憧景/☆涼月☆ への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。




憧景/☆涼月☆

https://kakuyomu.jp/works/16817330653656505452


フィンディルの解釈では、本作の方角は北北西です。


エッセイと小説とで勝手は違う(かつフィンディルはエッセイに疎い)とは思いますが、いずれも真北とされる文章は「それまでの内容を踏まえて新たな展開がなされる」というものが通常だろうと考えます。

内容を論理的に着実に積み重ねていった先にある結実を読者に提供する、それが大衆的に受けいれられる文章だろうと考えます。

それを考えたときに、本作にはそういった性質をあまり感じられませんでした。

「芋ずる式思考」と表現されていますがそのとおりで、直前の思考と蔓で繋がっている別思考に移ってそこを膨らませる、これを連続しているように思います。

終盤が顕著で、「憧景」を漢字から考察し、「景」は自然と人工が同居した文字であると考察し、自然破壊への警鐘に繋がって終わっています。論理展開として見るとかなり急ハンドルを切ったような印象がありました。確かに「自然への憧れ」に「人にとって住みよい」という要素もあるのなら、憧れるままに自然を変え尽くしてしまわないようにしようというのは不自然な着地ではないと思います。ただ自然破壊への警鐘を目指して説得力を蓄えてきたような読み心地は得られませんでした。憧れを伴なう自然を趣旨として進行してきたにもかかわらず、最後に憧れを伴わない自然を大切にしようと付属していますからね。


このあたりに、北らしくなさを感じました。緻密に論理を積み上げていっている感じがない。となると、ただ思考を蔓で繋げて漫然と考えていく「芋ずる式思考」が表現できていると解釈してもいいんじゃないかなと思います。


ではどうして北北西なのか。

理由は主に三つです。それぞれ手短に述べます。

ひとつめ。「芋ずる式思考」を明言しているから。やや紛らわしいのですが、本作は「芋ずる式思考」というより「芋ずる式思考をやってみた」なんですよね。「芋ずる式思考をやりますね!」と明言したうえでそれが実践されているので、どうもエンタメコンテンツ感が否めないように思います。パッケージ化されたといいますか。配信動画などが顕著ですが、その「〇〇」がどんなに非エンタメ的なものであっても「〇〇やってみた!」という時点で、エンタメコンテンツ化するんですよね。その香りを本作にも少し感じました。何も言わずに始めたら違った質感になったかもしれません。

二つめ。「芋ずる式思考」のわりには、思考の総距離があまり出ていないから。「芋ずる式思考」を「直前の話題と蔓で繋がっている別思考に移ってそこを膨らませる」とするなら、要はマジカルバナナなんですよね。直前のそれと共通点がある別のそれを連想する。この場合、最初のそれと最後のそれってすごく離れるだろうと考えられます。バナナ→黄色→声援→サッカーと繋げた場合、バナナとサッカーは全くの別物であるように。ただ本作で示されている思考は、全体に「自然」「憧れ」「色」みたいなやんわりした共通点があると思います。本作冒頭の「世界の景色」と本作最後の「自然破壊」はあまり離れてない。そのためフィンディルとしては本作で展開されている内容は、緩いテーマトークのように感じられました。その点において統一感が出て読みやすさが担保されており、北を感じさせるように思います。涼月さんとしてはそれ(緩いテーマトーク)を指して「芋ずる式思考」と表現されているのかもしれませんが。

三つめ。しっかり裏をとった知識の存在感が強いから。本作は出典もしっかり出しているところからもわかるのですが、すごくちゃんとしているんですよね。知識を出す以上適当なものを出すことはできない、しっかり裏をとろうとされているのだと思います。それ自体はすごく良いことなのですが、それだけになのか、かなり知識の存在感が強いように思います。知識を示すことを話題(思考)の推進力にしていて、その知識の先の涼月さん独自の思考があんまり見えてこないように感じました。知識のチョイスに個性を出しているけど、知識を受けての思考は割と汎用的であるように感じます。きちんと調べるがあまり、知識を出すことに作品リソースを使ってしまっているのかもしれませんね。これにより知識>思考のバランスになり、「雑学を読む」エンタメコンテンツ化しているような印象を受けました。


というようなことを理由として、フィンディルとしては本作にエンタメコンテンツの香りを感じました。

積み重ねたメカニカルな構造ではないので真北ではないけど、北向きに分類されるんじゃないかなという印象です。


方角を抜きにした品質としては、北北西であるとフィンディルが判断した理由の三つめ(知識の存在感が強い)のみは参考にできるかなと思います。ひとつめ二つめは無視していいんですけど、三つめだけは気にしてみてもいいかもしれません。知識がしっかりしすぎて、その先の思考が弱いように感じる。その先の思考にもっと注力してみると、他でもない涼月さんのエッセイとして読み応えが生まれるかもしれません。

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