……ぁ…なんだ…撃たれた…のか?

撃たれて…倒れた?

…だれか叫んでる?


「――かっ!陛下!!大丈夫ですが!?おい!!早くポーションを持ってこい!!!」


「……ぁ…ぅ…さっちゃん?」


「陛下!?ご無事ですか!!」


肩を掴まれ、何度も体を揺らされる。目が覚めるとそこには彼女ではなくダリアの姿があった。全身が痛い。でも骨折はしてないな。体もなんとか動かせそうだ。


「だっ大丈夫…」


俺はダリアの肩を借りながら何とか立ち上がった。自分の体を見ると、全身が切り傷と打撲だらけだった。頭に感じた違和感にオデコを触ると、出血していた。痛みと出血、脳振盪によって気絶しただけだ。


だけだ、と言っても即死しなかっただけで、全身傷だらけだ。今のと同じ攻撃を何回も食らったら、流石に死ぬな。でもあれだけ弾が直撃したのにかすり傷と打撲で済んでいるのは強すぎだろ…脳天に直撃しても脳振盪で住んだし、全身を触っても弾が体内にある感じはしない。


辺りを見ると、何十発の銃弾が転がっていた。弾を拾って確認すると、先端に血痕があった。俺の体にぶつかって弾かれたのか。


俺は壁にいるゴブリンたちを眺めた。気絶しているうちに、壁の上に配置していたゴブリンの多くが、俺が倒れていた壁中央に集中していた。すでに壁のすぐ下から人間たちの叫び声が聞こえる。


みんな俺が復活したことに気が付かないほどに、敵に向かって矢や投槍、石を投げつけていた。


「みんな!!俺は生きてる!!!最後まで諦めずに戦うぞ!!」


俺が人間たちの声に負けないように叫ぶと、周りに居たゴブリンたちが一斉に俺の方を振り向いた。


「兄貴!!」

「陛下!」

「リーダー!」


ゴブリンたちは俺の声に笑みを浮かべながら答えてくれた。先程まで人間に負けていたゴブリンの掛け声がすぐに大きくなっていく。


俺は小壁の穴から外を覗いた。角度的に壁の真下は見えないが、それでも通路へと繋がる野路には、見る限り100人近くの冒険者たちが、木の板や枝を材料に、即席で作ったような大盾を空に掲げていた。


「おぉ…人間の屑共がいっぱい来てらぁ!!」


そろそろ楽しくなってきたんじゃないかぁ⁉

俺は振り返ってダリアを呼んだ。


「敵はもう地下通路まで来てるか!?」


「はい!!今はナラントン殿が先頭に立って迎撃しております!!」


「分かった!俺もそっちに向かうから!ここはお前たちで頼んだぞ!!」


俺の言葉に返ってきた返事を背にし、俺は壁のから飛び降りた。通路の真上にいた俺は、眼の前に立ち尽くす巨大な体に話しかけた。


「すまないね、遅れて」


「…お前が気を失っている間に10人は殺ったぞ」


俺が後ろから話しかけると、オーガは一瞬だけ俺の存在を確認した後、真下にある地下通路の小さな穴を見つめた。


「どう?俺が考えたモグラ叩き作戦は」


「入口はあえて広くし…出口に近づくほど狭くする…」


「それだけじゃないけどね、外から通路の中に入ると、入り口は下りだけど、出口は上りにしてあるから、簡単に進めないようにしてある。そして上りと下リの境目には落とし穴を設置した」


俺が改めて通路の説明をすると、ナラントンは鼻を鳴らしながら棍棒を振り上げた。真っ赤に染まった棍棒が空を切った瞬間――人間の肩幅一人分ほどしかない小さな穴から、冒険者が飛び出してきた。


飛び出してきた冒険者は、入口の反対側に立っていたナラントンの方向に銃口を向けていた。だが冒険者が引き金を引くほんの少し早く、ナラントンの巨大な棍棒が冒険者の頭を叩き潰した。


