第二章 みんなの想い
第9話 夕日と血の出会い(血原 月の過去①)
私は生まれつき他の人とは違うところがありました。それは大きな牙が生えていることと瞳が赤いという点です。父方の家族は吸血鬼の子孫らしく、私にもその特徴が表れていました。
「うわっ…お前の歯、犬みてぇ」
小学校に入学して初めて話しかけて来た坊主頭の男子は私にそういってきた。
「……」
まだ精神が育ち切っていない小学生から見れば自分たちと違う奴は珍しくもあり、排斥の対象でもあった。周りの男子が私の牙をイジリ始めるのに時間は掛からなかった。
「バケモンだ~、逃げろ~」
当時の私は正直に見て、そう言われても仕方がない見た目をしていた。髪はボサボサ、肌も白く、牙を隠すことも出来ていなかった。形容するとしたら牙の生えた貞子のような見た目というのが一番近いと思う。
「おい、逃げようぜ~真」
「う……うん」
坊主頭にそう促された男の子は何故か最後まで私の事を見ていた。
藤原 真…クラスでも割と明るく友達も多い。授業中も積極的に手を上げていた。でも私の事をいつもいじめてくる奴らの友達らしい。正直……嫌い。
「ねぇ……なんでずっと私の事見てくるの?」
「へ?見てねぇし」
小学一年のある日、放課後みんなが帰った教室。誰も居ない空き教室で私は一人本を読んでいた。彼は廊下から私を見ていた。
「嘘…今日もずっと私の事見てた」
「見てないって…」
さっきよりも小さい声で彼はつぶやいた。夕方になり外はオレンジ色の光に照らされている。その光は教室にも差し込んでいる。
差し込んでいる夕日の光のせいか彼の顔は赤くなっているようにも見えた。
「何やってんの?」
「…読書」
「なんで?」
「好きだから…」
彼からされたことはないが、いつもいじめてくる奴の友達なので適当に答えていく。
「へ~、見せてよ」
「やだ……あっち行って」
「え~いいじゃん」
彼は私のすぐ隣にある椅子に座って来た。興味深そうに読んでいる本の中を覗こうとしてくる。彼に見られないように表紙を彼の方に向けて読み続ける。
「へぇ~ドラキュラ伝説っていうんだ」
「見ないでよ」
表紙を彼に向けたせいで読んでいる本の題名がばれてしまった。急いで本を閉じて懐にしまう。彼に背を向けてから猫背になり、再び本を開く。自分の体で本を隠す。
「なんで隠すんだよ」
「あんたに読ませたくないから」
少しでも大きな声を出しながら彼に読ませないように本を隠す。
彼はそれでも私の前に回り込んで来る。それに反応して体を180度反転して本を読み続ける。それを五回ほど繰り返した時、とうとう我慢の限界に達した私は彼に向かって話しかけた。
「何なの…あんた?何がしたいの?」
「だから~本を一緒に読むだけじゃん」
「嫌だって言ってんじゃん!」
つい感情が高ぶってしまい叫んでしまった。彼は目を見開いてこちらを見ている。普段、何を言っても何も言い返さない女の子がいきなり大きな声を出したため驚いているのだろうか。
「すげぇ…かっけぇ」
「何が?」
「もうちょっと見せてよ。歯」
「は?」
「その歯かっけぇ」
目の前の男の子はさっきよりも楽しそうな顔をしてこちらを見てくる。小学生特有の一切遠慮なんてない要求だった。
自分が一番気にしているところを見せてほしいと言ってきた。
「お願い…見せてくれたらすぐ帰るから…」
「は…はぁ?…いつも化け物とか言ってくるくせに…」
「えっ…俺は言ってないよ」
「うっ…そうだけど…」
実際彼は私をいじめてはいない。彼はいつもわたしをいじめてくる田中という男子の友達なだけ。
「ちょっと見せたら帰るの?」
「うん」
ここで彼のお願いを聞かなかったら明日から学校でどんなことをされるか分からない。もしかしたら彼が友達に告げ口してもっといじめられるんじゃないか、子供ながらに考えた。
「ん…」
口を開いて彼に歯を見せる。目は恥ずかしいので閉じている。顔は熱くなってくる、もしかしたら赤くなってしまっているかもしれない。
「すげぇ…」
彼の声がさっきよりも近くに感じる。なんだかとても変な気分になる。恥ずかしいのに何故か胸が高鳴る。
「ひゃっ」
突然、歯に何かが触れる感覚が襲ってくる。つい反射的に口を閉じてしまう。
「いっ!」
