第19話:終わってしまえば夢のような出来事。
俺は桃香に付き添われて退院した。
メルバとの出来事は、もしかしたら俺が入院してた間の昏睡状態だった時
見た夢だったんじゃないかとさえ思えた。
いままで一緒にいたメルバが、今はそばにいないから余計そう思う。
ちゃんとした別れをしないうちにメルバは自分の星に帰ってしまった。
桃香と一緒に俺の家に着く頃、俺のスマホのメールの着信音が鳴った。
誰からだろうと思って見たら・・・メッセージが1通届いていた。
「ケイスケ・・・メルバだよ・・・
ちゃんとお別れもしないで、帰っちゃってごめんね」
「でも、ケイスケに会ったら、別れられなくなりそうで・・・」
「ケイスケ・・・愛してたよ・・・今でも愛してる・・・もう会えないと思うと
悲しいけど、ケイスケとの楽しかった日々を思い出に、これからがんばって
生きてくからね。
ケイスケも桃香さんといつまでもお幸せに・・・じゃ〜ね、元気でね
・・・さよなら・・・いっぱいの愛を私にくれてありがとう・・・ 」
「ピーチ&メルバより」
「メルバ・・・」
「そうなんだ・・・やっぱり自分の星に帰ったんだな」
「なに?・・・誰からのメッセージ?」
「俺の大切な人から・・・」
「なにそれ・・・大切な人って私以外に?・・・誰?」
「ああ、今は桃香が一番大切な人だよ」
(俺は罪作りな男だな・・・ふたりの女を同時に好きになって・・・)
それから俺の家に、大慌てで編集社の谷川さんがやってきた。
「先方様が企画のスケジュールが終わる前に、星に帰るとおっしゃって私を訪ねて
来られたですか・・・「すばらしい文化交流ができました、この宇宙で地球がもっともすばらしい星でした、 ありがとうございました」
ってご報告にお見えになられたんですか・・・なにかございましたか? 」
「何もないよ・・・俺も、すばらしい人生経験をさせてもらったから
期間終了を待つことなく、満足して帰って行ったんじゃないかな? 」
「俺もお礼言います、谷川さん、大変お世話になってありがとうございました」
「とっても素晴らしくて有意義な企画でした」
「あ・・・いやいや、それはなにより・・・お役に立ててよかったです・・・」
「そのお言葉を聞いて安心しました」
何も知らない谷川さんは喜んでコロこんで帰って行った。
「ねえ、圭介・・・病院で言ってたでしょ・・・メルバって?」
「あのメルバって何?・・・」
「あ〜メルバね・・・そうね・・・・あれはね」
「オーストラリアだったかな?
ネリー・メルバって歌手がいてね、ロンドンのコヴェント・ガーデンってところで
オペラを演じた時に、ホテルの料理長オーギュスト・エスコフィエさんを公演に
招待したんだって。
でね、シェフはその返礼としてメルバに特別製のデザートを作ったそうだ。
そのデザートをメルバが気に入って名前を尋ねたところ、エスコフィエが
「ピーチ・メルバと呼ばせて頂ければ光栄です」と答えたんだって。
つまりメルバってのは正式にはピーチメルバ・・・桃のスイーツのことだよ」
(危ない、危ない・・・メルバと最初に会った時、ネットで調べておいて
よかったよ)
「いつかピーチメルバを食べてみたいなって思ってて・・・だからつい
クチから出たんだと思うよ 」
「私がスイーツに見えたの?、変なの・・・」
「やっぱり頭の打ち所が悪かったのかな?・・・」
「あはは・・・そうかもな・・・でも君はスイーツより美味しいよ」
「そう言やあ、しばらく食べてなかったな・・・桃香のこと」
「ヤダ・・・もう・・・退院したばっかじゃん」
「そうだな・・・入院してる間、ずっと俺のそばにいてくれたんだろ・・・
ありがとうね、桃香・・・感謝してる 」
「なんかさ・・・圭介変わった?」
「え?俺が?」
「入院する前より、顔も穏やかになってるし、丸くなったって言うか、
優しくなってない?」
「そうかな・・・自分じゃよく分かんないけど・・・」
「そう言うのって、体から滲みあふれるんだよ・・・圭介の体から
幸せオーラがたくさん出てる気がするもん・・・」
「そうかな・・・いいふうに変わったんならいいんじゃないか?」
「うん・・・絶対、変わったよ・・・いい感じにね・・・私好きだよ今の圭介」
(そうか・・・メルバとの時間の間に俺も成長してたんだな・・・)
いろんな意味で、みんなに感謝だな・・・。
終わってしまえば夢みたいな出来事・・・メルバとの日々は素敵な思い出になって残っていきそう。
でも切ない思い出でもあるな・・・。
メルバ・・・誓うよ・・・これからは地球の彼女を、桃香を大切にしていくって。
ピーチもメルバも、俺を桃香といたベストな時間に戻してくれてありがとう。
考えてみたら俺は、よっぽど桃と縁があるんだって思うよ。
END.
ちあふる・でぃーば。〜異星人との交流はままならない〜 猫野 尻尾 @amanotenshi
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