第31話 いつも君を見ている
「はぁ…また、無くなってる」
朝、学校に登校してきて席に座ったが机の中身が減っている気がする。昨日、教科書とノートを机一杯に詰め込んでいったはずなのにそれが半分くらいになっている。
「あそこかな」
おそらく犯人はあいつらだとは思うが、とりあえず今日使う教科書もあるので教室の前にあるごみ箱の方に向かう。
「やっぱり…」
教室の前にあるごみ箱の中を見てみると案の定、私のものと思われる教科書とノートが捨ててあった。おそらく踏みつけられたのだろう表紙も中身もぐちゃぐちゃになってしまっている。
「どうしよう」
この教科書は今日使うので何とかして代わりを用意しなければならないのだが、どうするべきか少し考えながら自分の席に戻っていく。
「よし、借りに行こう」
一旦席についていろんなことを考えたが別のクラスの友達に借りに行くのが一番楽な選択だろう。
席を立って隣のクラスの椎名に教科書を借りに行こうとした時…
「あれ…それ、どうしたの?」
「…え?」
上原だ。いつの間にか私の席の斜め後ろに立っている。まだ荷物を持っているので今、登校してきたのだろう。
「…別に、大したことじゃないから」
「いや…これは大したことあるでしょ」
「ホントなんでもないから。大丈夫」
これ以上、何かあると対処がめんどくさいのでもう無視したくなってくるがそんなことをすれば今よりももっと面倒なことになるのは分かりきっている。
「あっ…そうだ、良ければ俺の教科書使う?」
上原はそのまま自分の鞄をゴソゴソと漁り始めたが、もう我慢できない。
「ねぇ…ちょっと…こっち来て」
そういって上原の手を掴んで無理やり廊下に出してグングンと彼を引っ張っていく。彼は驚いた表情をしていたが抵抗する気はないみたいだ。道行く生徒が私というか彼を見ている。
人気のない廊下の隅まで彼を連れてきて、バンッと思い切り壁に叩きるける。叩きるけると言っても私より何十キロも体重のあるため、彼はゆっくり壁に背中を付けたと言った方が良い。
「もう…いい加減にして」
「へ?」
「あんたが私に話しかけるたびに、いちいち嫉妬してくるようなめんどくさいやつがいるの…分かってるでしょ?」
「いや…何のこと?」
本気で気づいていないのか、それともその場しのぎの反応なのか分からないがとりあえず言いたいことだけ続けて言う。
「お人よしなのか、人助けのつもりなのか知らないけど…もう私に話しかけないで」
「俺…そんなつもりじゃ…」
「そんなつもりじゃなくても…そういう奴が居るんだよ。」
「ごめん、ホント。もしよければ俺から言っておくから」
「だから!いい加減にしろっつってんだよ」
つい感情が高ぶって大きな声が出てしまう。周りに生徒はいないため気にせず怒りをぶつける。
「はぁ…もういいや。あんたが何を思ってるか知らないけど、とりあえずもう今後、二度と、絶対に私に話しかけないで」
捨て台詞のようなことを吐き捨てて勢いに任せて廊下を小走りで教室に戻る。
「あいつ、なんか笑ってなかった?」
むかつくので彼の顔を直視していなかったが、彼の口角はわずかに上がっていたような気がする。まぁ…気のせいか。
その日の授業は何故だか清々しい気分だった。教室の窓から入って来た風がとても心地よく感じた。
「どうしたの?そんなにニコニコして」
「うん?何でもないよ」
部活終わりの帰り道、隣には椎名がくっついている。
「そう?なんかいつもより穏やかな気がする」
「まぁ…ずっと溜まってたイライラが解消されたから…かな?」
「へぇ~何があったの?」
「秘密」
「え~ケチ~」
住宅街の家と家の間の細い道を二人で歩いていく。時刻は18時20分を回ったところ。まだ完全に日は落ち切っていないが少しだけ空は暗くなり始めている。
「じゃっ…私こっちだから」
「うん、また明日」
「バイバイ~」
彼女は大きく手を横に振って私とは違う道を進んでいく。椎名は割と一つ一つの動作が大げさな気がする。
「ん?」
十字路の左の道に消えていく椎名の背中を見送って正面に向き直そうとした時、自分たちが来た道の電柱の影に何やら人のようなものが見えた気がした。
後ろを振り返るが誰も居ない。気のせいだろうか?
その日はいつも通り家に帰ったが、その日以降帰り道に違和感を覚えることが多くなった。人の気配が異常に多くなったり、自分とは違う誰かの足音が同じペースで聞こえたり、カメラのシャッター音らしき音が聞こえたりした。
「えぇ~それやばいやつじゃないの?」
「やっぱそういうことかな?」
「うん、絶対そうだよ。あれ…ストーカーってやつだよ」
「うぇっ…そうなのかな?はぁ…」
最近は嫌なことばかりだ。
お兄が変な女と仲良くなったり。友達の家に泊まると言って一晩帰って来なかったり。クラスメイトに嫌がらせを受けたり。ストーカーらしき人物に付け回されたりと、不運続きだ。
「誰か、家族とかに迎えに来てもらったら?」
「う~ん、お父さんは仕事だから無理だし…お母さんは車、運転出来ないし…」
「じゃあ…わたしが家までついていってあげようか?」
「いや~、椎名は頼りないし」
もう一年以上一緒にいるが椎名が誰かに対して怒ったり、むかついているところを見たことがない。ストーカーから見ても大した脅威にならないだろう。
「なんでよ~わたしだってパンチくらい出来るよ」
「いや…背が小さいし」
「シュッ、シュッシュッ」
椎名はその場でボクシングのシャドーのような動きで何もない空間を殴っている。良くても猫パンチ程度の威力しかなさそうなパンチが空を切る。
「あっ…じゃあ…お兄さんは?」
「いや…おに…兄さんも部活があるから無理でしょ」
「お兄さんって何部だっけ?」
「そういえば…何部に入ったんだろう?」
「えぇ~知らないの?お兄さんと家であんま話さないの?」
今思うと家ではあまり学校の話をしない。お兄が両親と学校の話をしているところも見かけない。両親よりも会話する機会が少ないので当然お兄の部活の話も聞いたことが無い。
「いや…話さないっていうか、おに…兄さんって必要なこと以外あんま話さないっていうか…」
「へぇ~去年はあんなに仲良く話してたのに?」
「う…うん」
「まぁ…わたしもすごいな~とは思ったけど、足速いし…周りに気遣いできるしで」
そうだ…お兄は部活でもいろんな人に慕われていた。一つ上の先輩である心晴先輩もお兄に心を掴まれた人の一人だ。
でも…ある事故に巻き込まれてから少し変わってしまった。その変化は些細なものなので近くにいる人しか気づいていないと思う。
「ていうか。本当にやばいと思ったら迷わず警察とかに行きなよ」
「うん…そうする」
「じゃあ…わたしこっちだから」
「ん…バイバイ」
その日は少し早足で家に帰った。
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