反撃の火蓋
ヨーゼフの指示によってゴブリンの里を包囲していた冒険者たちが突撃を開始していく。ヨーゼフ自身も長剣を背に、大槌を担いだブルーノと共に里の中へ侵入した。
雑多な小屋が疎らに建てられている。冒険者たちの叫び声と足音が聞こえる以外、とくに敵側から目立った動きはない。足元を見ると、ゴブリンが既に死んでいた。だがこれは報告にあったゴブリンではないだろう。里全体を見渡すと、十体以上のゴブリンの死骸が地面に横たわっていた。
だがオーガの姿はない。
「オーガはどこだ!?報告にあったゴブリンはオーガの近くにいるはずだ!!探せ!!」
ヨーゼフは里の中を歩き回りながら、銃を携えた冒険者たちに指示を飛ばしていく。冒険者たちはヨーゼフの指示に従って里に中にある小屋や、焚き火場の炭の山の中まで、隅々までゴブリンを探していった。
だが里へと全軍を投入してから数分――今だ銃声は一発も鳴らない。冒険者の怒号と足音に包まれていた集落は、すぐに静寂とかしていく。
もうすでに逃げ出したか…。
ヨーゼフだけでなく、里に侵入した全ての冒険者たちがそう思ったときだった。
東の方角から叫び声が聞こえ始めた。里に居た冒険者たちが一斉に銃を携える。ヨーゼフも冒険者たちに隊列を組ませるために指示を出していく。
バラバラだった冒険者たちが少しずつヨーゼフのもとに集合し、横列の形を作り出した時だった――東の森から飛び出してきたのは同じ冒険者たちであった。
その数はざっと50名ほど。銃を構えた冒険者たちは、お互いに顔を見つめながら足を止めた。張り詰めた空気が裂けるようにお互いの集団から困惑したような声が聞こえてきた。
「東の…里の後方を任せていた部隊か…?」
「お前たちはなにをしていたんだ!!突撃の指示を出してから5分以上経っている!!もうオーガたちは逃げ出した後だぞ!!」
ヨーゼフはオーガたちを取り逃がした怒りを、遅れて突撃してきた冒険者たちにぶつける。すると部隊の中から一人の男がヨーゼフの元までゆっくりと進んできた。男の名はフランツ。銀等級冒険者として、今回の作戦において東側の部隊の統率を任せられていた者だった。
「私の部隊から四名の死傷者がでました。目撃者は全員死んでしまっているので犯人は定かでないが、おそらく例のオーガとゴブリンでしょうね」
フランツはさも当然のようにヨーゼフに対してそう話した。突撃が遅れた自分の責任を詫びる事もなく、平然と自身の前に立ち尽くす男の顔を見て、ヨーゼフの中で怒りと不満がみるみる募っていく。
「恐らくではない!もうこの里にオーガとそのゴブリンは居なくなった!!お前が早く部隊を動かさないから包囲網に穴が開いたのだ!!」
ヨーゼフは怒りに流されながらフランツに怒鳴りつけた。だが当の本人は薄く笑みを浮かべながら両手を広げるだけであった。
「そんなこと言われましても…部隊への指示と準備が終わる前に、ギルド長が率いる部隊が先に行かれてしまったのでね……それに西と東で部隊が分裂したのなら、包囲網に穴が開くとしてもそれは東ではなく、北か南でしょう。オーガとゴブリンを取り逃がしたのは私の責任ではありません。300人だけで里全体を覆うとすれば、隊列の幅は浅くなるのですから、突破されやすくなるのは当然では?そもそもゴブリンは川の西に生息していないのですから、ゴブリンを逃がさないためなら、包囲は南北と東だけでいいはずです。でもその私の提案を受け入れなかったのは誰ですか?敵の反撃があった際に、すぐに部隊を撤収できるようにと言い訳して、自身がいる本陣が置かれた西側に、無駄な戦力を配置したのは……」
「…っ……お前っ…」
「スチューデン一の英傑と言われた男が、”西は俺一人に任せろ”の一言も言えないなんて……こんな腰抜けが大将なら、だれも貴方の思う通りに動きませんよ」
