◎第31話・明らかに怪しい扉
◎第31話・明らかに怪しい扉
彼はその考えを余すところなく話した。
「……と思ったんだけど、どうかな」
しかしセシリアが困惑の様子を見せた。
「まあ、そうかもしれないが、だからといって、どうすればよいのかという話だな」
危機感があまり伝わっていない。いや、事実、カイルのように予想したからといって、とれる手段はただ一つ「慎重に進む」だけなのだが。
「確かに、僕たちとしては注意深く攻略を進めるしかないんだけども」
「そうだろう」
「でも、心構えがあるかどうかは重要だと思うんだ。きっとこの迷宮には、この先に致死率のすごく高い何かがある。気構えをしなければならない」
「それは分かる、しかしその正体が具体的に把握できないのでは仕方がないと思うが」
「そうだけどさ……どう言ったらいいのかな」
彼が困っているところへ、レナスが助け舟を出した。
「まあまあ、カイル君の言うことも分かるよ。何かとてつもない脅威があって、それに充分注意しなきゃならないってことでしょ」
「その通り。この迷宮には、簡単な罠に混じって、罠か獣かはたまた人間か、大きな脅威になるものが潜んでいるだろうからね」
「むむ」
そこへアヤメも口を開いた。
「それがしもカイル殿と同じ意見でございます。この迷宮、レナス殿の解説を待つまでもなく、罠の程度がいささか低いと思われまする。これだけで挑戦者が全滅したと考えるのは、さすがに無理があると……」
「そういうものか」
「まあ、確かに注意深く進むしか対策はないんだけどね。だけどこの迷宮には、尋常ではないものが確実にある。それはたぶん当たっている」
「なるほど分かった。慎重に進もう。とはいってもレナスやアヤメのほうが、そういう方面は詳しそうだけどな」
セシリアが同意を示すと、残り二人もうなずく。
「了解。このレナスさんが迷宮の秘密を暴いてみせるよ!」
「それがしはレナス殿のように浮かれずに、地道に注意を払う次第ですぞ」
「もう、人をからかって!」
カイルは道の途中でおちゃらけた掛け合いを始める二人が多少不安だったが、その意図は伝わったことを感じた。
あとは前進あるのみ。
彼は「じゃあ、行くよ」と号令をかけた。
その後もどこか生ぬるい罠が続いた。まるで迷宮の体裁を保つためだけの、発見もしくは立て直しが容易な仕掛けの群れ。
そして、それらを越えた先に扉があった。
「見るからに怪しいね」
カイルがつぶやく。
「そうですな。この扉、入った者をどこかへ転移させる魔道具の一種のようですぞ」
それを受けて、鑑定を行ったであろうアヤメが続ける。
「転移か。どういうところへ?」
「別の一室のようでございまする。……ああ、別に水の中とか、空中とか、断崖絶壁とか、そういう転移した瞬間に危険がある場所ではありませぬ。ご安心召されよ。ただ……」
「ただ?」
「この扉、一回に一人ずつしか受け入れないようですな。次の人間が入るには、転移先からの制御が必要なようで」
「一回に一人か……」
カイルは腕組みする。
「この先に『脅威』がありそうだね」
「然り。それがしも同じ見立てでございます」
アヤメに続き、レナスも。
「私もそう思う。この扉だけ、なんか他の罠より手が込んでいる気がする」
「カイル殿、しかしここは進むしかないと思うぞ。ほかの部屋はあらかた調べたし、ここだけしか進路はありそうにない」
「そうだね」
彼は深く同意した。
「僕の天性は【司令】と【主動頭首】。この両方が効果を及ぼしているのは僕だけで、他の三人は【司令】の効果だけ受けている。たぶん現在の状態で戦いに入るなら、この面子の中では僕が一番強いし、戦闘以外にもそこそこ対応できる。つまり、危険が待ち受けているであろうこの扉に、最初に入るべきは僕だ」
「カイル君……」
「レナス、これは格好をつけているわけでも虚勢を張っているわけでもない。合理的な判断をする限り、これが一番の答えだ」
彼はそう言い切った。
「というわけで僕が行ってくるよ。みんなはここで待っていてほしい。大丈夫、みんなはここに入るまでもなく、踏破を待つだけになると思うよ」
「カイル君……無茶はしないでね」
「私も同行したい……アヤメ殿、制御うんぬんの仕掛けは解除できないのか」
「残念ながら……どうか生きて帰ってきてくだされ」
三人はいずれも、カイルを心配しているようだ。
「おいおい、僕は仮にもバリスタの星光を取得した冒険者だよ、これしきの脅威に屈する人間じゃないさ」
それは慢心ではない。ただ、三人の気を楽にさせたいがための言葉。
「カイル君、くれぐれも気をつけて」
「分かってるよ。じゃ、行ってきます」
あまり名残惜しんでも仕方がない。
彼は覚悟を決めて扉を開けた。
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