◎第44話・合戦の準備
◎第44話・合戦の準備
しばらくして、カイルの本拠地たる小さな自宅に、思ったとおりの来客があった。
「ごめんください。私は連合王国国防室、事務次官のドレイクと申します、カイル殿にご面会をお願いいたしたく参りました」
国防室の事務次官。「軍人組」ではないものの、「行政組」のトップクラスの人物である。
大変な来客である。
しかしカイルは慌てるでもなく静かに答える。
「私がカイルです」
ある程度予想していた客人に慌てるほど、彼はマヌケではなかった。
ともかく、彼が出ると、ドレイクと供の者が頭を下げた。
「改めて、国防室事務次官のドレイクと申します。こちらは特別参与のネルソン」
「ネルソンと申す。よろしくお願い申し上げる次第」
カイルが素早く観察すると、彼らの白く繊細なあつらえのシャツには、一目で豪華だと分かる紋章がついている。
役職だけでなく、おそらくは爵位を持っている、官吏貴族であろう。
「おお……私がカイルです。奥にいるレナスとセシリア、アヤメを率いて、冒険者一党の頭首をしております。立ち話もなんですので、粗末ではありますが中へどうぞ」
そう言って、本当に粗末な家の中に、カイルは半ば恥じ入りながら、客を招いた。
安い茶葉の紅茶を差し出しつつ、カイルは話を切り出した。
「それで、わざわざ事務次官様が、いかなご用件で?」
「……単刀直入に申しましょう。これから起こるであろう合戦に、ご助力をいただきたいのです」
本当に話の早い人物であった。
「合戦? いかようなお話でしょうか?」
すぐにうなずいたのでは聞ける話も聞けない。カイルは詳しく聞き出すべく、すっとぼけてみせる。
実際、合戦のきな臭さはすでに感知していたものの、どこと、どのような理由で、どの程度の規模でぶち当たるのか、詳細は彼もよく分かっていない。
だから、可能な限り詳細を聞き出すことが必要である。
そして、ドレイクの側もそれは承知だったようで。
「詳しくご説明いたしましょう」
いわく。
隣国、パット部族連盟国の盟主、その息子の一人が落馬により死亡した。
それ自体は不幸な事故によるものだったが、邪心を持った盟主の側近……「君側の奸」が、それを宿将ライアスによる計略だと吹き込んだ。
ライアスは、もともと連合王国出身の流れ者で、その勇猛さと器量により出世した人物であった。
そして側近の言うには、息子の落馬は、実は王国からの埋伏の毒であったライアスが、部族連盟を内部から乱すために謀ったものである。
無論、そのようなことは実際には全くない。ライアスが王国出身だったことは確かだが、現在、王国とのつながりはもはや消失していた。
これにまんまとだまされ、怒り心頭になった盟主は、この王国に攻撃を仕掛けるべく軍備を整えている。
部族連盟には宣戦布告の概念はないから、彼らが表立って出陣したときに、連合王国側が宣戦布告を発するつもりだという。
「この戦い、ぜひとも四大魔道具の力、そしてそれを不屈の意思によって入手したカイル殿方のご助力が必要でございます。どうか、お力をお貸しいただけませんでしょうか」
しかしカイルは。
「ドレイク様、貴殿が礼を重んじるお方であり、貴族でありながら平民の私めにも決して高飛車には接しない、模範的なお方であることは充分に分かりました。しかし足りないものがあります」
「それは」
ドレイクが言いかけると、そばのネルソンが継いだ。
「礼を尽くすだけでは、やはり通じませぬか。報酬の話が足りないということでござろう」
「おっしゃる通りです。それも、できれば普通の報酬ではなく、持っていることが名誉にもなるような、そう、例えば四大魔道具の最後の一つ……!」
カイルのこの言葉は、本気で期待していたわけではない。ただ、もしそれがあるのなら、要求するに越したことはないという計算、ハッタリにも似た算用であった。
だが。
「むむ、やはりあの四大魔道具『除却の指輪』が必要でありますか……」
そのハッタリは思いのほか命中した。
「そう、やはり冒険者の本質は四大魔道具の獲得にある以上、そういったものでないと、なかなか動きがたいものがあります」
手応えに心中喝采し、追い討ちをかけるカイル。
「むむ……分かり申した。しかし四大魔道具は冒険者以外にとっても大変な貴重品です。もっと上に掛け合って、慎重に決裁しなければなりません」
「そうですか。私たちも、もしできるなら同行いたしたく思っているのですが……」
お願いすると、ドレイクはしばらくうなってから。
「……承知いたしました。案内しますゆえ、ご同行してくだされ」
果断にも同行を受け入れた。
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