医学生の勉強でよく言われる定説の真偽

 医学生の勉強ではよく言われる定説というものがありますが、中には完全なデマであったり説明不足であるものもあります。そういった定説をいくつか取り上げ、私の考えを端的に書いた上で理由を詳しく説明していきます。



 定説①「CBT対策は1か月前からでも間に合う」


 【私の考え】デマではないが正確でない。「3年生の段階から映像授業をコツコツ受講し、QBも少しずつ演習していた学生」なら1か月本気で勉強すればどうにか合格できるが怠けていた学生は当たり前のように落ちる。


 近年はCBTの実情がよく知られるようになってきたため「CBTなんて1か月前から勉強しても間に合うよ」と後輩に話す医学生は少なくなってきましたが、実際問題として何も勉強してこなかった学生は1か月では絶対に間に合いません。先述の通り3年生になった時点から映像授業をコツコツ受講してQB-CBT等での問題演習も継続的に行うべきで、CBTは再試があるとはいえ国試の予行演習と考えて真剣に受験すべきでしょう。


 大学によってはCBTの再試の前後に容赦なく定期試験が行われるスケジュールの場合もあり、私の母校はまさにその代表例でした。こういった大学ではCBTで再試にかかると留年のリスクが大幅に上昇しますし、そうでなくとも他の学生がCBT合格後にのびのびと生活している中で自分だけ地獄を味わうことになるためCBTには絶対に本試験で合格すべきです。



 定説②「病院実習中でも毎日コツコツ頑張って勉強するのが大事」


 【私の考え】理想としてはそうだが実際は上手くいかない場合も。病院実習でメンタルをやられてしまい長期休暇以外は自学自習が手に付かない学生は例年少なくない。仮に自分がメンタルをやられても進級できるよう、3年生の段階から映像授業をコツコツ受講して「時間のある時を見つけて勉強する」姿勢を身につけるのが大事。


 医学部医学科の6年間は大まかに分けて「教養課程」「基礎医学課程」「臨床医学課程」「病院実習」「卒試・マッチング試験・国試」の5つの期間に分類できますが、この中でメンタルを崩す学生が最も多いのが病院実習、次に多いのが基礎医学課程です。


 「難関の基礎医学で挫折して留年する医学生が多い」ことは世間一般にもよく知られていますが基礎医学程度でくじけてしまう医学生は一生勉強する必要がある医者・医学生としての適性を欠いていますから、そこでドロップアウトするならそれまでですし留年しつつも最終的に進級できればそれで何の問題もありません。「基礎医学で挫折する」と言えば聞こえはいいですがそれは要するに暗記力と少しの理解力が足りなくて再試にかかりまくっているだけなので、解剖実習がグロテスクに感じて耐えられないといった場合(実際には稀少)を除けば「成績がよいのに基礎医学で挫折する」ことは原理的にあり得ません。


 一方で病院実習が厄介な理由はそれまで成績が良かった医学生でも挫折する場合が多いからです。結局のところはペーパーテストが得意ならくぐり抜けられた教養・基礎医学・臨床医学課程までと異なり病院実習では医療の最前線である病院(特に大学病院)で現場の医療スタッフに混じって勉強する必要があり、近年では医学生でも医者の監督のもとで様々な医療行為を行えるよう法律がどんどん改正されているため「準研修医」的な扱いで無給労働をさせられる場合さえあります。私自身も2023年現在初期研修医として働く中で病院実習で来ている医学生たちと協力して患者さんの診療に当たる場合があり、特に内科では実習中の医学生が助けてくれなければ医療行為が成立しなかった場面も多々ありました。給料が出ないどころか学費を取られているのに私たちを助けてくれる医学生たちには本当に頭が下がる思いしかありません。


 このように10年以上前と違って2023年現在の医学部医学科の病院実習は非常にハードであり、一部のマイナー科では実習とは名ばかりで「午前中講義を受けて終わり」「カンファレンスを見学するだけ」といった内容の場合もありますが大抵は先述した「準研修医」的な扱いで医療現場に放り込まれることになります。そもそもが給料を払わずに(それどころか学費を払わせながら)医学生に医療行為をさせるシステム自体が人権侵害なのではないかと率直に感じますが、医者の利益さえまともに考えているか怪しい厚生労働省が医学生の利益など真面目に考えるはずもないので理不尽ながら2023年現在の医学生はハードな病院実習を生き抜かなければ医者になれません。