最後に,ヨーゼフだけにそう聞こえるように呟くと、フランツは背中を向けて、自身が率いていた部隊の方へ歩き出した。
反論してくると予想もしていなかったフランツの反撃に、ヨーゼフはなにも言い返すことが出来なかった。ここに来て、ヨーゼフはやっと自分が犯した失態に気がついた。ヨーゼフは里全体を完全に包囲するために、銃を手にした冒険者たちを薄く、広く配置していた。
そして自身がいた本陣はオーガの里の西側、サルサ川の岸辺と森の境目に配置していた。つまりそれだけ西側の部隊にはヨーゼフの指示は早く届き、東側の部隊に届くのは遅くなる。
だがヨーゼフは各部隊に指示が届くタイムラグを考慮せずに、自分がいた本陣に一番近い、西側の部隊の準備が整うとすぐに突撃を開始してしまった。それでこちらの攻撃を察知したオーガとゴブリンが逃げ出した先にいた、まだ指示と準備が整っていなかった東の部隊によって、簡単に包囲を突破されてしまったわけだ。
こうなってしまった理由は単純だった。これまでのスチューデンの冒険者ギルドの歴史上、冒険者たちが100人以上で徒党を組んで戦闘をすることは今回が初めてだったのだ。それを指示するヨーゼフも、部隊を構成する冒険者たちもだ。
それでも冒険者の一部には国軍として働いていた騎士崩れもいたが、基本的に冒険者の自由意志を尊重するのがギルドの掲げる理念だ。当然、そのギルドが掲げる理念に賛同して入会する者がほとんどであるため、例えばパーティーのリーダーは居ても、それはあくまで報酬や戦利品の分配、戦闘の指示以外の権力は有していない。
なによりもリーダーはパーティーたちの多数決で民主的に決めるのが冒険者ギルドの掟であり、慣習だ。ギルド長も冒険者たち全員の投票によって決まる。金等級も鉄等級もみんな同じ一票だ。そのようなルールの理解し、尊重する彼ら彼女らには、軍権的な支配にはひどく嫌悪感を抱く者たちも多い。
人間としての自由と権利を守るために、冒険者は存在する。ただ闇雲に貴族の農奴として、畑を耕すだけの時代は終わったのだ。
だから冒険者たちは自分たちの意見が反映されにくくなり、またそれだけ統率者の権力が大きくなるような、強権的なリーダーに率いられた、大規模な集団を形成するようなことは滅多にない。冒険者の殆どは単独か少数パーティーを主軸とした戦闘スタイルであり、大規模な集団戦を想定したノウハウなどは有していないことが普通だ。
だから今回の作戦に置いて、時に強権的な素振りをみせるヨーゼフに不満はあっても、ヨーゼフの失敗をこの場で責められる者は誰もいない。みんな突撃が失敗したことに対する不安と不満、ヨーゼフに対する疑念はあれど、それでも元金等級冒険者として、一時代を築いたヨーゼフ以外の命令では誰も動かない。だからみんなヨーゼフが次に発する言葉を黙って待ち続けた。
「……すぐに…すぐに戦闘の準備に取り掛かれ!!東に逃げたオーガたちを追撃し、敵の本拠地を撃滅する!!全員!!俺を先頭にこの森を突破するぞ!!」
最後に銃を空に掲げ、ヨーゼフは後ろに居た冒険者たちに向かって声を張り上げた。それを目の当たりにした冒険者たちは、自らの魂を鼓舞する為に自らの命を預ける武器を空へと掲げ、そして叫ぶ。
すでにゴブリンの奇襲で30名近い冒険者が命を落としている。残りの戦力は270名ほどだ。あのゴブリンにまだ襲われていない270名の冒険者たちは、スチューデンの旗を掲げて森の中へと進んでいくヨーゼフの背中を追っていく。
それから四時間ほど。ついにヨーゼフ率いる冒険者たちは、東に逃げたと思われるゴブリンの集落にまでたどり着いた。
「なんだこれは……なんで…ゴブリンの集落に…」
