薄暑のメルヘン 🌙

薄暑のメルヘン 🌙

　わたしね、ずっと思っていたの、わたしには決定的になにかが足りないって。

　でね、やっと分かったの、もう長いこと抱きしめられていないなって。(;_:)

　子どもや孫や犬たちを抱きしめはしたけど、抱きしめられることはなかった。

　そして、だれにも抱きしめられること、ないよね、これからも、ずっと……。

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　ヨウコさんヨウコさん、ヨウコさんてば、そんなところで眠っちゃだめでしょう。

　そうよ、とうに平均寿命を超えているんですからね、うたたねは、からだに毒よ。

　六月の若葉がそっと囁き合うような、やさしくてやわらかな声が聞こえています。

　そうね、早く起きなきゃと思いながらも、まぶたがどうしても開いてくれません。

　ヨウコさんヨウコさん、ヨウコさんてば、ささ、ちゃんとベッドに入りましょう。

　いくらお気に入りだからって、リビングの長座布団なんかで寝てちゃいけないわ。

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　ほおら、おか、わたしたちの幼かったころみたいに、元気よくピンシャンとして。

　おか、おか……いやだよ、おかじゃなくなるなんて、おかはずっとおかでいてね。

　もちろんだよ、おかはいつまでも、あなたたちの母親だよ、これからもずっとね。

　ちゃんと言ってやりたいのに、安心させてあげたいのに、目がね……開かないの。

　ねえ、わたしたち、ここからいつもおかを見守っているんだよ、知ってるよね？

　ここからって遠い首都圏からだろ？　ちがう？　ま、いいか、でも、うれしいよ。

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　リビングの長座布団に横たわったヨウコさんの呼吸は少しずつ小さくなって……。

　棚のスケルトンの箱から見守る、二体の女の子の人形は、もうなにも言いません。

　それは手もとから巣立ったむすめたちの代わりにヨウコさんが作った編みぐるみ。

　きれいなピンクやブルーの上着やスカート、色違いの毛糸の長い髪、お茶目な眸。

　にっこり微笑んだ白い頬に淡い紅が刷かれているのは、使わなくなった頬紅……。

　姉妹のお人形の釦の目からこぼれ出た透明なしずくを梅雨の月が照らしています。

　そのとなりには「長く長く働きつづけ、わたしたちを育ててくれてありがとう」。

　半世紀近く経営して来た事業を閉じた日、長女一家が贈ってくれた寄書きの色紙。

　イラストの得意なお婿ちゃんがデザインしたカラフルなゴム印は次女一家からで、社名の記された本を高々と頭上に掲げたヨウコさんが豪傑笑いをしています。（笑）

　🐑　ここで話はがらりと変わります。🗨️💬🗯️💭　🗨️💬🗯️💭　🗨️💬🗯️💭　

　日曜日の子ども電話相談室で、紅水母（べにくらげ）をとり上げていました。地球に生存するほぼ唯一といっていい不老不死伝説の生き物なんですよね～、あのちっちゃなひらひら。

　ウィキさんによると、生まれ変わるというより若返るという方が合っているっぽいですが、とにかく生あるものはみな死ぬと思っていたので、ちょっとアレな感じで。

もし、永遠に生きる生物が本当に存在するのだとしたら、宇宙の循環はどうなるの？

透明なからだの芯に美しい紅色を灯した幻想的な画像を見ていて、ふと思いました。

　永久の命を真に望むのは、自分という存在に絶対の自信をもっている人だけでは？

　とすると、歴史上の人物でまず思い浮かぶのは、中国・玄宗皇帝の寵姫・楊貴妃。

　むかし訪ねた西安に、傾城の美女が使用したという大理石の浴槽がありましたが、あれってホンモノ？　まさかねえ……でも、年老いた楊貴妃、見たくないかも。🌺