果実が踏み潰されたような音と一緒に、血漿が辺りに弾け飛んだ。通路の中から微かに人間の叫び声が聞こえる。


「おぉ……まぁこれを見るに気休め程度だったか…」


ナラントンの反射神経に拍手を送ると、ナラントンは納得してなさそうな顔を俺の方に向けてきた。


「このままずっとモグラ叩きをしても良いが…人間がこのままで終わると思うか?」


いいや、ちっとも思わないね。俺は笑みを浮かべながら両手を広げた。頭に感じる風は西へ、つまり人間たちの方角へと吹いている。


「いい感じに馬鹿どもが通路に押し寄せて来ましたわ。そろそろアレ始めるぞ」


「アレとは…アレか」


ナラントンが納得した様に頷いた。俺は通路の入り口を囲む、土手の後ろに隠れていたゴブリンたちを呼んだ。コイツ等は壁の中から石や槍を投げるだけじゃなくて、他にもやってもらう事がある。


俺がマリクリに命令して作らせた地下通路――この長さは壁の外側が10メートル、内側が15メートルほどになっている。外から入ってきた時、下り階段と上り階段の間には縦幅2メートル、高さ5mの落とし穴を作っている。落とし穴は木の枝と土で作った騙し床があり、人間一人でも踏めば簡単に崩れる。俺たちがこの通路を使う時は、落とし穴の上に木の板を置いて渡っているが、それはすでに撤去してある。


ただここまで人間たちが来ているということは、俺が気絶している間に突破されてしまった様だ。でも俺が仕掛けた罠はこれだけじゃない。この通路の内側、つまり上り階段は15メートルの長さがあると言ったが、それは階段のちょうど真ん中が踊り場となっているからだ。


なんでこの踊り場を作ったかというと、この踊り場がある場所の地面に、小さな空洞を掘りたかったからだ。空洞の幅は10cmもない。今は上から木の板と土をかぶせて、中に外の光が漏れないようにしてある。


「お前ら!!例のブツ持って来い!!」


俺が命令すると、土手の後ろで石を投げていたゴブリンたちが、通路の中にいる人間から反撃されないよう、土手の左から回り込んで俺のところまで登って来た。俺は地面の土を払って、下に隠されていた木の板を取り払う。中を見ると、上を見上げた人間と目がった。


「にょっす!どうも!悪いゴブリンでーす!」


良いゴブリンなんていないけど、一応最初で最後の挨拶はしておいた。俺が呼び出した三匹のゴブリンは、すでに例の玉に火をつけていた。早くしないと中に入ってるブツに引火して俺たちまで倒れちまう。


俺がこの一週間で発明した例のブツ。

通称――シャブ玉。

葉っぱに包まれた拳サイズほどの玉の中には、俺たちゴブリンが愛用している、薬物の原材料にあたるケッシ―という食物の茎と、根っこを砕いて混ぜた粉末に、ケッシ―の種から採った油を混ぜたモノが入ってる。

つまる所、俺たちがよく使っている薬物の原液――そのめちゃくちゃ濃いバージョンだ。濃いというか、濃すぎてほぼ固形だ。普通の原液はこのケッシ―の種から採った油が3に対して、茎と根っこの粉末を1の対比で混ぜる。


なぜかって、ケッシ―の油は精神に対する高い鎮静作用と眠気をもたらすだけだが、茎と根っこを大量に摂取すると、天国のような気分を味わえる代わりに、そのまま本当に天国へ行ってしまうからだ。


だがこのジャブ玉の中身は油と粉末を1対1で混ぜてる。ケッシ―の粉末は燃して煙を吸っても、経口摂取と同じ効果を与えるが、煙を一度に大量に吸ってしまうと、一瞬で意識がぶっ飛んで、そのまま一生この世に帰って来れなくなるから、普通はそんな使い方はしない。でも今は戦争中なんでね。一応、すでに北の里で捕まえた女たちに、小指の爪一つ分の粉末を燃やした煙を嗅がせて、効果があるかは確かめてある。


白目を拭きながら、泡吹いて倒れた時はやっちまったと思ったが、二日後には意識を取り戻したのでなんとかなった。だからこれに火をつけて、シャブ玉が燃えた煙を吸えば、冒険者も一発Koだ。


