◎第60話【最終】・夕暮れの空
◎第60話【最終】・夕暮れの空
ミレディは即死だった。医師を呼ぶまでもなく、レナス、アヤメ、そしてカイルまでもが彼女の生命反応の消失を確認した。
カイルは勇者の証である、その剣を回収した。懐かしい剣である。
「僕たちは、魔王を討ったんだね」
「そうだね。魔王を討ったんだよ」
戦いはカイル以外のメンバーにはあまり出番がなかった。
逆にいえばカイルは、感傷に浸る資格のある人物だった……が。
「こうも瞬く間にいくものだね」
彼は頭をかく。
もちろん強い相手と戦って勝ったのだから、疲労感は決して小さくはない。
しかし、感傷に浸るには戦いが濃密すぎた。それにカイルにとって、ミレディは宿敵というより、本来なら追放以降関わることのなかった人物という認識であった。
もっとも、魔王を討ち果たした、それも勇者の地位を捨てて魔王となった存在に勝った、というのは、歴史をみても偉業に違いない。
そこへアイシャが現れた。
「あの、もし」
「なんです? 主君の仇を討ちに来たんですか?」
「とんでもない。陛下は立派に戦ってあの世へ逝かれたもの。……そうではなく、帰りの馬車を手配しました。よろしければ王都まで乗っていかれませんか?」
「そうですね。ここは南の最果て、一ヶ月かかるんでしたっけ。隊商に紛れて僕たちも行くとします」
相手が乗り物を出すというなら、乗らない手はない。
彼は「ふーっ」と額の汗をぬぐった。
その日はもう陽が落ちかけていたので、魔王城に一泊することとなった。
カイルはバルコニーで鮮やかな空を見る。
昼以上に地表を焼き尽くすような色の陽光と、宵闇を呼び起こす陰の空。その境界は鮮明なようでいてあいまいである。
自分は偉業を果たした人物である、とカイルはようやく、実感を持って認識した。
四大魔道具を制覇し、魔王と化した勇者を討った。冒険者としてこれ以上何を望めようか。
しかし、それ以上に世界は移ろいゆく。この空のように。
世に波乱の種は尽きない。四大魔道具と勇者魔王だけで終わりということはあるまい。いずれ必ず、彼らが解決しなければならない何かが生じてくるだろう。
すべては激動の中に。
カイルは新たな冒険の予感を得ると、目をつむった。
風が心地良かった。
追放の狂想曲――勇者パーティ離脱から始まる本当のリーダーシップ 牛盛空蔵 @ngenzou
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