 病院実習に参加するだけでもここまで苦しいのに医学生は進級試験や卒試・国試のために病院実習の期間中にもコツコツ勉強する必要がありますし、実習中にも指導医や研修医から頑張って勉強してねと繰り返し応援されます。ぶっちゃけて言えば無理ゲーです。朝8時半から夕方17~18時まで働いて仕事終わりは遊んでいてよい研修医でさえ疲労で毎日死にそうになるのが医療現場であるにも関わらず、病院実習中の医学生が実習終了後に勉強しなければならないシステムもやはり理不尽としか言いようがないと思います。


 そのため私から言える最低限のアドバイスとしては「病院実習中にコツコツ勉強できなくてもいいように色々と工夫しよう」ということになります。病院実習の開始前、すなわちCBT受験時までに多くの知識を身に着けておけば病院実習中にそこまで熱心に勉強しなくても進級試験には合格できますし、ゴールデンウィークや夏休みといった長期休暇中や先述した一部のマイナー科などゆとりのある病院実習の期間中に集中的に勉強しておく姿勢も大切です。次項で述べる「国試予備校の基本的な映像講義は4年生までに全て終わらせるべき」というアドバイスもこの観点に基づいており、病院実習に本気で取り組めるように早いうちから勉強しておく姿勢が大切とも言えます。



 定説③「国試は過去問を3年分真面目にやるだけでも合格できる」


 【私の考え】論外。そういうレアケースもあるというだけで過去問には最低でも10年分取り組むべき。第117回国試でも6~10年前の国試で出た内容が多数出題されていた。medu4の穂澄先生も「時間があるなら第100回以降の過去問は全問解いた方がよい」と明言されている。


 このようなアドバイスは10年前でも通用するか怪しかったですが2023年現在は論外としか言いようがありません。国試には確かに過去5年分の国試で出題された内容が多く再出題されますが実際に国試を受けた感想としては6~10年前の国試で出題された内容も多数再出題されていました。中には11~15年前からの国試で出題された内容の再出題もあり、medu4の穂澄先生が講義で仰っている「時間があるなら第100回以降(=第117回受験生なら過去17年分)の過去問は全問解いた方がよい」というアドバイスはまさにその通りだと感じました。


 これについてはあくまで想像ですが、国試の問題を作っている側(厚生労働省)は過去の国試で重要なポイントは必ず最新版の国試にも出題したいと考えます。国試受験生が過去問演習を入念に行って受験に臨むことは厚生労働省も把握しているはずですから、厚生労働省は過去5年分のみならず6~10年前の国試で出た内容も多数再出題することで国試の教育的効果(=過去問演習を入念に行わせることで受験生全体の知識量を向上させる)を狙っているのではないかと私は推測しています。繰り返すように国試過去問には最低でも10年分取り組むべきで、時間があれば過去15年分は解いておいた方がよいでしょう。



 定説④「映像授業はQ-Assistが一番」or「映像授業はmedu4が一番」


 【私の考え】人によるとしか言いようがない。旧態依然としている( 自粛 )や( 自粛 )はともかく現在のQ-Assistとmedu4は受講の利便性で大差なく、試しに受講してみて自分が気に入った方を選べばよい。ただし現在の映像授業がどうしても好きになれないといった場合はためらわず乗り換える姿勢も大事。


 国試予備校の映像授業は年々進化を続けており、データによると2023年現在はQ-Assistがシェア1位、medu4がシェア2位とのことです。こうなると当然医学生同士でQ-Assist派とmedu4派の論争が起きがちですが、これに関してはどう考えても「人による」としか言いようがありません。


 私は以前の項目でmedu4を選んだ理由について述べましたがあれはあくまで「medu4が気に入った理由」以上のものではなく、仮に私がQ-Assistを選んでいたら国試に合格できなかったなどということはないと確信しています。ただし人によって国試予備校の合う合わないは確実に存在し、Q-Assistの先生方に「もうちょっと端的に話せよ!!」と思ってしまったりmedu4の穂澄先生に「この人のキャラクターはどうしても気に入らない!!」と思ってしまうような医学生はためらわず他の国試予備校に乗り換える姿勢も大切です。それで成績が格段と向上する可能性は低いですが受講していて不快に感じる要素は少ないに越したことはありませんし、長い時間をかけて付き合う映像授業にはやはり快適性を求めるべきです。


 ただし少し気に入らない要素があったからと次々に国試予備校を乗り換えていては勉強時間が無駄になりますから、国試予備校を決める際は複数社の映像授業のサンプル動画を比較するなどして事前にリサーチした方がよいでしょう。そしてこの国試予備校にする! と決めたらある程度はそこを信じて付いて行ってみるという姿勢も重要なことは言うまでもありません。

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