第44話 戦国の終わり


秀吉

「…なら…なぜ病で俺を殺す……」


魔物が秀吉に戻るつもりなら死にかけでは困る…と言う事は、病の秀吉に戻る気はない。


秀吉

「やつは戻らない…島国の日本より大陸での大量殺戮を選んだ…」


石田三成

「私は、太閤が病などに負けるとは思いません!」


徳川家康

「…私もそう信じてます」


秀吉

「かりに…お前達が本気でそう思ってても…みろ俺のこのざまを…」


今にも死にそうな姿で横たわる秀吉にそう言われ、二人が言葉を無くす…


秀吉

「…悪魔は実在する… ならば…その対極の神も実在するはず…」


徳川家康

「そうです!神が太閤様を救うはず…」


秀吉

「…だが…そうも行かないようだ…」


秀吉の弱音を聞いて無言になる二人…


「……」


秀吉

「だから…俺が…神になる… そして、裏切った魔物を…必ず殺す」


石田三成

「神になる…それが、新たな志し…」


力を失った秀吉は、思考にも制御が効かなくなっていた…


秀吉

「そうだ…」


徳川家康

「神になる…そんな、術があるのですか…」


… ここまで呆けるとは、哀れなものだ…神に成れるなら、この家康がとっくに成って魔物の秀吉を殺してるよ…


秀吉

「…正直、手探りだ…だが、出来るだけの事はやる…その為にお前達を呼んだ… 三成は西の、家康は東の法力僧を三十三間堂に集めて…俺を神に昇華する経を…唱えさせろ」




… 本気で神を目指すとは馬鹿馬鹿しい話だが、あの様子だと秀吉は長くは無いな …



秀吉亡き後に、天下人を狙う徳川家康は秀吉の死を待ち望んでいた。






三十三間堂


石田三成と徳川家康の召集で、日本中から流派を問わず法力僧が三十三間堂に集結…


秀吉を神に昇華させる為に千人以上の法力僧が経をあげる…

 その姿は神々しくも有り、また滑稽でもあった。


石田三成

「これが、太閤への最後の奉公だな…」


徳川家康

「五大老と五奉行に召集をかけるか…」






三十三間堂 八月十八日



秀吉

「…魔物めぇー殺してやる…くそぉ…死んでたまるかぁ…」


秀吉の魔物への怨み言が虚しく僧侶達の御経の合唱にかき消される…


全身の痛みより魔物への怨みがまさる秀吉は魔物を呪いながら死んだ…


高野山 高僧

「石田様…残念です…」


石田三成

「…そうか…遺体を伏見城に移せ」




秀吉の遺体が伏見城に移され、五大老と五奉行の首脳会談が始まる…



秀吉を離れた戦国の悪魔は朝鮮半島に渡り…下剋上の申し子豊臣秀吉は脱け殻のようになって死んだ…


残された豊臣政権の首脳陣、五大老と五奉行は明制圧の中止を決めた…



これは、すでに秀吉の跡目争いが始まった証だ…



秀吉の跡目争いと言う日本の覇権争いは五奉行トップの石田三成と五大老トップの徳川家康と二つに別れ関ヶ原で激突した…この大イクサに勝利した徳川家康は〝日本の王〟天下人になり徳川幕府いわゆる江戸時代が幕をあける。




戦国の悪魔が海を渡って日本を離れた後の江戸時代はイクサの無い平穏な時代を築いた…

 世界史のなかでもっとも長く戦争の無い平和を築いた時代として江戸時代は評価され語られるが、その結果を出したのは家康ではない…


 江戸時代の平和は戦国の悪魔が消えたからでも徳川幕府の功績でもない…


豊臣秀吉が世界トップレベルの日本の軍事力を世界に示したからだ…

 西洋の列強諸国は日本は危険な国だと怖れ手を出せないでいた…軍事力による抑止力が徳川幕府を支えただけ…

 むしろ、家康は謀反を恐れ諸国の大名の軍事力が上がらない政策をとり、江戸幕府の長い歴史の中で日本の軍事力を衰退させ国力を低下させただけだった。



そして黒船襲来…


 軍事力と言う国の力を自ら失った徳川幕府は黒船と言う戦艦が来ただけで恐れおののき不平等条約を結ばされ〝黄金の国ジパング〟と呼ばれた日本は国内の金を二束三文で買い取られ、徳川幕府の政策のせいで財力までも奪われてしまう。




一方、黒い霧に包まれた大陸では悪意が渦巻き戦争が多発、明朝廷は滅ぼされ大量の人間が死んだ…

悲しみと憎しみ裏切りと悪意を喰らい戦国の悪魔は殺しの螺旋を激しく回す…





信長から産まれ、秀吉で育った戦国の悪魔は、今でも人間の悪意を喰らい地球上で殺しの螺旋を回し続けている…



悪魔は何時でも人の心で目覚めの時を待っている…


必ず誰の心の中にも悪魔は潜んでいる…それは、小さな子供の心にも老人の心にさえも。






          END




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戦国に英雄無し 山光 海闇 @ykaian

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