慕思/文示 への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。




慕思/文示

https://kakuyomu.jp/works/16817330653424529116


フィンディルの解釈では、本作の方角は北北西です。


本作は起承転結あるいは序破急がしっかり組まれている作品ですので、北周辺は間違いないと思います。

出会い→惹かれる・罪悪感→幻想が解ける・事件→不思議な景色・絆の再確認。背徳感ある恋慕を扱ったエンタメそのままの構成だと思います。ファンタジー要素が意外性として差しこまれていますが、エンタメを揺るがすものではありません。

本作で北から遠い方角を解釈された方は、起承転結が当たり前になりすぎてしまっている可能性があります。起承転結は方角に多大な影響を与えます。


そして真北~北西のどのあたりかという話ですが、フィンディルとしては北北西と解釈しています。

本作は「貴方」の正体を明言しなかったり、絵里奈との仲違いの理由を明言しなかったり、(文示さんのなかで想定はあるのだろうけど)作中に書かないという処理を行っています。「七」で「貴方」の幻想が解けたタイミングについても、もしかしたら裏設定的なものがあるかもしれません。

ですので本作は物語の細部がわからないようになっており、その点で真北らしさが薄まっているように感じます。顔の輪郭を描かずに各パーツだけを描いている、みたいな感じでしょうか。

ただそれで物語の行方が見えなくなるのかというとそんなことはなく、物語の核自体はしっかり読者に広く届くようになっています。起承転結が崩れていないことが何よりの証拠でしょう。

真北の物語を演出のレベルで西に見せている、という技術が光る作品だと思います。良いと思います。

ですので、真北寄りの北北西ぐらいが妥当なところだろうと思います。


方角抜きだと、明言しないという作品コンセプトが表現のレベルまで浸透しているのが好印象でした。特に「三」が良かったです。

「三」は「貴方」への想いが募っていく「私」を描いていると思うのですが、「三」のどこにも「好き」「恋」「想う」みたいな直接的な語彙が使われていないのです。それでも「三」全体から「好きだ」という気持ちが溢れているんですよね。こういうところ、作品コンセプトにも合っていて上手いと思います。

一方、語彙チョイスの甘さが散見されるのが気になりました。わかりやすいのが次の文です。

―――――――――――――――――――

見つからないよう、本棚に隠れ小声で笑い合う2人を、小春日和の陽だまりが包む。

―――――――――――――――――――

「小春日和」とは晩秋から初冬にかけての穏やかな日和のことを指します。「小京都」が京都でないように「小春」は春ではありません。

あえて「小春日和」を用いて「春ではない≒現実ではない」という表現を試みたのかもしれませんが、それで秋や冬のエッセンスを入れるのは蛇足だろうと思います。あるいは実際の時期を示唆する伏線ならば、あまりにも具体的すぎる伏線で本作には馴染みません。

というように本作ではいくつか引っかかる叙述、描写がありました。

特に本作のように一文一文を丁寧に置いていく作品では、言葉の選び方詰め方にもう一段階上の繊細さを求めてもいいかなと思います。

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