実験の時と違うのは、今から燃やす粉末の量が10キロ以上にもなるって所だな。


俺と三人のゴブリンは、かがり火で引火させたシャブ玉を、通路の上に開けた五つの空洞からどんどん放り投げていく。その数はざっと50個。


空洞から地下通路を見ると、どんどんと噴き出る白い煙によって冒険者たちはあっという間に包まれてしまっていた。


「お前らあああああ!!!!全員!!壁の両端に逃げろ!!!!」


ゴブリンたちにはすでにシャブ玉の件は伝えてある。というより、彼らに戦ってもらっていたのも、このシャブ玉作戦を成功させるための布石に過ぎない。


壁の中央付近に集まっていたゴブリンたちは、俺の命令が聞こえると同時に、すぐに真下の地下通路から離れるため、壁の左右どちらかの方角へ走り出した。


「俺たちも逃げるぞ!!」


俺はナラントンと呼び出した三匹のゴブリンに向かって叫ぶと、手持ちにあったシャブ玉を全部、通路の入り口に放り投げた。


そして――。


「ナラントン!!通路の入り口に火炎をブチ込め!!!」


「分かってる……火炎弾っ!!」


俺が命令した時には、既にナラントンの右手には巨大な火の球が浮かんでいた。そしてナラントンが右腕を振りかぶると、火炎球が勢いよく、シャブ玉を放り投げて煙を出していた、地下通路の入り口に直撃した。


通路の入り口を炎でふさいで、壁の内側の方へ冒険者が逃げてこれないようにしながら、投げたシャブ玉を一気に燃やして、大量の煙を発生させる。


土手を超えて、俺たちは里中央の焚火場まで逃げながら後ろを確認した。すると地下通路がある壁の中央辺りから、空を覆うほどの大量の白い煙が噴き出ていた。


壁の外からは冒険者たちの叫び声が聞こえて来くる。


「いいねぇ…苦しいねぇ……お前ら!!風向きが変わるかもしれねぇから気を付けとけよ!!」


俺が台地の崖の方まで避難していたゴブリンたちに注意喚起のため声をかけると、ゴブリンたちは人間たちの絶叫に笑いながら声を上げた。


空を見上げると、シャブ玉が燃えて生まれた大量の白い煙が、風に流されて壁の向こう側に流されていく。通路の中からも外からも大量の煙が流れてくれば、壁の中央に集まっていた100人近くの冒険者たちに多くの被害を出せているはず。


あれから10分程、大量に出ていた煙が次第に薄くなっていく。もうそろそろ壁の方に戻って良いだろうか。俺が少し前に足を踏み出した時だった――。


「うびっ⁉あびびびっ⁉ぶっ…ぶびゅ⁉あびゅ⁉」


体中にレベルアップの電撃が走り出した。

電撃が何回も重なっていく…1、2、3、4回もだ。

俺が地面に膝をつくと、後ろでも悲鳴が聞こえた。


「びっびゃあぁぁ⁉…す、すごぃぃぃ⁉⁉」

「うびっ⁉ぁびびびびびっ⁉⁉」

「うお⁉なんだこれ?」


俺の後ろにいた三匹のゴブリンが一斉に叫び始めた。二人は痙攣を起こしながら地面に倒れる。もう一人も地面に膝をつけながら、震える右腕を見つめていた。この三体は俺と一緒にシャブ玉を通路の中にぶち込んだ奴らだ。


ケッシ―の粉末を大量に摂取すると急性中毒を起こして死亡する。俺とあのゴブリンたちがレベルアップをしたということは、それだけ多くの人間が死んだと言うことだ。特に俺のレベルはすでに12になっていた。上がれば上がるほど上がりにくくなるレベルが、一度にこれだけ上がったと言う事は、高レベルの冒険者もかなりの数が命を落としたはずだ。


すでに白い煙は存在しない。

俺は近くにいたポポンを呼んだ。


「おいポポン」

「はい!!」


俺が読んだ瞬間、ポポンは勢いよく返事をして俺の元まで駆け付ける。


「なぁ、あの通路の中に入ってもらうことできるか?」


「でっできるわけないじゃないですか⁉」


俺のお願いにポポンは驚いたように声を上げた。

ポポンの兄貴?後輩のお願いを断るの?


