


 思い立ったら即行動するのが、セクシャルの良いところである。


 ということで、早速狩りも兼ねて魔物を捕まえに魔境へやってきたセクシャル。未だに何を捕まえようとしているのか知らないが、私に……私たちたちにできるのはセクシャルの行動をねっとり監視することだけ。


 どうか、彼の捕まえる魔物がまともな魔物であることを願おう。触手系の魔物を捕まえようものなら、セクシャル・ハラスメント本来の意識が芽生えているのを疑わなくてはならなくなるからな。


 同人誌に良く出てくるような魔物を捕まえるのは勘弁してもらいたいものだ。


 いつもならば泥まみれの迷彩服を着てこそこそと森に入っていくセクシャルだが、今日のこいつは一味違った。


 まさかのパンツ一丁である。魔物に筋肉アピールでもするつもりだろうか。流石に、体を見せるだけでは効果は薄いと思う。だって、ほとんどの魔物の方がセクシャルよりもでかいし。


 細マッチョで絞れているセクシャルがパンツ一丁でいると、まるでフィジーク大会が開催されているかのように錯覚する。


 しかし、フィジーク選手ならばまだ良い。ブーメランパンツじゃないし。


 いつか、またボディビル大会の選手ように変わってしまうのではないかと思うと、震える。あの筋肉ダルマ状態のセクシャルは、もう見たくないものだ。


※フィジークとボディビル大会の違い……簡単に言うと、ボディビルは全身の筋肉総量で評価され、フィジークは上半身のバランスなども込みで評価される。つまり、フィジーカーよりもボディビルダーの方がデカイということだと思ってもらえると良いかもしれないです。



 話が逸れて申し訳ない。とにかく、いつもと違って敵にバレバレの姿になったセクシャルは、堂々と草木に体をぶつけ音を立てながらも森を進んでいった。


 そして、そんなふうに森を歩いていれば当たり前のように魔物たちに発見される。最初にセクシャルに襲いかかったのは、狼の魔物の群れだった。


 ほぼ全裸の状態で、狼の群れと正面衝突とは、不運な男である。普段は1匹、多くて3匹で行動している魔物を奇襲で狩っているので、見ているこちらとしても少し不安だ。


 果たしてセクシャルは、この狼たちに勝つことができるのだろうか。


 勝つことができたとして、御目当ての魔物のところまで到達できるのだろうか。そもそも、何の魔物を目当てにしているのかすら知らないが。


 というか、こうしてみると、堂々と森に入って行ったのは完全に失敗に見える。堂々とするにしても、普通に目当ての魔物を見つけてからで良いのに……www。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る