◎第46話・お偉いさん

◎第46話・お偉いさん


 その後、事務次官ドレイクから、具体的にどのように協力をするかについて説明を聞いた。

 いわく。

 通常の戦線には、よほど戦況が苦しくならない限り投入しない。連合王国としては、四大魔道具およびそれを使うカイルのパーティを強力な集団だと認識しているが、その力は敵兵を最前線でバッサバッサとなぎ倒すものではないと考えている。

 ではどのように使うのか。

 答えは多岐にわたる。ゲリラ戦として四人という少人数でどこかの拠点を奇襲したり、誰か敵将を暗殺する任務に従事したり、ことさらに危険を伴う偵察をしたり、敵が迷宮を展開したときはその突破をしたり、といったことを予定しているという。

 特に、迷宮の攻略。

 合戦でどうして迷宮を、と思うかもしれない。

 実は、これはまだ未確定の情報であるが、敵の将軍が魔道具で迷宮を構築し、攻略するまでそこを通さない、遅滞戦術を用いるのではないか、というものがある。

 そうだとすれば、従軍中に迷宮への挑戦をすることもありうる、との話だった。

 これらの説明もなんだかふんわりしたものだが、実際に合戦が始まっていない以上、明確にこれだと特定まではできないらしい。

 とにかく要するに、通常の戦力ではなく、戦いにおけるなんでも屋に位置づけられる、とカイルは把握した。

 そしてドレイクからの申し出。

「王宮の近くに来客用の館が空いております。そこで合戦の時まで過ごしていただくというのはいかがでしょう」

 聞くと、連合王国直属の使用人が付いた豪勢な館を、時機までタダで貸してくれるという。

 ……一見、手厚い待遇の話だが、カイルはそうではないと直感した。

 おそらくは戦いに備えて、怪しい動きをしないか監視しやすくするため。王国がカイルのパーティを特殊な戦力としてとらえているなら、その戦力が万が一、敵と通じたり、寝返ったりするとおおごとである。

 もう一つ、この機にカイルのパーティの秘密事項を握って、脅しをかけたり今後も協力を強要したりすることも、一応は考えられるが、まあ、こちらは握られて困るような秘密事項はないので、気にしなくてもよいかもしれない。

 ともあれ、どうせカイルは王国を裏切るつもりはない。仮に部族連盟がどれだけ金品等を積もうとも、冒険者ギルドは王国の中にあるし、生まれた国を簡単に捨てるほどの何らかの動機を、彼は持っていない。

 そして、きっと仲間たちも連合王国に造反することなど考えていないだろう。アヤメは異国の出身だが、だからといって部族連盟に与する理由があるとは思えない。

 そこで彼はドレイクに答えた。

「ありがとうございます。ぜひとも館をお貸しいただきたく存じます」

 深く頭を垂れた。

「うむ、こちらとしてもカイル殿には最高の体調で合戦を迎えていただきたいものですから、そのお答えに安心しました。多少不慣れではあろうと思いますが、快適に過ごしていただけるよう種々配慮しますので、あとはどうか開戦後に頑張ってください」

 ドレイクの差し出した手をカイルは握り、ここに会戦への協力は確定した。


 館は一人一室だった。当たり前ではあるが、いままで狭い自宅で四人一室で暮らしてきたカイルは、久しぶりに独りきりの空気を味わっていた。

 久しぶりの独り。勇者パーティを追放された日のことを思い出す。

 いつかそうなると予期していたとはいえ、突然の絶縁宣言がどれだけ衝撃だったか、その思いはカイルにしか分からない。

 追放後、幸運にもわりと早く他の冒険者、レナスらとパーティを組めたとはいえ、あの足元から何かが崩れ去る感触は、忘れることなどないだろう。

 しかし彼は、いまや冒険者パーティとして台頭し、四大魔道具のうち三つを手にした有名人である。人生とは分からないものだ。

 しかも合戦さえ乗り越えれば、冒険者として最大の成果、四大魔道具全ての入手に手が届く。歴史にその名が残る。

 必ず戦いに勝つ。そして目の前にある絶好の機会を、ものにしてみせる。

 カイルが考えていると、扉を叩く音。

「はい」

「レナスだよ。セシリアさんとアヤメさんもいるよ」

 メンバー全員集合である。

 彼は扉を開けた。

「いったいどうしたの、全員で来るなんて」

「残念ながらカイル君の考えている展開じゃないんだなあ。ふっふっふ」

 ニヤニヤとレナス。

「は? 全然意味が分からないよ。レナスはとうとうおかしくなっちゃったのか?」

「またまた。桃色でめくるめく快楽なことを予想していたんでしょ」

「えっ全然。何か話があるのかなとは思ったけど、レナスはそんなことを考えてたの?」

 まだニヤニヤしているレナス。

「いやいや、え、照れ隠し?」

「何が? まあレナスがそれをお望みなら、また夜にでも来ればいいよ」

「エェ、なにその返し方。まるで私が、その、そういう女みたいじゃん。もう!」

「分かったら本題に入ろう。後ろの二人があきれてるよ。まったくレナスは困った人だなあ」

 完全に形勢逆転である。どうでもいい。

「カイル君のばか! ホントばか!」

 ゆえなき罵倒を涼しい顔で流し、彼は部屋に招き入れた。

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