ヨーゼフはゴブリンの集落を偵察する為に、木の陰に隠れながら頭だけをのぞかせた。その他数人の斥候として連れて来た銀等級冒険者たちも、ヨーゼフと同じように目の前にそびえる光景に動きを止めた。
なぜ、なぜゴブリンの集落に城壁が存在するのだ。この場に居る全員の冒険者たちがそう心に抱いただろう。壁の高さは3ディグデ以上はある。城壁の上にある歩廊には、そこに配置されたゴブリン兵を守るための胸壁が作られていた。
人間の都市にある――スチューデンの城壁の形とほぼ同じ作りだ。ヨーゼフ自身もこれまでに、数多くのゴブリンの集落を滅ぼしてきたが、集落を囲む柵はあっても、人間の都市にあるような巨大な城壁は見たことがなかった。
明らかに人為的な知恵が入ってる。ゴブリンが考えて作れるような代物ではない。まさか魔族の連中が?いやエルフか?どちらにせよ、普通のゴブリンの集落ではない。何かしら外部からの介入はあったと見ていい。
「しかしこれではっきりした…ここは絶対に、あのオーガを助けたゴブリンの集落だ」
ヨーゼフが周りに居た斥候部隊の仲間たちに向かって話しかけると、その中にいた銀等級冒険者の一人がヨーゼフに話しかけて来た。この男はたしか元騎士階級の産まれであったが、家が没落して傭兵に堕ちて、最終的に冒険者になった奴だ。
「ギルド長。あの一切の歪みも、崩れもない、滑らかな土壁を見てください。あれは恐らく土魔法による代物です。土を材料に、人力だけを利用して、あのように精巧な城壁を作ることは非常に困難です。まして小さなゴブリンの体と知能で出来ることではない…」
「…それは分かってる。おかしいのは土魔法が使えたとしてだ、我々の街にあるような城壁を作る知能と、アイデアがどこから来たのかということだ…この里を率いているあのゴブリンは、絶対になにか…不思議な力を持っている……」
以前、王都から流れて来た神父から、神事魔法の中には、神から叡智を授かる事が出来るという、禁忌の魔法があると聞いていた。教会はその魔法の存在を否定しており、そのような魔法を使う者がいたら、それは悪魔に魂を売った”魔女”だと言っているらしいが……まさかあのゴブリンがその魔法に目覚めた者だったとしたら?
いや、でもまて…だったら銃の脅威も最初から分かっていたはずだ。だがアイツは恐らくオーガを威力偵察の捨て駒にしようとしていた。あのゴブリンは銃の存在は知っていても、その銃の脅威をまだ完璧に理解できていなかったはず。
ゴブリンは神を叡智を授かる神事魔法を持っていない?だとしたらあの壁は一体何なんだ。ヨーゼフが壁の所在と、敵の本当の姿がなにかを判断しかねている時だった。
風を切る音と共に、胸壁の間から矢が飛んできた。
ヨーゼフは咄嗟に首を曲げ、飛んできた矢を避ける。
「ばれたか」
「どうしますか?」
「本陣に戻るだけだ」
後ろを見ると木の真ん中に矢が突き刺さっていた。避けていなければ丁度、ヨーゼフの眉間のど真ん中を貫いていただろう。ゴブリンの癖に良い腕をもってやがる。ヨーゼフは斥候部隊を連れて、一度本陣に帰還した。
「ギルド長、敵の様子はどうでしたか」
ヨーゼフが本陣の幕の中に入って一番に声をかけて来たのはフランツだった。ヨーゼフは木箱に腰を掛けると、フランツだけでなく全員に見て来たことを話していく。
「敵は我々が思っている以上に強大で、そして不確実性に溢れている。舐めてかかったらこの場にいる全員が死ぬことになる」
ヨーゼフの言葉に全員が信じられないといった表情を向けた。金等級と元金等級が居て、それに次ぐ銀等級冒険者が40人も居て、それ以外も銃を持った冒険者が200人以上いるからだ。
ヨーゼフが取り逃がしたと言われているあのオーガですら、30人ほどに囲まれて銃を撃たれれば地面に膝を付けた。200人で弾を撃ちこみ、銀等級やブルーノがもつスキルを使用すれば確実に勝てるはずだ。彼らにとって勝機は十分にある。だからこそここに居るのだ。