口を閉じる途中で何か柔らかい肉のようなものを噛んでしまう。思いっきり噛んでしまったせいかコリっという音を立てた。サビ臭い液体がわずかに口の中にあふれてくる。
目を開くと指から血を流した男の子が立っていた。右手の指から血を流し、左手でそれを抑えている。
「あっ……ご…ごめん」
いきなり怖くなって謝罪の言葉が考えるより先に出てしまう。恐怖で涙がこぼれかける。男の子の眉間にはしわが寄っていた。思わず唾を飲み込む。
…初めて味わうはずのサビ臭い液体をものすごくおいしく感じてしまう。
「いきなり触ってごめん!…怖かったよね」
しばらく教室に沈黙が漂ったのちに少年が頭を下げて来た。指はもう抑えていない。流れ出ていたはずの血も消えていた。
「えっ…あっ…」
その状況に頭が追い付かず、言葉が出てこない。確かに指に傷があったはずだ。それなのにもう傷がなくなっている。
「……なんで…傷が…」
「ん?あぁ…これ?」
そういってさっきまで傷があった指をこちらに見せてくる。血こそついてはいるが傷はどこにも見当たらない。感触的に柔らかい肉だけでなく、硬い骨まで噛んでしまった感触があった。
「小さい時から傷がすぐ治るんだ。骨折とかも一日で治っちゃうよ」
いきなり変なことを言われて、さらに頭が混乱する。そんな人間いるのか…傷がすぐ治るなんて…
「あれ?……君、目が…赤く…」
彼がそう告げようとした瞬間…
「あっ…ここにいたのか君たち」
教室のドアのそばに先生が立っていた。気が付けば外は薄暗い雲が東の空から出てきていた。
「ほら君たち早く帰りなさい」
「ただいま~」
「もう…遅いじゃない。何してたの月」
「…本読んでたら遅くなっちゃった」
「危ないからすぐにおうちに帰ってきなさい」
「は~い」
家に帰るとママから説教をされた。帰りの会の最中も本を読んでいたらいつの間にかみんな帰ってしまい、教室に一人だった。
ランドセルから読んでいた本を取り出して続きから読書を再開する。ママはすぐ横で洗濯物を畳んでいる。
「あれ?どうしたの月…そんなにニヤついて…」
「ニ…ニヤついてないよ」
「嘘、口元がニッコリしてるよ」
何故か本を読んでいると、少し前の出来事を思い出してしまう。無意識に口元が笑顔になっている。本で口元を隠す。
「好きな子でも出来た?」
「そ…そそそそんなんじゃないし」
「へぇ~本当に~」
からかうような口調で囁きながらこちらを見てくる。ママに対して嘘をついても、いつも見破られてしまう。
「今日…初めて男の子と話した…」
「へぇ~それで…」
「なんか…変な感じ…」
ママは何も言わずにこちらに笑みを浮かべているだけだった。洗濯物を畳み終わったママは夕飯の用意をするために台所に行ってしまった。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
「おかえり、パパ」
しばらく時間が経ち、外も真っ暗になってきたころにパパが家に帰って来た。パパは手にドーナツ屋の袋を持っていた。
「月の好きなドーナツ買ってきたぞ」
「やった~」
パパはたまに駅前のドーナツ屋のドーナツを買ってきてくれる。袋からは甘くて香ばしいにおいが漏れていた。
「月ね…今日男のお友達が出来たんだって」
「な!?ど…どどどんな子だ」
「そんなに動揺しないでよ」
ママがさっき話してたことをパパにも言ってしまった。パパはポカンとした顔を浮かべた後にものすごく慌て始めた。
「る…月、男の子ってどういうことだ?好きな子ってことか?」
「違う…しゃべっただけ」
「もう…パパ少し落ち着いて」
パパが私に駆け寄ってきて、尋ねる。まだスーツ姿のままだ。ネクタイすら緩めていない。ママがパパの肩をつかんで引きはがす。
「いたたた…」
「パパ…いきなりそんなこと聞かないの…」
「…あいつのことなんて別に好きじゃないし」
まだ私はあいつのことが嫌いだ。でも…ちょっと…
◇◇◇お礼・お願い◇◇◇
どうも広井 海です。
第九話を最後まで読んでいただきありがとうございます。
第二章は過去多めで行きたいと思ってます。
最後に少しでも良いなと思ったら、☆評価、いいね、フォロー、コメント等よろしくお願いします。
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