◎第39話・見回り
◎第39話・見回り
やがて都市ベネミラーノについた一行は、事前連絡の通り、昼過ぎにギヨーム商会本部を訪ねた。
番人にも連絡は届いていたようで、すぐに応接間に通された。
そしてやってきた当主ギヨーム。
「いやはや、アヤメ様がまさか、四大魔道具を二つ制覇したカイル様のお仲間だったとは」
「恐縮です」
アヤメから聞く限り、ギヨームには冒険者の経歴はないはずだが、カイルらが四大魔道具を半分押さえていることは知っているようだ。
これが噂というものか。カイルは口の中でつぶやいた。
「で、早速ですが商売の話をしてもよろしいですかな」
「ええ」
話が早い。助かる、とカイルは思った。
聞いた話は、概ねアヤメと同じだった。北部支店の能率が上がらない。賃上げをしたのだがそれでも捗らない。
「それをカイル様方には解決していただきたく……。冒険者としての独自の目線があれば、また見える道筋も違うのではないかと思うのです」
「それはそうかもしれませんが、私は商業に慣れた者と歩調を合わせたく存じます」
「……なるほど。その点は考慮いたしましょう」
「もう一つで恐縮ですが、今回の報酬となる電光の杖を一目見たいと思っております」
「おお、お安い御用で」
ニカッと笑うと、ギヨームは使用人を呼んで持ってこさせた。
「こちらですな。電光の杖、一商人が持つには少し物騒すぎる代物ですな。ある日、いつの間にか物置にあったようなのです」
伝説によれば、魔王にも対抗しうる雷電を操れるのだそうだ。
魔王だけでなく、広く戦闘の主軸となると思われる。
「アヤメさん」
「間違いなく本物でござる」
「よし。分かった」
彼女の素早い鑑定に、彼はうなずく。
「見せていただきありがとうございます。私たちも冒険者の端くれ、報酬たる四大魔道具がきちんとしていないと不安になるものでして」
「お気持ちは分かりますぞ。わしも代金回収なり問屋、卸からの納品なりは確実に行わないと不安ですな」
「そうでしょう。その辺は冒険者より商人のほうが繊細でしょうね」
「ハハ、冒険者も冒険中のささいな判断が生死を分けるものでしょう」
「それもそうですね。ハッハッハ」
和やかな空気。
「ところで私たちも、現場となる北部支店を見回りたく存じます」
「おお、現場主義ですな。供をつけましょう。それも商いに精通した者を。最低限見られたくないところはありますので、供の者の制止には従っていただければ幸いですが」
「もちろんです。私もここへ来る道中に考えておりましたが、問題の根本はおそらく機密の中にはないものと思います」
「ほう。まあ、見回っていってくだされ」
ギヨームは、おそらく本心から、ニコニコと笑った。
店舗の入り口に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ……」
よくいえば落ち着いた声色。悪く言えば元気を欠くあいさつ。
「こんにちは」
カイルもあいさつを返す。
彼は入口から店全体を見渡して一言。
「人が少ないですね。その分、売り場の従業員はよく頑張って働いているようです。しかし……」
彼は従業員個々の顔をざっと見やる。
「元気がなさそうですね」
「面目ありません。教育はしっかりしますので」
「いや、そういう問題なんでしょうか?」
案内人の言葉に、彼は疑問を呈する。
「まあいいや。品物は……特に問題はないようですね。手入れはしっかりなされていて、古い商品は交換されているみたいですし、なにより陳列の仕方がきっちりしている。スカスカの並べ方になっている棚は、すぐに従業員の方が直しています」
せっせと商品密集の作業をする従業員を、彼は見る。
「僕の推測が正しければ……いや、次は事務室を見せてもらいましょう。店頭ばかりが店の機能している部分ではないですからね」
「了解しました」
案内人はカギを取り出し、片隅の扉を開けた。
またあいさつ。
「お疲れ様です……」
上品で元気のないあいさつ。
「申し訳ありません、教育はきちっとするようにいたしますので」
「うぅん、これはきっと別の問題がブツブツ……いや、まだ結論を出すには早いですね」
彼は全体を見渡す。
「しかしすごい出勤率ですね。この事務室、決して狭くはないのに、どうやら今日は全員出勤しているようです」
しかも各人の机には書類が山積みで、各々顔を青くしながら仕事に取り組んでいる。
まるで、書類の山が各々の限界を超えているかのように。
「ちなみに、他の支店も似たようなものなんですか?」
「他の支店はどうもたるんでいるようで、ここより仕事が少なく、残業もほとんどしていないようです。残念ですが緩く仕事をしているようです」
「ほう。……この支店の人は、休むこともなく頑張っているんですね」
「その代わりあいさつは生っちょろいようですけれども。今後改善したほうがいいですね」
「いや……」
カイルは腕を組んで考える。
「最大の問題は元気そのものではないと思います。だんだん見えてきました」
「なんと」
「ちょっと仲間とも案を出し合いたいです。本部の相談室か何かを貸してもらえませんか」
言うと、「分かりました」と素直に案内人は了承した。
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