第17話:我を失ったメルバ。

メルバに酒なんか飲ませたおかげで、彼女は我を失って泥酔したままだから、

俺の血を全部吸ってしまいそうだった。

ピーチが言ってくれなかったら、俺は気を失ってただろうな・・・。


「メルバ・・・離れろ・・・」

「やめろって・・・」


俺は無理やりメルバを引き離した。


引き話されたメルバは、目があっち方向に行っていて、クチから血が垂れていた。


「しっかりしろよ・・・」


俺はメルバのほっぺたを、軽く叩いた。


「俺を殺す気か?・・・」


俺にほっぺたを叩かれて少し、我を取り戻したのか、メルバは目をパチクリ

させて俺を見た。


「あ・・・ごめん・・・ごめんね、ケイスケ・・・まじでごめん」

「私・・・もう少しでケイスケを殺すところだった」


「まあ、正常な状態じゃなかったからな・・・」


「ほんとのこと白状するとね・・・前から思ってたの・・・」

「最初にケイスケとエッチして血を吸った時ね、いつか理性が効かなくなって、

自分を止められなくなるんじゃないかって・・・」


「そのうち、見境がつかなくなるような気がしてた・・・」

「自分の欲求を止められなくなったら、どうしようって・・・怖くて」

「いずれはそうなるって、なんとなく分かってた気がするの」

「ケイスケのことは愛してる・・・でも死なせちゃったら、おしまいでしょ」


「なに言ってるんだよ」


「だから、私と一緒にいたら、きっと取り返しがつかなくなるよ」


「もしかしてメルバは・・・ケイスケのためにケイスケと別れようと思ってた

りして?」


ピーチが言った。


「え?そうなのか・・・ピーチの言ってること」


「メルバは自分のせいで愛する人を死なせたくないって思ってるんだ・・・」

「究極の愛ってやつだな・・・」


「そんなのダメだって・・・なに考えてるんだよ」

「冗談だよな・・・メルバ」


「私、わがままばかり言ってケイスケを困らせてるし・・・」

「こんなこと繰り返してたら、いつかケイスケに捨てられるかもしれないし」


「そんなことないって・・・捨てたりなんかするわけないだろ?、バカなこと

考えるなよ」

「ずっと、このままこの家で暮らせばいいだろ?」

「俺はもう決めてるよ・・・メルバと一生愛し合ってくって」


「うん・・・その気持ちはとっても嬉しい・・・でもね・・・愛だけじゃどうにも

ならないこともあるの」


「もう二度と酒、飲まなきゃ、我を失うこともないじゃないか?」


「お酒だけの問題じゃないと思う・・・」

「私はケイスケの血を吸うことに我慢できなくて、どんどんエスカレートしてっ

ちゃうよ・・・分かるもん」

「愛しすぎるあまり、パートナーを死なせちゃったら最悪だよ 」

「そんことになることが見えてて、それでも愛をつらぬく勇気は私にはないよ?」


「それにケイスケは元カノ、桃香さんにまだ未練があるんでしょ?」


「今、関係ないだろ、そんなこと」


「関係あるよ」


「もし桃香さんが戻ってきたら?」


「そんなこと考えたことないし、今はその問題は重要じゃないし・・・。」


「でも、本心はやり直せるなら、そうしたいって思ってるんでしょ」


「まあ、嫌いで別れたわけじゃないからな、憎しみあって別れたわけじゃないから」


「もう一度会いたい?」


「会いたいけど会えないでしょ・・・向こうがイヤだって言うに決まってるよ」


「でも、ヨリを戻せるなら、戻したい?」


「なんで、そんなことにこだわるんだよ・・・今の俺たちには関係ないって

言ってるだろ・・・」


「関係あるんだよ」

「これからのケイスケには、めちゃ関係あるの・・・」


「私もほんとは迷ってる・・・ケイスケの言葉に甘えて、ずっとここで暮らして

行けばいいじゃんって・・・」


「まさか・・・星に帰るってバカなこと考えてないよな?」


「ちょっとだけ考えてる・・・うう〜ん、まじ本気で考えてる・・・」

「ザッハトルテとミルフィーユが地球にやってきたのも、その兆候かもしれない

じゃん 」

「それに私は充分、すてきな経験をケイスケにもらったし・・・」


「ケイスケ・・・所詮、俺たちは異星人だからな・・・人の血を吸いながら

ここで生きていくってのは厳密に言うと地球の法律に触れる行為だろ?

だから無理があるのかもな・・ 」

「俺やメルバがいるせいで大切な人を死なせちゃったらそれは本末転倒って

もんだよ」


「ピーチまで、そんなこと言うのか?」

「俺は間違ったことは言ってないつもりだよ・・・」

「でも、どうするかは最終的にはメルバが決めることだからな・・・・ケイスケ」


せっかく彼女ができたって言うのになんで、こんなことになっちゃうんだよ・・・。


つづく。

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