眩惑/斑猫 への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。




眩惑/斑猫

https://kakuyomu.jp/works/16817330653703811466


フィンディルの解釈では、本作の方角は真北です。


本作は二重どんでん返しの作品であると考えています。二重どんでん返しとはどんでん返しを二段構えで用意している構成のことです。

杏は人間ではなくリアルドールであるという一枚目のどんでん返し。銀髪などが伏線となるでしょうか。

そして杏はリアルドールの付喪神であるという二枚目のどんでん返し。「俺」の認識が不明瞭である点が伏線となるでしょうか。

「俺」と杏は甘々な日々を送っている→想いが強すぎるあまりにリアルドールを本当の人間だと思いこんだ「俺」が“甘々な日々”の幻覚を見ている→「俺」の想いが強すぎるあまりに魂を宿して付喪神となったリアルドールが「俺」をたぶらかして“甘々な日々”を作りだしている、どんでん返しごとにこういった構図変更がなされていると思います。

まずどんでん返しを構成の核に据えている時点でエンタメであると判断できます。事実開示のエンタメの最たる例ですからね。しかもどんでん返しを二重にして事実開示を重ねているということで、よりエンタメ性は高まるものと考えます。“衝撃の事実”の連続で読者を楽しませると。二重どんでん返しは実験的ということもないので東に振れることもないでしょう。

この時点で真北はおよそ間違いないのですが、更に注目できるのが次々に明らかになる“衝撃の事実”に晒される「俺」の心情描写です。

杏がリアルドールであると気づく「俺」の心情描写、付喪神にたぶらかされていたと気づく「俺」の心情描写について、生々しく暗く分厚い品質が提示されていたらまだ西を考える余地はあったと思います。

ただ本作は「俺」の心情描写がかなりあっさりしています。他人事というわけではないけどどこか客観的に、まるで事実を要約するかのように独白を入れています。これはあまりの衝撃にフリーズしているということではなく、作品的な話で、二重どんでん返しをこなすことに作品リソースを使っていて「俺」の心情描写に割く作品リソースがないからだろうと考えます。「俺」の精神状態を表現対象として重視するよりも、視点者の「俺」による状況整理を優先したということですね。これは二重どんでん返し作品によく見られる傾向だと考えます。

それにより二重どんでん返し作品は、人物主導心情主導ではなく展開主導設定主導になりがちです。これは真北エンタメの作話です。リアルドール・付喪神にいくら西的なポテンシャルがあったとしても、その使い方がどんでん返しのパーツになっているのなら真北エンタメという判断になるでしょう。

それだけにあっさりした心情としっかりした構成とで読者を広く楽しませることはできるんですけどね。ホラーを扱うエンタメの強みです。


真北エンタメとして気になったのは、ある杏の行動です。

杏は後輩にリアルドールであることを指摘されたとき、その場に崩れ落ちます。これが引っかかりました。

杏が付喪神であるならば、後輩に指摘されてもそのまま動きつづけられるはずだからです。一旦活動を停止する理由が見当たらない。むしろ杏はこのまま「俺」と“甘々な日々”を続けたいはずですので、白を切るのが妥当だろうと思います。ならばわざわざリアルドールであることを白状するかのように崩れ落ちるのは、杏にとってメリットがない不自然な行動だと考えられます。

ではどうして杏はこのような行動をしているのかというと、一枚目のどんでん返し(想いが強すぎるあまりにリアルドールを本当の人間だと思いこんだ「俺」が“甘々な日々”の幻覚を見ている)を成立させるため、という作品構成上の都合だろうと考えます。全て「俺」の幻覚だったという作品上のポーズを演出するためだろうと。リアルドールとして活動停止する時間がないと、一枚目のどんでん返しは成立しませんからね。つまりは、作品の都合であると解釈します。

これが良くないと思います。作品の都合にキャラを従わせていると露骨にわかってしまうと、やはり物語への感情移入に大きな悪影響を及ぼしてしまいます。物語のコマであると印象づけられ、キャラが生きている感じがしなくなってしまいますから。

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「あ、目が覚めたのねお人形ちゃん。私ごときの言葉で消えちゃうとは思わなかったけれど」

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という台詞をあててこそはいますが、これで上記杏の行動に納得感が示されているとは考えにくいように思います。また「他者に付喪神であることを指摘されると、少しのあいだ物に戻ってしまう」という裏設定があるのかもしれませんが、後付け感が強く、上記懸念を払拭できるようなものではないと思います。

「物語構成にとって大事なこと」と「作中世界にとって大事なこと」は別なので、この両者をどちらも満たせるようになるとエンタメとしてより面白くなるんじゃないかなと期待します。

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