六節
六節
周囲の状況を改めて確認する三人。自分達を囲む信者、赤いベレー帽の男、プラント、その近くにある未完成の太陽光発電システム。
レイダはふと、ここに来た目的であるプラントに違和感を覚えた。資料で見たものとは違う、装飾がされていたのだ。プラントは、中心にある大きな黒い球体から無数のパイプが伸びており、そのパイプから食料が供給される。
ここにあるプラントは、球体部分が『黄色の星を取り囲む銃が描かれた』旗によって装飾されていた。彼らにとっての軍旗、もしくは国旗なのだろう。それ自体はさして不思議ではない。レイダが感じた違和感は、神と崇める存在を、自分達のトレードマークで隠すようなことをしている事実だった。まるでその裏にある、信者にとって都合の悪いものを隠すかのように。
レイダは視線で二人に合図を送る。彼らも同様の疑問を抱いていたようで、すぐにレイダがこれから行うことを理解した。エラが一歩前へ進み、話し始める。
「感服致しました。赤いベレー帽の御方。どうか我々にも神の声を拝聴させていただく許可を……」
「それは承服しかねる、若いレディ。それと私の名はセルゲイ。階級は大尉だ」
セルゲイが食い気味に答える。
「これは失礼しました、大尉。ですが我々は人類の使いではなく、神の恵みを求めてここまで来た貴方方と同じ立場なのです」
「悪いが……」
セルゲイが言葉を続けようとしたその時、レイダは既に近くの信者を組み伏せ銃を奪っていた。実際に戦闘経験があるのは大尉だけのようで、他の信者の動揺が見て取れる。
その隙をエラとヨドは見逃さない。二人もレイダに続いて銃を奪い、セルゲイに向ける。その間にレイダはプラントの中心に近づき、こう言い放つ。
「同胞の諸君、そこの大尉殿は大きな嘘をついている!」
そして件の国旗を剝がしてみせた。そこには『23D12H5M2S』という羅列がデジタル表記されていた。プラントは電力がなければ稼働しない。予備電源で食料を生成できる残り時間を表しているのだろう。この表記がされている以上、電源には接続されていないということだ。
「無限の食料など嘘っぱちだ。最早1ヶ月も保たない。これのどこが神か」
信者達の動揺はさらに激しくなり、セルゲイへの疑いの空気が出来つつある。セルゲイ自身は、苦虫を噛み潰すような顔をしている。
「間もなく発電システムが完成する予定だ。そうすれば神は再び無限の力を……」
「そうするためには、誰かが地上に出てシステムを守る必要がある。崩虫の目を欺きながらな」
セルゲイの言葉を遮りながらレイダが告げた事実には、信者達から疑問の声が出た。地下にある発電システムを守るためになぜ地上に出る必要があるのか、そもそも崩虫とは何か。これにはエラ達の方が驚かされた。彼らはおそらく生まれた時からここで暮らし、地上を知らずに生きてきたのだろう。フードに顔が隠れていたので最初は気づかなかったが、信者は若い者ばかりで構成されていた。そんな彼らにレイダはこの世界の真実を語る。
滅世での発電システムは専ら太陽光だった。水は大戦時から枯渇しており、化石燃料はとっくに無くなっていた。反応兵器が生んだ灰によって包まれた空も、今は光を取り戻しつつある。そしてここにある発電システムは、人類軍で使用されているのと同じ太陽光発電システムだった。地上で生き延びてきた者であれば、知らない筈はない。
システムの存在を知りながら、その本質を隠していたセルゲイ。如何なる理由があれど、嘘は不信を生む。盲信はイノチより価値が低い。意外にもあっさりと信者達はセルゲイに銃を向けた。
「我々は貴方の言葉を神の言葉と信じ従ってきました。ですが我々が信じるべきは自身の言葉だったようです」
信者、いや少年達は神と決別することを選んだ。怒りを顕にしたセルゲイは吠える。
「育てた恩を忘れたか。ここの直上は既に虫に荒らされた後だ。少ないリスクで多くを救えるのだぞ」
セルゲイの反論は正しい。崩虫の多くは群れで行動しており、一度食い散らしたエリアに戻ってくることは少ない。それでももし近づかれた場合は、太陽光パネルが視認される前に他の建造物へ誘導しなければならない。接近された時点で必ず一人犠牲になるのだ。
「そうだ。それが我々人類のやり方だ。だが繰り返す度に全体の数は減ってしまった。最早犠牲を出すやり方では何も解決しない」
レイダの言葉にセルゲイは肩を落とした。ヨドが地上への出口を聞き出そうとしたその時、あの聞き慣れた金属音が遠くから聞こえてきた。選択の時は近い。
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