第3話 文字だけの想い

(……あとは、ここを……よし、終わった)

シャーペンを置き、ふうっと一息。

一応、塾でやったところ全部は終わったかな。

これでしばらくは焦らずに進めれる。

数学のワークを閉じて明日の準備。

明日から本格的な授業が始まる。

といっても授業は午前だけで、午後は学年集会と部活動見学。

(……えっと、たしか情報と古典と数学……)

そうだ、体育用の靴下もいる。

教科書とノートをリュックに入れて、手提げバッグに体育の用意を入れる。

今日やることはこれで終わり。

時計を見ると、まだ5時半だった。

夕飯までまだ時間はある。

(……ああ、そうだった)

パソコンを起動させる。

中学の時に塾のリモート授業があって、その時にお父さんが貸してくれた。

もうリモート授業はないけれど、そのままお父さんはうちにあげるって言ってくれた。

スマホは一応持っているけど、自分の部屋に持って行っちゃいけないというルールがあるし、連絡用にしか使わない。

家に帰るときとか、友達と話すときくらい。

InstagramとかTickTockはやってない。

みんなもやってるし、見るだけのアカウントは作って良いよってお母さんは許可してくれたけど正直興味はない。

Googleを開いて履歴からネット小説サイトを開く。

ノベラっていって、誰でも無料で小説を書ける。

うちは中学生の時から書いている。

きっかけはある人の本を読んで、すごく感動して面白くて……この人みたいになりたいって思ったから。

その人はノベラのユーザーでもあって、ノベラから応募できるコンテストで賞をとってデビューした。

もちろん、うちはそこまで評価されてないし、人気ってわけでもない。

正直そこはどうでも良い。



――うちが、書くことを楽しめたら今はそれで良い。



(……さて、と)

新作の下書きが残ってる。

まだ500字か。

急いだら時間までに間に合う。

机の引き出しから手帳を出し、使うページを開く。

ここにある程度書きたいこと、思いついたことや考えたことをメモしてる。

よし、書こう。

(……えーっと、ここはこんな感じで、記号は多めに。もう少し具体的に……)

タイピングは速いわけではないからその分時間がかかる。

文字って書いた人の個性というか、想いがそのまま出てくる。

人によって考えは違うから、自分が思っていることを登場人物にも同じ思考設定にしたり、性格に合わせて設定したり。

けど、どっちの方法も作者がどんな人なのかは読み取れる。

文章が全体的に優しくて読んでてあたたかい気持ちになったらその人はとても優しい性格なんだと思う。

じゃなかったらうちまであたたかさを感じることはない。

もっと言うと、例えばキャラクター同士がケンカになると、そのシーンはかなりハラハラしたり、文が荒くなる。

けど、中にはそのシーンでさえも柔らかい文の人もいる。

キャラクターに合わせてるっていうことなんだと思う。

ただそれだと何だかもったいないなって感じる。

書き始めて4年目に入ったばかりのうちが言えることではないけど。

一番わかりやすいのは日記。

フォロワーさんに日記を書いている人が多いからよく読むんだけど、あ、この人はかんな人なんだな、こんなことがあったんだなって読み取れる。

だからうちは、日記は作者そのものの想いって勝手に思ってる。

それはもちろん、日記以外もそう。

(……とりあえず、ここまでかな)

全部で1500字くらい。

誤字がない確認する。

今回の新作は初めての恋愛小説。

今まではファンタジーばかり書いていた。

けど、なんだか同じ展開内容しか書けてないなって思って、新学期だし心機一転にって書き始めた。

正直恋愛ものに慣れてなさ過ぎて書けてる自信は全くない。

書いていて楽しかったら……それは良いか。

「公開」を押して、完了。

「……はあ」

一気に疲れた。

手帳をなおして、ぼんやり画面を見る。

そりゃすぐにPVは伸びない。

そう分かってるのに何度もページを再読み込みしてしまう。

――5分経って、Twitterの通知が来た。

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