「おいポポン…俺に殺されるか、地下通路の空気を吸ってくるか…どっちがいい?」


「うっ…うぅ…分かりました…よ…」



俺に脅されたポポンはすぐに観念したのか、地下通路の方まで歩き始めた。俺もポポンがちゃんと中に入るところを確認するため後ろをついていく。もしケッシ―の粉末の匂いがしたら俺はすぐに逃げるけどな。


ポポンは一瞬だけ俺の方を振り返った。

泣いて可愛いのは美人の女だけだ。

俺は口を尖らせながら顎を動かした。

ポポンは俺に同情を誘っても意味がないと悟ったのか、口元を手で覆いながら、ゆっくりと通路の中へ入っていった。


「敵がまだ生きてたらすぐに帰ってこい!!」


俺がポポンに声をかけると、ポポンは振り返って目に涙を浮かべながらなんども頷いた。なに悲劇の英雄気取ってんだ。てめぇただの禿げ散らかしたゴブリンだぞ。


ポポンの通路の中に入って十秒ほど、通路の中で一発の銃声が鳴った。俺は咄嗟に通路の入り口を囲む土手の後ろに体を隠す。


「ポポン!大丈夫か⁉」


「ひいゃぁ~!!」


俺が通路の入り口に向かって叫ぶと、ポポンが泣きながら俺の元まで走ってきた。


「どうだった⁉シャブの煙は?まだ生きてる奴がいたか?」


俺がポポンに問いかけると、ポポンは首を振り、そして頷いた。


「シャブは大丈夫でしたぁ…通路にいた人間もほぼ全員死んでるか、瀕死です…通路の外に居た連中も殆ど倒れてましたけど…何名かはまだ生きてましたぁ」


「よくやった!!この戦いが終わったら一日だけ便所の女を一人、占有していいぞ!」


ポポンは両手を上げて雄たけびを上げた。俺はそんなポポンを無視して、壁の上へと続く階段を登っていく。小壁の小さな穴から外の様子を伺うと、森まで続く野路にいた、大量の冒険者たちが地面に倒れていた。だがやはり数名は立っているな。


生存者の数はざっと8名ほど。100人近くいた冒険者の9割は死ぬか瀕死状態になった。作戦は大成功。レベルも上がって良いことだが、生存者がなんで生き残れたのかも気になる。外に居たからたまたま生き残れたのか?


生存者たちはなにか叫びながら周辺の仲間を介護したり、森の中へと走っていく者たちもいる。仲間の方へ逃げ出したか。壁の上を気にしている者たちはいない。俺は隙を付いて、小壁の狭間から顔を乗り出して、壁の真下を覗いた。


案の定、通路の入り口で詰まっていた大勢の冒険者たちは地面に倒れていた。外に居ても流石に通路の入り口にいた者たちは助からなかったか。俺がそう考えに至った時、通路の入り口から数名の冒険者が外へと走ってきた。


なにか叫びながら冒険者たちは仲間の方へと駆け寄っていく。外に居た連中も、通路の入り口から逃げ出してきた仲間の存在に気が付いたようだ。


「あ、やべ」


だが同時にその後ろにいた俺とも目が合ってしまった。俺は急いで顔を隠すと、壁から飛び降りてポポンの方まで後退する。


「ポポン、いったんみんなの元まで行くぞ」


「はい!」


逃げる時は一丁前だな。俺とポポンは急いで仲間がいる焚火場近くまで戻った。俺は焚火場に到着すると、そこにいた後方組だけでなく、台地の崖まで後退していた、壁の上に立つゴブリンたちにも指示を出していく。


「お前ら!!敵が体制を建て直すまえに!全員で通路にある死体から銃と弾薬を奪うぞ!!俺について来い!!」


俺の命令が飛ぶと、ゴブリンたちは雄叫びを上げながら通路の入口まで走っていった。俺も通路の入口まで走っていくと、ゴブリンたちに指示を飛ばしていく。


「詰まらねえように最初に10人だけが入って、銃と弾薬を奪ってこい!それ以外は奪わなくていい!!他のやつは通路に立って、リレー形式で奪ったものを壁の中に運び入れろ!」


