第16話 冷静すぎる永遠君。

 未来を拾ったあの日から2年が経った。最初は壁を引っ掻いたり夜中に大声で鳴いたり色々あったが、時間が経つに連れそれもなくなった。好奇心旺盛は変わらないがかなり成長した未来。能力もかなりコントロールできるようになった俺は…


絶賛病み期だった。入試が近くなり、段々自分の行動に焦りが見られることに気づく。自分でそれを感じるたびに何もする気になれず、俗に言う”受験うつ”になっていた。


 それでも、中学3年生になって半年が経った頃に見つけた、とあるオープンチャットの皆に支えられて俺はなんとか頑張っていた。歌が好きで入った歌オプだが、皆と話す時間が楽しかった。ふざけて作った”カオス組”のメンバーも数十人になり、さっきと矛盾するが受験なんてどうでもいいと思う程に楽しんでいた。玲と斗亜もカオス組に入って楽しんでいた。


 でも、それが自分を追い詰めることになるとは考えもしなかった…


***


「目が醒めたかい?」


 受験前日の朝。目覚めた俺に聞こえてきたのは毎朝起こしてくれる未来の鳴き声ではなく知らない男の声だった。


「ここは…」

「簡単に言えば君は私達の実験材料にするため攫われた立場だね。」

「明日受験なんだけども。なんで俺を…」

「数年前何らかの原因で曇り空が一瞬で快晴になる現象が起きた。我々は血眼になって探したんだよ。その正体…君をね。」


 …恐らく、俺が斗亜に能力を見せた時の話だろう。だが、それをわかっているのにまともな拘束もせずに喋るこの男は何なんだ?


「不思議だろう?それがわかっているのに私は君の反撃手段を潰していない。」

「ああ。隠すのも面倒くさいから言うが逃げようと思えば今すぐ逃げられる。」

「生意気なガキだな…まぁ良いだろう。私達の研究に協力しないなら君の大事な人達の命は保証できないがな。」


 面倒くさい。全体的にダルい。全ては自分の思うままとか思ってるタイプだコイツは。だったら従うフリして徹底的に潰す。相手は犯罪者だ。躊躇する必要はない。


「従えば良いんだろ?何すんだよ俺は。」

「物わかりが良いと助かるねぇ…君には2つの研究に付き合ってもらうよ。一つ、君が出来ることは何か、そして何故出来るのか。2つ、その能力を他者に譲渡することは可能なのか。まぁ、実験開始まで時間はある。ゆっくりしていればいいさ。」


 そう言って男は去っていった。なんかそれっぽいこと言ってるけど具体的に何をするかの説明もなしか。どうせ出来ることないし、あいつを徹底的に叩き潰さないと気が済まないから今は従順なフリをしよう。


そして数十分後。


「ついてこい。」


 先程とは違う堅苦しい真面目ってレッテルが似合いそうな男が部屋のドアを開けた。無言でそいつについていき、連れてこられたのは体育館のような場所だった。


「さぁ、研究開始だ。」

「そう言われても何するかとか説明くらいしろよ。わからねぇだろ。」


 思わず言ってしまった。ステージのようなところにさっきの男が立っていたが、マイクで遠距離から喋っていたため俺の声は聞こえなかったようだ。


「君にはまずありとあらゆる手段でこの機械達と戦ってもらう。」


 男がそう言うと体育館の壁からわらわらと人型の機械が出てきた。手には刃物だったりチェーンソーだったり色々ついている。…これ割とガチでやらないと死ぬよね?


「始めよう。」


 男の合図とともに一斉に襲いかかってくる機械。”あれ”を使うか。


「”俺”、準備はできてるな?」

「もちろん。いつでもやれ。」

「「そんじゃ、暴れてやろうじゃねぇか。」」


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