うちの子記念日 🐶

上月くるを

うちの子記念日 🐶





 関東地方のとある郊外の美しい街で、なるべくひと目に立たないよう、ひっそりとした暮らしを営んでいる深山田シン・スズ夫妻のひとりむすめリガルちゃん。(^.^)



 ――推定十六歳。(^.^)



 粉雪が舞う近隣県の山中の路上にぽつんと置き去りにされていたこの子は、だれの仕業かめちゃめちゃに脊髄が傷つけられているので、自力で歩くことができません。


 なのに、木材搬出用トラックでとなりの街の動物保護団体に連れて来られたとき、すべてを丸ごと受け入れているかのように、穏やかな笑みを浮かべていたそうです。


 ネットでリガルの存在を知ったシン・スズ夫妻は、そのころ新婚半年目でしたが、ふたりでとことん話し合った末に、リガルを家族として迎えることを決意しました。




      🐕




 それから十二年。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

 いまやリガルはすっかり深山田家の中心人物、いえ、中心犬になっておりまして。



 ――父ちゃん母ちゃん。(´ω`*)



 互いをそう呼び合っているシン・スズ夫妻は、リガルのためならなんでもします。

 オムツ替えや、下半身のマッサージ、季節を味わうための特製車いすでのお散歩。


 あまり身体が丈夫でないスズが床に就いている日は、仕事を済ませたシンが急いで帰宅し、炊事や洗濯などの家事からリガルの世話まで率先して引き受けてくれます。


 リガルがまた信じられないほど賢い子でして、オムツ替えのときシートに仰向けに寝かせると、自ら不自由な脚をひろげ、作業がやりやすいようにしてくれるのです。



 ――なんと健気な……。(ノД`)・゜・。



 地方の都市からときどき様子を見にやって来るおばあちゃんは、父ちゃん母ちゃんリガル坊ちゃん(愛称です(笑))の共同作業を見るたび目を赤く潤ませています。




      💐




 そして今日はリガルがシン・スズ夫妻の子どもになって十二年目の記念すべき日。

 誕生日がわからないリガルにとっての「ハッピーバースデー!!」でもあります。


 

 ――リガルちゃん「うちの子記念日」おめでとう!!!!🎂


 

 大粒の苺がふんだんに飾られたデコレーションケーキに小さなろうそくが十二本。

 チョコレート板に記すフレーズをケーキ屋さんに頼んだのは、おばあちゃんです。


 郊外のまちのささやかな家で、とびっきり幸福な誕生パーティが開かれています。

「陽春のわが子記念日ありがとう」おばあちゃんが凡句で色を添えました。(笑)


                      (『Haiku物語』より一部改稿)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うちの子記念日 🐶 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