第四章 スポーツ大会
第36話 スポーツ大会、スタート
「絶対勝つぞぉぉ!」
「「「「おぉぉぉ!!」」」」
委員長の掛け声でクラスのみんなは円陣を組んで、一斉に声を上げて気合を入れている。ほかのクラスでも同じようなことが行われている。俺もとりあえず円陣には参加した。クラスTシャツにはクラスのダサいロゴが、背中には名前がデカデカとプリントされている。
「おっしゃ、真。始まる前にアップするぞ」
「あぁ…すぐ行く」
教室にタオルを忘れたため、取りに戻るために隼人に声をかけてから走り出そうとした時。
「おい…藤原」
「はぁ…また、お前か…何?」
「約束は忘れていないだろな」
「はいはい、覚えてるって。言いたいのはそれだけ?」
「くっ……舐めやがって、すぐに思い知らせてやる」
「はぁ…めんどくせぇな」
俺の事を呼び止めた、吉田とか言う男に初めて会ったのは、ほんの数日前だ。
~二日前~
その日もいつも通りの学校生活を送っていた。昼休みの終わりごろ、俺は一人でトイレにいた。用を足し終えて手を洗っていたところに人が一人入ってきて俺に問いかけた。
「お前が…
「えっ?…あぁ…はい、そうですけど…」
いきなり声を掛けられた上にかなり高圧的な奴に絡まれた。見たことのない顔だ、知り合いではないだろう。さすがにこんなやつが知り合いに居たら覚えているはずだ。
「俺と勝負しろ!」
「はぁ?何ですか?いきなり」
「お前、血原と仲良いだろ?」
「えっ?まぁ…そうっすね」
これまたいきなり俺と月の関係について言及してきた。なぜ知っているのか一瞬疑問に思ったが、あいつが自分の周りに言いふらしているということだろうと思いすぐに疑問が晴れる。
「今度のスポーツ大会…俺が勝ったら血原とは関わるな!」
「いきなり話しかけてきてずいぶんな言いようっすね。あんたの中で俺がどういう認識されてるか知らないっすけど…なんであんたに俺と月の関係を指示されなきゃいけないんっすか?」
「月…月だと、名前呼びか…もうそんな仲なのか…」
「いや…それはあいつがそう呼べって…」
いきなり話しかけてきて、今度は独り言でブツブツと何か言っている。さすがにいろいろ腹立たしく思えてきた。
「ていうか…てめぇ、誰だよ?」
「俺は三組の吉田だ。覚えておけ…スポーツ大会で俺が勝ったら血原とは別れてもらうからな」
吉田と名乗る男は言いたいことだけを言ってトイレから出て行ってしまった。再び一人になる。
「何なんだよ、あいつ」
知らないうちに何故か俺は私怨に巻き込まれていたようだ。
教室からタオルを持ってきてグラウンドの端で隼人たちを探していると…
「どうしたの?そんな浮かない顔して」
「はぁ…誰かさんの巻き込まれ事故にあって疲れてんの…」
「巻き込まれ事故?何それ?」
どうやら俺と吉田の関係は月には伝わっていないようだ。渦中の張本人のはずなのに呑気なものだ。
「ていうか。お前何に出るの?」
「私はバスケットボールと最後のリレーだけ」
「マジか」
「本当は競技なんか出ずに君だけを見ていたいんだけど。最低一競技には出場しなきゃいけないから…」
「俺もリレー出るんだよな」
「へぇ~…じゃあ…勝負だね」
「正直、走りだけだったらお前に負ける気はないぞ」
なんか今までこいつの術中で良いようにされてきたが、今回ばかりはこいつに勝てそうだ。
「そうなんだ。…じゃあ、賭けをしよっか」
「賭け?」
「リレーで私のクラスが勝ったら、言うことを一つだけ聞いてもらうから」
「俺が勝ったら?」
「その時は、私が君の言うことを何でも聞いてあげるよ。もちろんエッチなお願いでも」
