第7話 きょうかいにて
「とりあえず来ちゃったけど」
神父と話した数時間後、すっかり夜が更けた午後10時。蒼衣は素直に隣町の教会に足を運んだ。
夜に外出するのはもちろん修道委員長がいい顔をしない。
いつもの顔で家事を一通り済ませてからこっそり家を出てきたので、こんな遅い時間になってしまった。
教会は明かりが消えてしまっている。中からは人の気配も感じられない。
こんな時間に訪ねに来たこと自体が非常識だったことに、蒼衣はここに来て初めて気がついた。
回れ右をする選択肢もあったが、苦労して抜け出してきたのだ。
恐る恐る中央の扉を押す。
思ったよりあっさりと扉は開いた。
中には思いがけず信者と思われる人が数人、祭壇に向かう長椅子にバラバラと座っていた。
扉の前で少し立ち止まってみた蒼衣だったが、誰1人振り返らないので、
中に進んだ。
外から見た通りまともな照明はなく、まばらに灯されたロウソクだけを頼りに椅子の間を進む。
真ん中の方まで進んだところで長椅子に腰掛けた。
とても大きな教会で、天井を見上げるためには力を入れて上をむく必要があった。
四方の壁には、それは立派なステンドグラスがはめ込まれており、恐らく昼間は色とりどりの光が床を彩ることだろう。
蒼衣の暮らす教会も大きい方だが作りは簡素なこともあり、蒼衣は興味津々に教会の内観を見渡していた。
「貴方が本日のお客様ですか?」
修道女に声を掛けられる。
「あ、はい!」
裏返った大きな声に、信者たちが怪訝そうに蒼衣を振り返る。
すみません、と小さく会釈をして、改めて修道女に向き直る。
「何か?」
「いえ、すみません」
怪訝そうな顔つきを隠さない修道女は浅黒い肌をしていて、明らかにこの国でない血が混ざっている。
蒼衣もそういった人種がいることは知識として知っていたが、実際に見るのは初めてでつい見つめてしまった。
「お昼に神父様に教会に来るようにと言われて来ました」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
修道女は淡々と蒼衣に背を向けると、教会の左奥に向かって進みはじめた。蒼衣も素直について行く。
左隅にロウソクの火は届いておらず、特に濃い暗闇が陣取っていた。そのため近づくまで気が付かなかったが、こじんまりとしたオルガンが置かれていた。
さらにその裏側には人ひとりがギリギリ通れる高さの扉があった。
修道女が引き戸を引き蒼衣は先に中に通される。
「よく来てくれましたね」
昼間に聞いた声、神父様の声だ。
と同時に、その部屋の照明が灯され一気に明るくなった。
それまで暗闇に目が慣れてしまっていた蒼衣は、強い光刺激に反射的に目を瞑る。
目を開けると、予想に反して神父以外にももう1人。しかも見知った顔。
「黒崎くん!?」
クラスメートの黒崎夜。誰と一緒にいるところを見たことのない一匹狼で、不穏な噂が耐えない男子生徒だ。
無論、中学3年間一言も話したことはなかった。
「なんで黒崎くんがここに??一体どうなって…?」
「おっきな声出すんじゃないよ!さっきといい、状況が分かってるのかい!?」
また1人新しい登場人物が出てきたわけではない。確かに先程の修道女が叱責している。
「え!?修道女さん!?そういうキャラだったんですか!?」
「ミカだよ!1回黙っといで!」
「ミカ…さん」
昼間の神父との出会いから急展開過ぎて、文字通り目が回りそうな蒼衣。
「色々分からないことも多いでしょう。順を追って話しましょうか」
神父は、とりあえずと椅子を薦める。
蒼衣は大人しく座ることしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます