第29話 ~Happy Christmas Morning~

 25日。クリスマス当日の朝。

 美七海が目を覚ますと、既に泰史は目を覚ましていて、肩ひじを立てて半身を起こし、美七海を見つめていた。


「おはよう、美七海ちゃん」

「うん、おはよう」

「こんな格好でなんだけど……」


 そう言うと、泰史はその場で上半身を起こして座り、美七海へと小さな箱を差し出す。


「ほんとは、さ。昨日、サンタクロースの格好をして、姉ちゃんたちの前で美七海ちゃんに渡す予定だったんだ」


 なのに、俺だけトナカイの格好だし、姉ちゃんたちは消えちゃうし……


 小さく呟きながらも、泰史は美七海の前で小さな箱を開く。

 そこには。


「……え……えぇっ⁉」


 カーテンの隙間から差し込む光を眩しいくらいに反射しているのは、ダイヤモンドの指輪。

 驚いて起き上がり、慌てて胸元を掛け布団で隠して、美七海は泰史を見た。


「これって……」

「うん。プロポーズ」

「ぷろぽーず?」

「うん」


 照れ臭そうな笑顔から真顔になると、泰史は美七海に告げた。


「俺と、結婚してください。俺、美七海ちゃんとこれからもずっと一緒にいたいです」


『だからね、美七海っちには、やっくんのことお願いしたいんだ』


 美七海の頭の中に、亜美の言葉が蘇る。


(もしかして亜美さん、こうなることを知ってた……?)


「美七海ちゃん?」


 不安そうな顔を向ける泰史に、美七海はニコリと微笑むと、右手で胸元を押さえながら左手を泰史へと差し出した。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「やった!」


 笑顔を弾けさせ、泰史が指輪をゆっくりと美七海の指へと嵌める。


「きれい……」

「美七海ちゃんの方が綺麗だよ」

「もうっ……バカっ……んっ」


 覆いかぶさってきた泰史を受け入れかけた美七海だったが、ふと目に入った時計が示す時間に、慌てて泰史を押しのけて飛び起きる。


「大変!泰史、遅刻しちゃうっ!」

「えっ?あぁぁっ!忘れてたっ、今日会社だっ!」

「先にシャワー浴びて来て!私ご飯用意しておくからっ!」

「わかった!俺も後で片付けするから!」


 甘い空気が一瞬で吹き飛んだ朝。

 どこからともなく、小さな笑い声が響いていた。


 あははっ。

 フフフっ。

 おめでと、やっくん。

 おめでとう、美七海さん。


 ~Happy Christmas Morning~

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