◎第45話・国王の賢明

◎第45話・国王の賢明


 その後、王宮まで案内され、カイルらはしばらく控えの間で待たされた。

 上に掛け合って、慎重に決裁。

 これはもしかしたら、国王にまで話が行っているのかもしれない。

 もしそうだとすれば、いや、いずれにしてもお偉いさんが居並ぶ前で何か話をしなければならないのだろう。そもそも迎えに来たのが国防室の事務次官、かなり地位の高い人物であったのだから、そうなるのは必然。

 などとカイルがつらつら考えていると、使いの者がやってきた。

「国王陛下がお呼びですので、謁見の間へどうぞ。私が案内します」

 やっぱり国王陛下か。

 彼は、しかし、これも四大魔道具のためと割り切り、使者の後をついていった。


 謁見の間。

「そなたが冒険者カイル殿か。よくぞ参られた」

「ご尊顔を拝し恐悦に存じます」

 カイルは深く一礼した。

「四大魔道具の制覇に最も近い男と聞いておる。なるほど、確かに頭の切れそうな顔の造りをしている」

 顔の造りて。

 彼は思わず何か言いそうになったが、言葉をすぐに呑み込んだ。ここで何か変なことを言っては、話がぶち壊しになる。

「お褒めの言葉、ありがたくちょうだいします」

「ふむ。凡百の冒険者と違って礼儀はしっかりしているな。……おっとこれには答えなくてよい。さて話は、合戦への協力と『除却の指輪』の件だな」

「仰せのとおりです。私も祖国の誇りをかけた戦いに参加することを、決して嫌がっているわけではありません。しかし」

 彼は言葉を選びつつ続ける。

「しかし、冒険者の本質は、皆様もご存知のように四大魔道具の獲得です。それが果たされなければ、というよりそれを大幅に遅らせることが正当化されれば、僕たちの冒険、ひいては冒険者たち全体の冒険にも支障が生じることでしょう」

 遠回しな問責。

 問責の言葉を、あくまでも穏やかに、淡々と述べる。そうでなければ国王への不敬に該当して逆襲されるおそれがある。慎重にやらなければならない。

 そしてそれはどうやら通じたようだ。

「ふむ。一理あるな」

 国王は短くうなる。

「除却の指輪は四大魔道具、つまり大変な貴重品だ。しかし、国の宝物庫の奥にただしまっていても、仕方がないのは事実。冒険者に譲渡して、冒険に活用するなり、冒険者ギルドが維持管理する方が役に立つのだろう」

 暗に「貴重品ではあるが、国としては要らない」と言っているかのような話しぶり。

 これは交渉成立するかもしれない。

 カイルが「むむ、そうですね」と返したところで、不意に国王が。

「ところでカイル殿」

「なんでございましょう?」

「我が国が除却の指輪を持っていることを、どうやって知った?」

 一瞬にして緊迫が走る。おそらくではあるが、このことは機密扱いだったのだろう。

 とすれば、適当にごまかして場を収めることは不可能。

 カイルは正直に答えた。

「ドレイク殿にハッタリをかましました」

「……ハッタリ?」

 国王とドレイクが目を見張る。

「はい。ドレイク殿方とお会いした時点で、除却の指輪のありかは全く知らず、どこの誰が所有しているか、いや、そもそも誰かの手にあるのかどうかも分からない状態でした」

「それでなぜドレイクに目をつけたのだね?」

「目をつけたというほどではありません。国の高官であるドレイク殿にお尋ねすれば、とりあえず連合王国が所有しているかどうかは調べることができる、と考えました。正直、確信どころか手がかりも特になく、ただ網を広げるためだけにかましたハッタリです」

 国王とドレイクはしばし無言だったが、やがて苦笑交じりに国王が答えた。

「ふむう、面白い、実に面白い。カイル殿は、ハッタリも命中させる幸運を持ち合わせているようだな。それでこそ名うての冒険者というもの」

「恐縮にございます」

「うむ、分かった。合戦へ協力してもらい、勝った暁には、除却の指輪を与えよう」

「ありがとうございます。ただ……実物を一度で構いませんので、見せていただけませんか。国王陛下の言を疑うわけではありませんが、物はできるだけ、ここにいるアヤメが鑑定するのが一党の慣習でありまして」

「それもそうだな。よい心がけだ。誰か、例の指輪を持ってきなさい」

 しばらくして、使いが腕輪を持ってきた。

 銀に似た光沢を持ち、飾りはきわめて簡素。どことなく指輪の回りにだけ静けさが漂う。

「本物ですな。それ以外に言葉がありません。四大魔道具の一つとみて間違いありませぬ」

 アヤメが所見を述べた。

「……これでよいかな?」

 国王が尋ねたので、カイルは答える。

「はい。ありがとうございます。これが手に入るように、合戦への協力をお約束します」

「うむ。良かった、頼んだぞ」

 国王は「下がってよいぞ」と指示した。

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