だが実際にゴブリンの集落を偵察して来たヨーゼフの反応は真逆だった。一体なにを見たというのか、全員がヨーゼフが次に発する言葉を待ち続けた。
「…壁が…壁があった。人間の都市にあるような壁だ。高さは3ディグデ以上はある。恐らく土魔法で作られた物だ。もし圧縮技術を応用していたら、俺やブルーノの力でも簡単には崩れん」
「人間の都市にあるような…壁だと?」
ヨーゼフが発した言葉にブルーノが反応した。ブルーノの言葉にヨーゼフは黙ってうなずく。他の銀等級冒険者たちも信じられない様子だった。
「ああ、そもそもゴブリンに壁を築けるような技術はない。なにより、15年前からこの地のゴブリンはサルサ川より東に定住している。スチューデンの城壁の姿を知りはしないはずだ…」
「…どんな見た目だった?」
ブルーノの問いにヨーゼフは少し困ったような顔を浮かべた。
「どうと言っても…ただ胸壁が壁の上に作られていて、人間の壁と作りが似ていると思っただけだ。塔や堀、罠があるようには思えなかった。端的にいえば、魔法で作られた簡素な土壁だよ」
ヨーゼフがそういうと、今度はブルーノが困ったような顔を浮かべた。
「人間の城壁の作りを知っている……その割にはまるで…御伽話で聞きかじった知識で作ったような壁だな……ただ時間がなかっただけか?」
「里の入り口はどこにありましたか?」
ブルーノがなにか考える様に口を閉ざすと、今度はフランツが質問して来た。フランツの問いにヨーゼフは首を振るう。
「城門らしきものは見当たらなかった。だが壁中央の手前に地下通路と思われるような穴はあったな。ゴブリンがあの壁から外に出入りしているとしたら、そこしかないだろう」
「罠の可能性は?」
会議に参加していた他の銀等級からも声が聞こえた。
「それは分からん…だがもし罠を仕掛けるとしたらそこになるだろうな」
「最悪、私とヨーゼフなら壁を壊せなくても自力でよじ登れる。問題は私とお前単独だけで、オーガと例のゴブリンを殺せるかどうかだ。お前がそんな賭けをするとは思えないが…もしより確実性を求めるなら、銃を装備した冒険者たちを里の中に入れなくてはならん」
「ああ、そうなれば嫌でもあの通路を突破するしかない。ゴブリンがあの通路を出入り口に利用しているなら、行き止まりなんてことはないだろう。だが当然、行く手を阻むように罠を張り、妨害してくるだろうな」
ブルーノに返事をしたヨーゼフに対して、今度はフランツが声を上げた。
「じゃあどうやって突破するんですか。こちらは攻城戦なんて想定してませんよ。大砲もないし、これから持ってくる時間もない」
「ああ、だからせめて安全にあの通路まで行くために、周辺の木を伐採して盾を作るしかない。通路の罠に関しては、”守護壁”が使える銀等級冒険者を先頭にして進んでいくしかない」
戦う前なら誰しもがベストな計画を立てることが出来る。だが実際にその場面に立った時、大抵は上手くいかないものだ。だから現実的に今の自分たちができる最善の手を打つしかない。それが例えセカンドベストであったとしてもだ。
◆◆◆
「敵はどう出てくると思う?ナラントン君」
「知らん、お前が言う通りならこの通路を通ってくるのだろ」
通路の手前で待機していた俺は、隣に立つオーガのナラントンに話しかけた。だけどナラントンは相変わらずノリが悪いね。まぁいいよ。俺の言う通りに動いてくれるならそれでいい。
すると壁の上でから甲高い笛の音が鳴った。
「敵が攻めてきたぞ!!」
「全員、武器を構えろ!!」
どうやら敵に動きがあったようだ。ダリアによる攻撃開始の合図に合わせて、壁の上に待機していたゴブリンたちが武器を構えた。先程まで聞こえてこなかった人間の叫び声や足音も聞こえる。