何かふざけたことを言っているが、これは正直こっちに有利すぎる賭けだ。月のクラスがどのくらい速いのかは知らないが、こっちのクラスには割と速い奴らがいる。
「はっ…言ったな?俺が勝ったら写真全部消してもらうからな」
「そんなお願いで良いの?」
「あぁ…絶対勝ってやる」
スポーツ大会なんて正直、疲れるだけの行事だと思ってきたが吉田の事や月の賭けの事を考えるとやる気がわいてきた。
「あっ…いた。ルナ~みんな探してたよ」
「ごめん~すぐ行くよ」
「ん?誰?」
知らない女子が俺と月の方に向かってくる。ショートボブで切りそろえられた黒髪と目元に軽い化粧、おそらく今日は行事なのでいつもよりおめかししているのだろうということは分かった。
ルナと同じオレンジ色のクラスからのTシャツを着ているため同じクラスの人間だということが分かる。ちなみに俺のクラスカラーは青。
「あれ?ルナ、その人…もしかして彼氏?」
「うん…」
「違います」
月なら絶対に余計なことを言うと予測して向かいの女子生徒から質問が来た時点であらかじめ考えておいた言葉を口に出す。
「え~マジ?その反応、絶対彼氏じゃん」
「いや…ちがくて」
「恥ずかしがらないでよ」
月の友達であろう女子は軽く俺の肩を叩いてきた。力はほとんど入っていないため痛みもほぼ感じないくらいだが。
「
「うっ…ごめん」
月に諫められた乃愛と呼ばれた女子は俺の方に向いて頭を下げてきた。
「あっ…いや…大丈夫だよ」
「へへへ…ありがとう」
「の~あ~」
月は女子の肩を掴んで少しずつギリギリと力を込めている。徐々に月の顔に闇がかかっていく。
「うっ…はいはい。人の彼氏盗ったりしませんよ」
「大丈夫、真は乃愛には
「はぁ?あたしだって、魅力あります~」
「ほら、行くんでしょ…行こう、乃愛」
「あぁ…引っ張らないで~」
そのまま乃愛さんは月に引っ張られて行ってしまった。俺も特に用事は無いので隼人達がいるところに向かって行く。
「真、絶対勝つぞ」
「へいへい、頑張りますよ」
隼人が少し遠い位置から手を振ってくる。俺もなんとなく手を振り返す。
俺はゴールの前、DF(ディフェンダー)だと言われた。隼人からは俺は右のSB(サイドバック)というポジションだと言われた。あくまでもディフェンダーなので守備の役割がメインになるが、状況に応じて攻撃も担当するらしい。オーバーラップをなんちゃらかんちゃらと言っていた。
隼人は自陣の真ん中、OMF(オフェンシブミッドフィールダ―)で、もっとも敵陣に近いフォワードのすぐ後ろあたりに位置して、主に攻撃を担うらしい。
凪はチームの最前線、CF(センターフォワード)でチームの攻撃の大部分を担っている。凪は長身で得点力も高いからだろう。
「藤原、そっち頼むぞ」
「OK」
隣にいる、CB(センターバック)についているクラスメイトから声をかけられる。普段話したりはしないが、今日は行事なので特別感がある日なのでいつもよりフランクな雰囲気が漂っている。
「まぁ…正直、キーパーとフォワードとディフェンダーくらいしか知らなかったんだけどな~」
正直、CBとかDMFとか言ってたが分からなかった。サッカー部ではないので。
「うっわ…メッチャ睨んでるよ」
向こうの最前線にいる吉田がこちらを睨んできている。隼人から聞いた話だが、吉田はサッカー部らしい。つまり、あいつは初心者に対してサッカーの勝負を仕掛けてきたことになる。いや…きたねぇな、あいつ。
「じゃあ…始めます」
スポーツ大会のサッカーは通常より短い30分間のゲームだが、今キックオフした。
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