第21話 ハニートラップ? 真の漢は己から引っ掛かりにいくものだろう?




 まあいい、コイツらがなにを企んでいようと関係ない!。


 俺は俺の夢を叶えに行く! 待っていてくれお姉さん達……!!。


「さっきも言った通り混浴は許可してやるよ……混浴があればな!」


 ん? なに言ってんだ? 混浴はあるに決まってんだろ……。


 下調べは完璧……。


「あそこの看板が見えないのか?」


 セレナとレーウィンが指差した方角を見てみると。


 “温泉街ユーアナシアへようこそ!!”


 “度重なるルール違反により混浴は廃止になりました”


 “純粋に温泉をお楽しみください”


 ……………………………………………………。


「「ぷっ! アッハッハっ!!」」


「そ、その顔やめてくれ!!」


「腹筋がっ!!」


 看板を見た瞬間あたまが真っ白になり、気づくと俺は膝から崩れ落ちていた。


 血も涙もない俺の仲間はその様子を見てゲラゲラと笑っていた。


「フン! 邪な目的で行動するからこういうことになるんだ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺は鋼の精神力でなんとか立ち上がり検問所を通り抜けた。


 検問所のおじさんに『君はなんで泣いているんだい?』と言われたが……。


 ともかく温泉街だ、残念ながら混浴はないけど、こうなったらヤケだ! めいっぱい楽しもう。


「おおー!! 見ろ! ノエル! 温泉まんじゅうってなんだ!? 温泉の味がするのか!?」


「温泉まんじゅうってのは温泉街で売ってるただのまんじゅうだ、残念ながら温泉の味はしない」


 セレナは目を輝かせ、あちらこちらに存在する屋台に目をやっている。


 その度にあれはなんだ、これはなんだと聞いてくるので全ての質問に答えてやる。


「お前そんなに物知りだったのか……なんかすごいな!」


「私も感心したよ、やるじゃないか!」


 普段からもっと褒めてくれてもいいんだよ?。


「お、お前ら褒めてもなにもでな……」


「それで顔がよかったらモテるのにな!」


 いつの間に上げてから落とすなんて高等技術を覚えたんだろうか。


「余計なお世話だよ、それより観光は明日からでも遅くないだろ?」


「まずは依頼を済ませておかないとな」


「そうだな、じゃあギルドに向かうか」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「……なぁ、リルドの街って貧乏なのか?」


「言ってやるな……この街は観光地として有名だから資金が集まりやすいんだ」


 この街のギルドはリルドとは比べ物にならないほど豪華だ。


 セレナが疑問に思うのもわかる気がする。


「とにかくギルドマスターに会うから、お前達は口を閉じてろよ? 特にセレナ! わかったな?」


「わかった! その代わり、あとで温泉まんじゅう買ってくれ!」


 しょうがない、面倒ごとがまんじゅう一つで防げるなら安いものか……。


「わかったよ、いくらでも買ってやるから……お願いだから本当に黙っててくれよ?」


 流石にセレナもそこまでバカではないか、食い意地が張ってちょっと世間知らずなだけ……。


 ……いや、大丈夫じゃないなこれ。


「レーウィン、さっきから黙ってるけど、いざという時はセレナを連れて離脱してくれ」


「任せろ、準備しておく」


「お前ら私のことなんだと思ってるんだ……」


 そして俺たちはギルドマスターの執務室に向かった。


 部屋の前に着くとため息をひとつ。


 ヤバい、不安になってきた……いっそのことセレナを置いていくか……。


「いや……ほっといたらほっといたらで……(ぶつぶつ)」


「おい、扉の前でなにぶつぶつ言ってるんだ?」


「……」


 いつまでも扉の前で悩んでるわけにもいかないよな。


「ええい! どうとでもなれ!」


 俺は溢れ出しそうな不安を押し殺しながらノックをした。


「リルドの街のギルドマスターから依頼を受けてきた者だが、入ってもよろしいか?」


 ノックをしてすぐに少し低めの女性の声が聞こえた。


「ん? ああ、待っていたよ……入ってくれたまえ」


 扉を開けると部屋の中央には対になっているソファー、その間に挟まれるようにテーブルが置かれている。


 そして何より、目を引いたのがその奥の椅子に座っている声の主。


「初めまして、よく来てくれたね……私がこの街のギルドマスターのアリエル・フィーナだ」


 一言で言うととんでもない美人だった、腰まで伸びた紫の髪に整った顔立ち、紫の瞳は宝石のようだ。


 あとは……でかい! 何がとは言わないがレーウィンよりも遥かにでかいソレは組まれた腕に所狭しと乗っていた。


「俺はノエル・ハーヴィンだ、後ろの二人は小さい方がセレナ、大きい方がレーウィン、よろしく頼む」


「ふふ、よろしくね」


 フィーナはそう言うと立ち上がり俺の元までやってきた。


「ふーん、それにしてもアイツの手紙にあった街をたった一人で救った英雄が君か……」


 ペタペタと俺の体を触るとフィーナは口角を怪しげに上げて妖艶な笑みを浮かべる。


「坊や……中々かわいい顔してるじゃない? 今晩、私の部屋にこない?」


 なん……だと……! 


 いや待てこれは罠だ! 自分の街に将来有望な戦力を引き入れるためのハニートラップ……!


 ここはそれとなくクールに断って……。


「ねぇ? どうかしら?」


 にこやかに笑い、耳元で囁いてくるフィーナに俺は……。


「僕でよけれは是非!!」


 仕方ないよ男の子だもん。


 欲望には勝てないんだ。

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実力を隠して勇者パーティーの荷物持ちをしていた【聖剣コレクター】の俺は貧弱勇者に【追放】されるが、夢だった冒険者になれるのでのんびり暮らそうと思います〜仲間が問題児ばかりで全然のんびり暮らせない件〜 jester @jester-

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