第3話

 人形との会話は、続いた。


 同僚たちと同じく、恋知らずだった僕は、彼女との会話を通して、様々な事を教えられた。

 夜空の星のお喋り、

 風の中の季節の香り、

 夕暮れの影の長さ、

 気づかなかった、美しい世界。


 小さなコーヒーカップを手に入れ、温かいカフェオレを人形の前に置く。

 僕は、ブラックコーヒーだ。

 人形に語り掛けるのは、古い映画やテレビドラマ、生まれて初めて読んだ恋愛小説で、にわか勉強をした愛の言葉たち。

 本物の人間を相手には、きっと恥ずかしくて口に出せない言葉たち。


「可愛い君が好きだ」


 ある夜、素直な気持ちを文字にしてしまった。

 素朴過ぎる列をなす文字で、話しかける人形からの返信は、


「………」


 言葉が無かった。

 恋に不器用な僕は、嫌われたかなと思った。

 落ち込んでしまった


 その夜、僕は気づいた。

 毎夜、毎夜の愛の言葉は、僕自身の中に恋する気持ちを生み育て、人形の姿は、僕の胸をしめつける存在になっていたことに。


 眠れない夜の東の空、

 蘇る光差す頃。


「嬉しいです。恋人にしてください」


 起動したスマホの中の、

 人形の姿は恥じらいに、頬を染めている。

 パソコンの机の上の人形の頬も朝焼けの中、心なしか紅く染まっているように見える。


 ボクハ、ドコニオチタノカ?




 


 

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