#2
千春の家から近い事もあってか、数十分もすると寝起きでボサボサの頭に、コンビニ袋を片手に公園にやってくる。
サチの姿を見て、驚いた表情をしたかと思うと、すぐに呆れた表情に変わり篤を見てきた。
何故、千春にそんな顔を向けられるのか分からなかったが、千春がサチに近づき「寒くないか?」そう言って、羽織っていたカーディガンをサチに着せてあげた事でようやく気付く。
春とはいえ、夜はまだ肌寒い。そんな中、サチは薄着で夜の公園に居るのだ。寒くないわけがない。
いつものぶっきらぼうな千春とは違い、優しくサチに話しかける千春。最初は警戒していたサチもすぐに千春には打ち解けたようだ。
「腹、減ってるんだろ?後、寒いからココアも買ってきたけど飲む?」
「ありがとう。ちはるおにいちゃん」
この日一番の笑顔をサチは見せて、内心ほっとする二人。だが、まだ何も解決はしていない。
「サチちゃんの事どうしたらいいと思う?」
「普通に考えれば分かるだろ?警察に連れてくしかないだろ」
「あはは…いや、そうだよな」
千春は大きなため息を吐きながら話す。至極当然の答えに何故、篤は気付かなかったのか。笑って誤魔化す篤であった――
公園のベンチに移動していた三人は、サチがメロンパンを食べ終えた後、近くの交番に行こうとした。
だが、サチは警察に行くのを嫌がっていたので、なんとか千春が説得をして、警官を公園に呼ぶという事でサチに納得してもらう。
110番をして警官に事情を説明すると、「その場から動かないで待っていてください」との事だったので、暫く待っていると警官が来た。
再度、駆け付けてくれた警官に事情を説明すると、名前などの個人情報を聞かれたのち、感謝の言葉を警官から貰い、「何かあれば連絡します」と言われてサチは警官に連れて行かれた。
「千春。今回は助かった」
「今回も、だろ?まあ、篤が誘拐犯扱いされなくて良かったな」
千春の言葉を聞いて、その可能性も少なからずあった事に気付き、反省した。次からはすぐに千春の事を呼ぼうと、心に固く誓った。
言葉に出していたら、千春に「俺じゃなくて警察を呼べよ」と、言われたであろう――
千春と別れた篤は家に戻ろうとしたが、自分が何のために外に出たのか気付き、コンビニに向かう。
時刻は午前2時を過ぎた頃。
どうせ明日は休日。特に予定がない事もあり、家に帰ってコンビニで買った酒でも飲んでから寝ようと、そう思いながらコンビニ袋を片手に暗い夜道を歩いていた。
サチは今後、どうなるのであろうか。そんな事を思いながら歩いていると、先程の公園までやって来た事に気付く。
公園の入り口で篤は立ち止まりながら思う。
もしかすると、サチがこの公園に来たのは、今日が初めてじゃないのだろう。恐らく、ここで見た女の子の幽霊の噂はサチの事じゃないか、と。
先程まで不気味に思えた公園だが、どこか寂しく篤の目に映る。
サチの今後の人生が良い方向に向かう事を祈りながら、自宅に帰ろうと足を一歩踏み出した時だった。
「うわっ」
足が動かず篤は地面に転んでしまった。一体なんだ?何かに躓いた?痛む身体を起こしながら、後ろを振り返ると女の子が篤の足を掴んでいた。
「は…?」
状況が呑み込めず固まる篤。頭がパニックになって、必死に自信の身になにが起こっているのか考えていると、篤の足を掴んでる女の子が顔をゆっくり上げた。
顔を上げた女の子の頬は瘦せこけ、両目は真っ黒に窪んでいる。
「うわぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
その日、静かな住宅地に篤の悲鳴が木霊した――
数か月後、あの公園の近くで昔起きた事件を篤は職場の人から聞いた。
今は解体して無くなってしまったようだが、あの公園の近くには古いアパートがあり、昔に母親と2人で住んでいた小学生の女の子がいた。
その母親がある日突然、一人で家を出て行った後、女の子は何ヶ月も母親の帰りを待ちながら、最期は部屋の中で餓死していたという事件があったという。
数か月前のあの時、篤が見た女の子は、餓死したその子だったのだろうか。
気にはなるがもう一度、あの公園には行こうとは思えなかった。
【彷徨う女の子】~完~
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