第4話 ボーカロイド

な、何の通知だろう。

Twitterを開くと、DMが着ていた。

……珍しい、な。

ソアさんと言うユーザーからだ。

ドキドキしながらトークルームに入る。



『はじめまして、いつも楽しく小説を拝見しています。わたし、ソアと申します。新作、読みました。とても面白かったです。いつもと雰囲気違いますね。いつもはもっとファンタジー要素が多くて、それはそれで好きですが、今回の小説の方が、私は好きでした。

偉そうなこと言ってごめんなさい。怪しいものじゃありません。私も、高校一年生です。同い年なのに、凄いですね、こんなの書けるなんて。

これからも、応援してます。頑張ってください。』



……びっくり、した。

まさかDMで感想を言ってくれるなんて思わなかった。

てかそもそもDMが来ることはほとんどなかった。

な、何だろう、すごく、嬉しい。

(……あの人、ソアさんは、うちを応援してくれてる……)

はっきりと感じた。

ソアさんはうちのことを本当にちゃんと応援してくれてるんだって。

コメントだけじゃ、そんなのわからない。

DMが来ただけで、こんなに嬉しいんだ。

とりあえずお礼のメッセージは送ろう。



ありがとうございます。

そう言ってもらえてとても嬉しいです。



短かったかな。

(……そういえば、まだちゃんとプロフィール見てなかったな……)

フォローされたから適当にフォローしてたけど。

もっと、仲良くなりたい。

もっと、話したい。

名前はソア、さん。

うちと同じ高校一年生。

ボカロが好き、らしい。

……ボカロ。

わかるようでわからないけど、初音ミクは知ってる。

すごく可愛らしい声だった記憶がある。

声優さんの声を元に作られたオリジナルの音なんだっけ。

そのあたりはあまり覚えれてないけど。

あと、リンレンとルカ、MEIKO、KAITOも知ってる。

曲は「千本桜」しか知らない。

小学五年生の林間学校のバスレクで流れて、調べてみたら初音ミクが歌ってる、ということを知ったくらい。

(……久しぶりに聴いてみようかなって、まずい……)

足音が聞こえた瞬間、ドキッとする。

ささっとパソコンをしまい、シャーペンを持つ。

すぐに部屋の戸が開いた。

「彩莉、ご飯よ」

……お母さん、だ。

ばれてない、よね。

「うん」

いつも通り、振り向かずに返事をする。

部屋の戸が閉まる。

(……ワーク、開いたままにしておいて良かった……)

お母さんにはノベラのことを言ってない。

知られたくないから。

曲を聴くのはご飯の後にしよう。



ご飯を食べ終え、スリープにしておいたパソコンを開く。

お母さんに予習の進み具合を聞かれた。

いつものことだから嫌ではなかった。

むしろ安心した。

パソコン使ってたことがばれてなかったから。

一応、正直に塾で習った範囲は全部やったって言ったら、その調子で頑張ってねとは言われた。

……いける、かな。

お母さんの期待に、応えられるのかな。

一気に心が苦しくなる。

(……やめよ)

今はテストのことは考えたくない。

早く聴こう。

(……あ、そうだ)

おすすめの曲、ソアさんに聴いてみようかな。

Twitterを開いて、ソアさんとのDMに入る。



ソアさんがおすすめのボカロ曲、良ければ教えてください



YouTubeを開いて、「ボカロ」と検索する。

7時にお風呂に入れって言われてるから時間は見ておかないと。

なんかいろんな動画が出てきた。

ワイヤレスイヤホンをつける。

1億再生の「グッパイ宣言」。

まずこの曲から聴いてみようかな。

再生してすぐ鳥肌が立った。

(……す、ごい……)

今まで聞いたことことのない感覚。

これは何の音なんだろう。

電子音、なんだけど……すごく不思議な感じがする。

何より音域がすごいかも。

全体的に、すごく高い。

女性でも歌えるか分からないくらい。

他にも、「ロキ」、「ヴァンパイア」、「劣等上等」、「ベノム」……

あ、「砂の惑星」は知ってるかも。

中学の時、給食で何回か流れてた。

(……好き、だ……)

大体10曲くらい聴いたけど「ヒバナ」、「天ノ弱」、「ロウワ―」とか好みかもしれない。

まず歌詞がすごく良い。

声や言葉だけじゃ表現できない想いを乗せてるっていうのかな。

歌にすることで想いをはっきり伝えられる、気がする。

最近の曲って英語が多く歌詞に使われているんだけど、ボカロは全部日本語。

カタカナはもちろんあるんだけど、聴いてて気づいた。

歌を支える電子音もすごく良い。

曲全体のバランスを取っていて、歌詞の雰囲気にしっかり合ってる。

歌ってるミクたちも……違和感を感じない。

自由に歌ってる。

(……どうやったらこんなに……こんな、誰かの心を動かすような曲が作れるんだろう)

ボカロって、いろんな人が歌ってみた動画を出してたり、ゲームでカバーしてる人達がたくさんいて、すごく……愛されているんだな。

Twitterから通知が来ていたことに気づいた。

少し前から来てた。

ソア、さんだ。



「ロストワンの号哭」、おすすめですよ。



(……ロストワンの、号哭……)

どこかで聞いたことあるような名前。

な、なんだっけ。

まあ、良いか。

そのうち思い出すよね。

「ありがとうございます。聴いてみますね」と送り、YouTubeに戻って、「ロストワンの号哭」と検索。

鏡音リンが歌ってる。

リンは明るくて、ミクとは全く違う可愛い声。

学校の教室が背景だけど、なぜか机椅子が積み上げられてる。

カッコいいロック調。

エレキギターとドラムの音を使ってるのかな。

(……すごく、良い曲……)

ソアさんが好きなのも何となく、分かる気がする。

なのに歌詞が……すごく辛いと感じてしまう。

「静脈を刺す」、「凶器」、「死にたい消えたい」。

聴いてて胸が、痛い。

けど中には学校関係の「数学と理科、国語」、「宿題」、「黒板の漢字」とかがある。

サビのところが特に、えぐられる感覚がする。

音程が一気に高くなるからか、リンが泣きながら歌ってるように聞こえる。

この音程、かすれたり外してもおかしくない。

それを……リンが歌ってる。

リンの声って可愛いだけじゃないんだ。

誰かの想いを、ちゃんと歌に合わせて届けようとしてる。

曲の雰囲気によって、声の感じが何となく違う。

(……どんな想いで、この曲を……)

ずっと抱えていた想いを、歌にして叫んでるのかな。

それも、辛くて、誰にも言えない悲しい想い。

――「もうどうだっていいや」。

諦めてしまった、みたいで。

完全に。

ラスサビの前は「もう知ってんだろ」だけど、最後は「もうどうだっていいや」。

(……心の、叫び……)



『……と』



鋭い、でも諦めたような悲しそうな瞳。

「……えっ……」

心臓がバクバク跳ねる。

どうし、て。

何かを貫かれたような感覚。

(……何で、あの子のあの瞳が……)

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Our Voices 陽菜花 @hn0612

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