釣果/@shibachu への簡単な感想
応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。
指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。
そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。
またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。
釣果/@shibachu
https://kakuyomu.jp/works/16817330654623205259
フィンディルの解釈では、本作の方角は北西です。
ただ方角の判断が非常に難しい作品だと思います。本企画のなかで一番難しいまであるかもしれません。
あれこれ考えたのですが、暗黒星雲さんが仰った「不条理ギャグ系のような気がしますので、北西かなと。」がもっとも的を射ているかなと思います。「あー確かに似ている」と思いました。
似た文構成を繰りかえしていますが、修辞に収まるものに感じて東的な手法とまでは感じませんでした。似た文構成で特定の文節のみを変える修辞、一般的にありますからね。それが作品を通して徹底されていれば東だなあと思うのですが、そういうわけでもない。
で、南もなくもないのですが、ピースの大きさがすごく気になりました。本作って常識・理屈を外すアプローチとして、常識をパッチワークにしているように感じられました。「兎といえば人参」「鴨といえば葱」「鯨といえば海」「竜といえば冒険・ゲーム」みたいな常識を、別の常識と無理やり結びつけることでナンセンスを作っている。
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上の兄貴は魚を釣りに出かけた。鯨を持って帰って来た。「大きいだろう」と胸を張った。下の兄貴は「厨房に入らないよ」と言った。僕は鯨を海へ還した。
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だと「魚釣りでは魚を釣る」「鯨は魚に似ている」「魚釣りでは釣ったものを持ち帰る」「鯨は大きい」「魚釣りで大きい物を釣れたら自慢する」「大きいものは厨房に入らない」「鯨は海に住んでいる」など個々の常識をパッチワークみたいにツギハギに結びつけることでナンセンスを作っているものと思います。
これが南らしさに欠けるといいますか、パッチワークにするピースが非常に大きく、また数が少ないんですよね。第三者が分解できてしまうくらい各ピースが大きい。南だと、パッチワークと感じられないくらいピースが小さくて多い傾向があるものと思います。石を積み上げた山には固体感がありますが、砂を積み上げた山には液体感があります。本作のこの固体感は、南らしくないなぁという印象です。
じゃあ何だろうなあと考えていたときに、暗黒星雲さんが仰る「不条理ギャグ系のような気がしますので、北西かなと。」がすごくしっくりきました。確かにこれって、不条理(ナンセンス)ギャグの作り方に似ているなと。本作にはギャグの香りこそしないのですが「通常では接続しえない二者の常識を無理やり繋げる」というのは、不条理(ナンセンス)ギャグでよく用いられるアプローチだと思います。作り手が「わけのわからない世界観を作ろう」と思ったときによく採用されるメソッド。「人間の上半身」は常識で「ポッキーの持つところ」も常識ですが、それを無理やり接続した「上半身が人間で下半身がポッキーの持つところ」という存在は非常識であるように。
それとおよそ同様のアプローチで本作は構築されているものと考えます。
なお本作には常識に留まる“ツッコミ役”がいないのでシュールギャグにより近しいと思うのですが、反面芝中さんが非常識を目指して現実世界から常識を調達してきている嫌いも見受けられるので、その点においてシュールさはあまり強くないとも感じます。そもそもギャグということでもないでしょうけど。
となると北西近辺が妥当だろうと思います。不条理(ナンセンス)ギャグは北西近辺ですから。そして大衆的な面白さは明らかに目指していない作品なので、真北と北北西はないだろうと思います。
真西~北西なのですが、細かい方角を考えるときに気になる点が二つありました。
まず、終盤にてRPGゲームの巨大なピースが出てくる。「鯨と竜は姿形がどことなく似ている」→「竜といえば冒険・ゲーム」という接続によりRPG表現がきたと思うのですが、最後は終始RPG表現に支配されている。RPG表現の突飛さを重用されたのかもしれませんが、フィンディルはここから「ここまでとは違う表現で、流れに変化をつけたいな」という芝中さんの執筆意思があるように解釈しました。本作にストーリーはあってないようなものでこれは方角に影響を与えないのですが、最後のRPG表現は目先を変えて読者を飽きさせないような印象を与えて、ここがやや北的だなと感じました。
次に、本作から寂寞とした趣きがほとんど感じられない。不条理(ナンセンス)ギャグがどうして北西なのかというと、受け手を笑わせるギャグと論理を用いない作話が理由として主要なのですが、それとは別にどこか寂寞とした趣きがあって純文学と一定の親和性があるからというのもあります。不条理ギャグって言いようのない寂しさがあって、何か人の本質が忍ばれているような風情があるんですよね。これが魅力のひとつだなとも思うのですが。
これが本作にはほとんどなかった。本作を読んでも寂しくなりませんでした。RPG表現による目先の変更が理由かなとも思うのですが、いずれにせよ不条理ギャグに似ているけどどこか違うなと感じたポイントです。あるいは特定の心情を想起させない点には、南向きを感じることが不可能ではないかもしれませんが。
以上から西がそんなに主張してこない印象があったので、北西と判断しました。
とはいえ判断はとても難しいです。
おそらく芝中さんは本作執筆で「いつも(≒北)じゃない作品を書く」ことを目標にされているものと思います。品質が目的ではなく、方角が目的。
ですので良くも悪くもニュートラルな印象があるのかなあと思います。素体っぽさがある。
なので本作の品質向上を目指してみると、自ずと方角が見えるような性格づけがなされるのではないかなと想像します。
より良い非常識を生む常識の組みあわせに注力すれば不条理(ギャグ)により見えてくるでしょうし、常識が非常識に組みあわさる世界観に注力すれば北西SFらしくなりますし、同文構造で任意の語彙だけすげ替える方針を厳格にとれば北東らしくなりますし、常識のピースの大きさを砂粒レベルにすると南らしくなるだろうと思います。
「北じゃない作品を!」ではなく「こういう面白みの可能性のある作品を!」を目指してみると、対応する方角に見えやすくなるんじゃないかなと期待します。
とはいえ各方角の面白みはフィンディルが述べているだけに過ぎませんので、何かしらの面白みを追求した結果どの方角にも当てはまらない作品になってくれるかもしれませんけどね。それはそれで面白いと思います。
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