俺の指示に従ってゴブリンたちは急いで動き始めた。早速、入口近くにいたゴブリンたちが通路の奥の方まで進んでいき、それ以外のやつは狭い通路の中で順番に並び始めた。


通路の一番最後にいたゴブリンに一つ目の銃が手渡された。


「銃と弾薬を手にしたやつから洞窟の入口まで撤退しろ!!俺はマリクリを持ってくる!敵が攻めてきたらナラントン!お前が壁の上から奇襲して時間を稼いでくれ!」


ゴブリンたちの返事を背にし、指示を飛ばした俺は急いで洞窟の中に入っていった。


「よう、たぶんお前の人生最後の仕事だぞ」


俺は四肢を失ったマリクリを牢屋から引きずり出すと、洞窟の入口まで戻ってきた。俺は自我を失ったマリクリを起こすため、やつの腹を蹴飛ばした。


小さなうめき声を上げながら、マリクリは虚ろな目を俺の方に向ける。


「この洞窟の入口を囲むように土手を築け。高さと厚さはコブリンの胸辺りまででいい」


洞窟の入口の幅は3メートルほどだ。それを少し余分に囲むぐらいの土手を築いて、ゴブリンをここで待ち伏せさせる。


人間はゴブリンが銃を使えるなんて考えてもいないだろうな。まぁ実際にゴブリンは銃の仕組みを理解できていなかったから、使えていなかったのは事実なんだが、この一週間の間に、斥候から手に入れた三丁のピストルで火縄銃の撃ち方や装填の仕方は解明してある。


全部で弾薬は100発以上あったので、狩り組の奴らを優先的に火縄銃の装填と発射の練習をさせてある。居残り組は実弾射撃をさせてやれなかったが、それでも模擬練習で銃の扱いは覚えさせた。


俺の命令に従ったマリクリは土手を築いていく。硬い土がまるで意思を持った生き物のようにウネリ、形を成していく。


ものの数分で洞窟の入口を囲む土手が築かれた。俺は洞窟の中に戻り、マリクリを牢屋の中に投げ込んだ。


外に戻ると、10人ほどのゴブリンが長銃やピストルを手にして入口まで来ていた。


「へーか!これは!?」


先程までなかった土手にゴブリンたちは驚いた様子で俺に聞いてくる。


「ここで敵を待ち伏せするぞ。先に中に入っておけ」


俺の指示に従って頷き、土手を登っていくゴブリンたちをよそに、俺は通路の方まで急いで向かった。


焚き火場の方まで来ると、通路から続々と銃を手にしたゴブリンたちが俺の方まで小走りで向かってきていた。


「陛下!!」


「そのまま洞窟の入口まで後退しろ!そこに土手を築いたから、その中で待ち伏せする!」


通路の入口まで辿り着くと、そこで立っていたナラントンに話しかけた。


「敵は!?どうなってる?」


俺の方を振り向いたナラントンは、小さく首を横に振った。


「先程、壁の上から覗いてみたが、なんの動きもない。突然に仲間が半分以上死んだことで、よっぽど警戒しているようだ」


なるほどね、敵はまだ来ていないか。


「そのまま撤退してくれれば良いんだが…もしこの状況で敵が攻めてくるとしたら…敵の最大戦力を投入してくるぞ。勝敗は俺と…お前にかかってる」


俺がそういうとナラントンは深く頷いた。


「分かってる…こうなったのもなにかの運命だ…人間を殺せるなら、最後までとことん付き合ってやる…」


ナラントンはゴブリンの頭を一口で飲み込めるほどの大きな口を"ニイ"っと笑ってみせた。こりゃあ頼り甲斐のある奴ですわ。


「銃を持った奴からさっさと後退しろ!うかうかしてると敵の攻撃が来るぞ!!」


俺がゴブリンたちに叫ぶと、地下通路から出てきたゴブリンが俺の元までやってきた。


「どうした?敵が来たか?」


「いえ!通路にいたのは俺が最後です!全員銃を持って交代しました!」


「よくやった!俺達もすぐに交代するぞ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る