◎第58話・魔王城への招待

◎第58話・魔王城への招待


 冒険者の仕事に一区切りついて、ゆっくりしていたカイルのもとに、その報せは飛び込んできた。

「勇者ミレディが魔王に……!」

「左様。簡素ではありますが式典が開かれ、それを直接見たという者もおりました」

 ミレディが先代魔王からその力を継ぎ、魔王の領域でその宣言をしたという。なお、直前の魔王はそのまま息を引き取ったようだ。

 主に行商人が運んできたその情報は、瞬く間に王都中に広まったようだ。

「あの勇者、とうとう使命を捨てたのか」

「まあ……私たちも色々無茶をしたからね」

 レナスがぼそっと。

 しかしカイルは。

「無茶じゃないさ。僕たちは何も悪くない。いつだって仕掛けてきたのは勇者のほうじゃないか。僕たちが頑張って、本当に頑張って手に入れた勇者の剣をただでもらおうとしたり、四大魔道具も同じだ、あいつは勝手すぎるんだ。今回、勇者の使命を捨てたのも、あいつの勝手さを証明する事実じゃないかな」

「そうかもしれないけど……」

「しかしそうなると、別の意味で僕たちも困るな」

「というと?」

 セシリアが首をかしげる。

「僕たちは四大魔道具の制覇をした一党だ。勇者、もとい魔王を討つ任務を、国から命じられるかもしれない」

「そうかなあ。確かに魔王を討つ人間はいなくなっちゃったけど、それで私たちにお鉢が回るかな?」

「そうだぞカイル殿。強さや長旅の耐久力で言えば、大変言いにくいが、もっと上の連中がギルドにいるぞ」

「まあ、そうなんだよね。バーツさんとか、単独の冒険にかけては天才といわれているみたいだし」

 一見、あまりそういった繊細なことに向かなさそうなバーツは、繰り返し述べるが単独冒険の天才である。

「あまり心配していても仕方がないか。気楽に情勢を見守ろう」

「そうだね。ミレディさんはカイル君に思うところがありそうだけど、まさか闇討ちに来たり、決闘の迎えに来たりはしないよね」

「あるわけないよ。ハハハ」

 カイルは一笑に付した。


 しかし現実は無情だった。

「ごめんください。アイシャと申します」

 誰かが夜にカイルの家を訪ねてきた。

「はあい。どちらのアイシャさんですか」

 瞬間。

「いやレナス待って。アイシャ……まさか歴代魔王の側近の?」

「……その通りです。私は魔王の家来のアイシャと申します」

 一気に空気が張り詰める。

「なんのつもりだ!」

「ここで戦うためではないことは、はっきり申し上げます。闇討ちなど私はしません」

 信用できない。

「それをどうやって信じろと?」

「どうか、お願いです、話だけでもお聞きください」

 しばらくカイルは沈黙する。

「……よし、ここではなく外で話そう。均衡亭、あそこなら、酒場ながらも落ち着いた雰囲気だから、話はできるはずだ」

「カイル君、危険じゃないの、大丈夫?」

「ここで話すよりは安全だよ。戦闘に入ったときでも警察軍を呼べる」

「分かりました。均衡亭ですね」

「僕が案内します。くれぐれも妙な気は起こさないように願います」

「もちろんです。お約束します」

 アイシャは、大声ではないものの、しかと確約した。


 酒場について、話を始めたときも、アイシャはあくまで平和的に話をした。

 ただし中身は平和的ではない。

「ミレディが僕と戦って、決着をつけると?」

「一言で申し上げれば、そうなります」

 彼女は静かにうなずいた。

「やっぱり戦いの話じゃないか」

「ここでは私は戦いません。もちろん、魔王城での決闘の際も私は手を出しません」

「信用できるか?」

「私がそんな人間でしたら、今頃、魔王陛下とともに夜討ちをかけていると思いますが」

「……それもそうだ……」

 その発言には説得力があった。奇襲をかけたほうが百倍早い。

「しかし決闘か。勇者魔王と」

「一騎討ちではありません。陛下と、カイル殿の四人組との戦いです」

「ずいぶん有利じゃないですか。何か理由が?」

「陛下が恨んでいるのは、カイル殿お一人ではなく、その一党全員だからです」

「……なるほど」

 はた迷惑ではあった。

 しかし、考え方を変えると。

「魔王を討伐して、さらに冒険者として駆け上がる好機ではあるね」

「勝てるの?」

 レナスの問いに、しかしカイルは答える。

「それは分からない。でも、四大魔道具を制覇した僕たち自身を信じてもいいんじゃないかな。それに臆病風に吹かれていたら、極論、どんな冒険もできない。危険はどこにでもある」

「そうだけどさ」

「ここは受けないか、どちらにしてもミレディがこれであきらめるとは思えない」

「それもそうだな」

「然り。それがしは賛成いたします」

「んん、まあ戦いはもう慣れてるからね。私も賛成」

 全員が同意した。

「というわけで、その招待に応じます。……移動方法は?」

「外に馬車を留めています。一ヶ月ほどかかりますが、旅に必要なものは全部ありますのでご心配なく」

「隊商にでも偽装したとか?」

「正解です」

 アイシャはいたずらっぽい笑みをこぼした。

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