◎第41話・奨励金
◎第41話・奨励金
帰りの乗合馬車が走るが、王都には一日で帰れる距離ではないため、野営をする。
周りに聞き耳を立てる人がいないのを確認しながら、カイルのパーティは話をする。
「どうにも簡単に電光の杖が手に入ったな、カイル殿」
「まあ今回は、戦闘も迷宮挑戦もしていないからね。そういう意味ではすんなり手に入ったけど、でも、僕が知恵を振り絞ったおかげだってことは踏まえてほしいな」
柄にもなく自分を推すカイル。
「おっ、カイル君が手柄を誇示するのは珍しいね。これは雨でも降るかなあ」
「茶化さないでよレナス……あまり変なことを言うと、協力しないよ?」
「えへへ、ごめんごめん、茶化しがいがあるからさ」
全く反省の色が見えないレナス。
昔から彼女はすぐ調子に乗る人間だ。カイルは頭を抱えた。
「しかし……せっかく四大魔道具が三つもあるというのに、ですな」
「どうしたんだいアヤメさん」
アヤメは道具袋の中の四大魔道具をじっと見る。
「まだ我らは四大魔道具を一度も使っておりませぬ。強力な効果を秘めている道具なら、どこかで試しに使うとか、有効利用するとか……ただの美術品ではないですからな……」
「まあ気持ちは分かるけどさ、でも」
カイルはやんわりと制する。
「力に振り回されてはいけないよ。必要のないときにまで使ったり試したり、力ってのはそういうものじゃないと思うんだ。責任と覚悟をもって、本当に使うべきときに使わないと。実際、ギヨーム商会で敵もいないのに撃つわけにもいかなかったし」
「それはそうですな」
カイルはようやく燃え始めたたき火に、冷えた手をかざす。
じんわりと温かくなってゆく。
「それに、冒険者である以上、戦いはすぐに向こうからやってくるさ。四大魔道具を使わざるを得ない状況が、ね。むしろ僕たちは、虎の子である四大魔道具をむやみに使わないで勝てる方法を模索しなければならない。四大魔道具に頼り切っていたら、何かで封じられたときに手も足も出なくなる」
「なるほど」
「四大魔道具はきっと特異な戦闘力だ。剣術なり弓術なりといった通常の戦力とは、きっと良くも悪くも次元が違う。通常の戦力も磨いていかないと」
「特異な戦闘力……まあ確かに、雷電を撃つ杖とか、引力斥力とか、普通の攻撃ではないな」
「その通り。で、通常戦力を磨こう。武器の手入れはしたかい?」
「あ! 最近忙しかったから忘れてたよ!」
「ダメだよ、おろそかにしては。そういう細かいところから勝敗は決まっていくんだから」
彼はあきれつつ、自分の武器を見た。言った本人であるカイルには、もちろん手抜かりなどない。
月光を映し、こまめに手入れされた剣がまぶしかった。
王都に帰ったカイルは、まず冒険者ギルドに赴いた。
四大魔道具のうち三つを獲得したことを報告するためだ。
本来なら二つ目、バリスタの月光を取得した時点でも報告すべきだったのだが、すっかり報告を忘れていた。
頼れるリーダー、【司令】と【主動頭首】を兼ね備えたカイルにも失敗はある、という好例である。
ともかく、彼が受付にその旨を伝えると、仲間とともにしばらく別室で待たされた後、なにやら豪華な応接室に通された。
中には、ギルドの理事長と、おそらくは【鑑定士】であるだろう初老の男性が座っていた。
「失礼します。冒険者カイルです」
「ああ、よく来てくださった。カイル殿」
自分に殿をつけて呼ぶのは、セシリアとアヤメだけで間に合っているんだけどなあ。
ぼんやりとカイルは益体もないことを考える。
が、次の理事長の言葉でボヤボヤは吹き飛んだ。
「まずはカイル殿、ここに金貨、銀貨を用意したゆえ、受け取ってくだされ」
包みを理事長が開けると、ざっと三万ドラースはあろうかという現金。
大規模な商会に勤める若手の、ほぼ一年分の給料と同額。
「おぉ、これは……これはなぜです?」
我に返ったカイルが問う。
「四大魔道具はまだ使う予定がありますので、ギルドに寄贈はあまりしたくないのですが……」
「そうではないのですよカイル殿。そういうことではありません」
理事長はシワもまばらな顔に、微笑を浮かべる。
「貴殿は四大魔道具のうち三つを集めました。これは冒険者ギルドの歴史の中でもちょっとした快挙です。寄贈などではなく、その業績そのものに、ギルドは報いなければなりません」
「歴史……しかし」
カイルはあることを思い出した。
「四大魔道具全てを制覇することに成功した冒険者一党も、歴史上確か二組いたはずです。三つなら、うろ覚えですが五組ぐらいはいるのではないでしょうか」
「カイル殿は感覚が少しマヒしているようですね」
理事長は頭をかく。
「冒険者ギルドの歴史は長い。前身組織も含めると、五百年近くに達しております。その中で五組と二組の中に加わるというのは、かなり稀なことです。少なくとも冒険者ギルドとしては、その功績を称え、また今後の旅の助けとなり、さらなる活躍を奨励するためにも、このぐらいの報償はしなければなりません」
「なるほど」
カイルは納得した。金銭は何かと必要ではあるし、くれるというなら、もらわない選択はありえない。
どうやらこの金貨に変な意味はないようであるから、彼はふにゃりと笑った。
「ありがたくちょうだいします。……もっとも、僕は最後の四大魔道具まで手に入れるつもりですし、少なくともそれが達成されるまでは寄贈しません。そもそも、全部制覇しても寄贈はお約束できませんが。とにかく、僕はここで終わるということは考えておりません」
「それでよいのです。あなたがたにはぜひ四つ目を入手し、三度目の完全制覇を達成してほしい。わしは切にそれを願っております。そのためにその金銭を役立ててくだされ。真の冒険者の頂点に立つために」
「承知しました。激励ありがとうございます。頑張ります」
頭を下げると、カイルは金銭を包み直し、レナスの持つ魔法の道具袋に収納した。
「ギルドの性質上、金銭でしか報いることのできないことをお許しくだされ」
「とんでもない。大変感謝しております」
「貴殿もご多忙のことでしょう。道中の話を詳しくうかがいたいところですが、使命のため、ご自身たちの道をひたすら進んでくだされ。玄関までお送りしましょう」
こちらへ、と理事長は先導した。
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