あとがき

 思えば、夏目荘で過ごした日々はたったの三年しかなかった。その間の時間は、みちみちに何かが詰まっていて、ひとつ取り出せば数珠つなぎにどこまでも繋がっている。

 さまざまな感情がまとわりついて、和やかばかりの日々とはいかなかったけれど。けれど、あの日々は、僕にとって青春と呼ばれるものであったのだろう。まとめてしまうと、青臭くてくすぐったい。それでも、概ね間違ってなかったのだろうと思わざるを得ない日々だった。

 僕と栞は、ゆっくりと本の感想を寄せ合っていた。そして、透先輩と千佳先輩は口論しながら笑い合っていて、羽奈さんは将来に向かって一歩一歩確実に歩んでいた。

 振り返れば色々なことがあり、しかし、こうして書き出してみると実はそうでもなかったのかもしれないとすら思う。

 平和的で、修羅場と呼ぶには僕は部外者で。ここにあることがすべてだけではないけれど、それでも濃厚だと過ごしていた日々は、書き出してみればこんなものだ。どこかあっけなく物足りない。

 それとも、これは僕の欲目や実力不足でしかないのか。照れくささがあるのか。それでも、こうして書いて振り返ることが叶ったことは、僕にとってとても嬉しいことだ。

 あのころの僕は、栞に小説を見せるだけで精いっぱいだった。それが少しずつ少しずつ広がって、こうしてみなさまの前にお目見えすることになった。それをできるようになったのは、夏目荘の生活があったからだ。

 栞だけではない。透先輩がプロとしてそばにいたこと。千佳先輩が何かと男女関係の問題を運んできたこと。羽奈さんが身近な成人としてそばにいてくれいたこと。そうした生活環境が僕に力を貸してくれた。

 だから僕は、こうしてフィクションとはいえ、あのころの生活を書くことができている。何度感謝したってしたりない。それでも、何度も何度も書き記すと、なんだか嘘くさいほどでむず痒くなる。

 たったの数年。ともに過ごしただけといっても、家族のような生活だった。そんな人たちに、改まって感謝するのも照れくさい。ここじゃなきゃ言えないような気もしたが、ここに書くことで一生残るのも後でもんどり打ってしまいそうなので、この辺り畳むことにする。

 それに、まだまだ書けていない多くのことをここで言及するわけにもいかない。また、僕らの生活をみなさんにお伝えできる日はやってくる。

 そのときまでお元気で。そして、楽しみにしています。

                            天井あまい 蒼汰

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