「ナラントン、ここは一旦お前に任せるぞ」
俺はすぐに不安になって、壁をよじ登りながら、通路中央に位置する壁の上にいたダリアの方までやってきた。俺は人間の様子を見つめるダリアの肩を掴んだ。
「人間の動きはどうだ?」
「陛下⁉…人間の動きですか?」
ダリアは俺の姿に驚きながらも、オウトツに開けた穴から離れると、俺にその場を譲ってくれた。壁の上に作ったこの小さな壁の凹凸にも工夫を凝らしてある。各小壁の両脇は少しカーブするように凹んである。この少し凹んだ所から弓を撃てば、弓を引くときに、外から頭と胸より下の胴体は見えない。
またこの小壁には、身を隠しながら敵の位置を知るために、小指サイズほどの小さな穴を三個だけ掘ってある。俺はその穴を覗いて、攻撃を開始した人間側の様子を観察する。
「ふほほっ…よ、よいねぇ……いい感じに棘に刺さってら」
小壁の小さな穴から外の様子を覗くと、壁から20m辺りに満遍なく生やした棘に冒険者たちは苦しんでいた。棘の長さは10cmほど。里の周辺は燃料の確保の為に木が伐採され、開けた土地になっているが、そこには深く雑草が生い茂っており、棘は見つけにくいだろう?。
でも地下通路まで続く野路には生やしていない。そこまで生やしたら俺たちも壁の中に入れないし、なによりこうすることで地下通路に冒険者を誘い込める。
森から飛び出して20人ほどの冒険者の何名かは、地面に生えた棘に気づかず、足を負傷したり、そのまま倒れて全身を串刺しになっている者もいる。彼らの犠牲によって他の冒険者たちも棘の存在に気が付いたようだ。
盾を掲げながら前進して来た冒険者たちは、棘の山の存在に狼狽えながら前進を止めてしまっている。
「石を一個貸してくれ」
俺はダリアのそばに居た、居残り組のゴブリンから拳サイズの石を貰った。俺は小壁の隙間から体を乗り出すと、全力で石を冒険者たちの方に向かって投げつけた。
空気を切り裂き、音を置いて飛んでいった石ころは、棘の前で立ち止まっていた先遣部隊の一人に直撃した。背骨と一緒に脇腹の右半分を失った冒険者はそのまま地面へと倒れる。
俺はすぐに小壁の後ろに身を隠した。その瞬間――無数の発砲音と一緒に、弾がいくつも俺が隠れた壁のところに飛んできた。だが土魔法で頑丈に造った壁はびくともしない。
一連の流れを見届けていたゴブリンたちに向かって、俺は奴らの心を鼓舞する為に声を上げた。
「見たかあ⁉おめえら⁉⁉あぁ⁉これがゴブリンの力だ!!森から逃げ出した猿共に、俺たちの恐ろしさを見せつけてやれ!!!」
俺がそう叫ぶと壁の上、そして下に限らず、里に居る全てのゴブリンから一斉に歓声と雄たけびが鳴り響いた。拳を上げてゴブリンたちは声を上げる。
小壁の穴から人間たちを覗くと、先程の銃撃で産まれた硝煙に包まれながら、冒険者たちは盾を掲げて負傷者を囲っていた。守っている負傷者は、先程俺が石を当てた奴ではない。最初に棘を踏んだ冒険者の一人だった。白いローブに身にまとった女――恐らく魔法使いだ。その女を囲いながら冒険者たちは森の方へと撤退する動きを見せた。
そんなにその女が大切なのか?
ゴブリンの歓声と雄たけびが森に響く中、俺は石ころを握りしめて、小壁の隙間から身を乗り出した。女を殺せなくてもいい。その守備に穴を開けれさえすれば――。
俺が握りしめる石を振りかぶった瞬間だった。無数の発砲が重なった巨大な爆発音が、ゴブリンの雄たけびを一瞬で掻き消した。里を覆う木々の隙間から一斉に吹き出た火柱と、硝煙の息吹。
「がっ――」
その光景と、全身に走った衝撃と痛みを最後に――。
俺の視界は暗転した。
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